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MIN-073「相談役、誕生」



「これは素晴らしい、素晴らしいですよ! ユキさん、貴女は救世主だ!」


「あははは……作ったのは私じゃないですが」


 予想以上の反響で、そろばんは受け入れられた。

 数字を扱う場所ということで、領主様の部下である文官の人たちに、だね。


(細かい計算も多いんだろうなあ……)


 ルーナに誘われ、そろばんの献上ついでにお話をと領主の館へ。

 そこで、文官の人たちを紹介されたのだ。


─今後、時折一緒にすることになるユキだ、と。


 出来ればハードルは上げ過ぎないでもらいたいけど、今後予算のお話もする機会が……あるのかな?


「噂では、姫の親戚であるとか……」


「ほとんど庶民ですから、普通で良いですよ、普通で」


 あんまり持ち上げられても、どこかでボロが出そうだ。

 丁寧に接してもらう分には、地球での仕事と一緒だからいいのだけど。


 週に1日は休みとして、3日はプレケース、3日は領主の館で過ごすことにした。

 本当はもう少しお休みを増やしてもいいと言われたけど、今のところ大丈夫だと思う。

 過ごすと言っても、研究のための外出目的であれば自由だからだ。


「何もないなら、相談役という密接な役柄に採用はされませんよ」


「ですかね? 迷惑にならないといいんですけど」


 一通りそろばんの使い方をレクチャーしていると、いい時間になってきた。

 このまま、書類のお手伝いをしてもいいけど今日はユリウス様に呼ばれている。


 挨拶もそこそこに、呼ばれた場所、執務室へと向かう。

 こうして、制服以上ドレス未満な服装で歩いていると、何か演劇でもしているかのような気分だ。


 少し、ヒラヒラした感じが落ち着かない。

 私が通うことを決めた時、ルーナからプレゼントされた服なのだけど……。


「ユキです。入ります」


 返事を受け、中に入ると書類と格闘するユリウス様が疲れた表情で出迎えてくれた。

 思わず、足が止まりかけるのを我慢して前に。


「ルーナが手配した服か……良く似合っている。それなら見た目で誤解されることも減るかな」


「お疲れですか」


 思ったより元気そうな声。

 それが空元気のようなものだと、感じ取れてしまう。


「嬉しい悲鳴という奴だけれども、ね。冒険者が増え、関連する税も増えた。良い事なのだが、書類も増加するとは、多くなってみないとわからないものだね」


 一息ついてる姿は、完全に苦労人の姿だった。

 自分の役柄について、詳細に聞いておこうと思ったけど、後にしようかな?


「自分が何をしたらいいか、気になったのだろう?」


「はい。相談役、とのことですけど……小娘ですし」


 実際、専門的な知識は持ち合わせていない。

 とはいえ、そろばんの事を見る限り、それでも役立てることはできるとは思う。


 数字を素早く扱えるということは、物資の移動や税の取り立てなどに便利ということだからね。


「ユキがどんなことに向いているかは、今後色々触ってみてもらう形で見ようと思う。まあ、目下は魔法の道具を治してもらうことか」


「何か壊れたままの道具でも?」


 と、何かを感じたのか腰に下げた赤熱のナイフからローズが飛び出した。

 そのまま、ユリウス様の肩に乗り、顔をすりすりと……いいなあ。


「慰めてるみたいですよ」


「そうか。精霊にもそういう気持ちはあるのだな……」


 しばらくは、もふもふ具合を味わっていたらしいユリウス様。

 不意に真面目な顔に戻った。


「最初に見てほしいのは指輪だ。祖父の代に装飾品として献上され、私も幼い頃身に着けていたそうなのだが、問題があってね。力の跡がある。それと……」


 いくつかの魔法の道具を紹介され、少し拍子抜けした気分のまま倉庫へ。

 案内された先は、どちらかというと宝物庫っていうのが似合うかな。


 三重の鍵を抜けた先は、丁寧に棚に並べられた数々の魔法の道具(らしきもの含む)

 目移りしそうになるけども、聞いた通りの指輪を確認。


「石が真っ二つ……リング部分は特には……あれ?」


 他に壊れた様子はないけど、何故力の跡を感じたというんだろうか?

 疑問を抱いたまま、一応上下左右と変えていき……気が付く。


(これ、精霊が一回消えてるのかな?)


 いるけど、いない。そんな感じの印象だった。

 この場でいきなりできるとは思えなくて、一度預かることにした。


「こちらが、ユキ様に用意されたお部屋になります」


 メイドさんに案内された先は、前寝泊りした客間より広い。

 家具もなんだか違う気がする……。


 ぽつんと残された私は、ひとまず指輪を箱ごと置いて、部屋を眺める。

 豪華なホテルって感じの室内で、数日過ごすには十分そうだ。


「戻ったのね、ユキ」


「ルーナ! うん、思ったより広い部屋で、びっくり」


 状況的に、ルーナの親戚という建前で押し続けるらしい。

 礼儀作法とか、どこかで練習した方がいいのかもね。


「その指輪が?」


「そうそう。さっそく見てみようかなー」


 ルーナに見守られながら、不思議な指輪をあれこれと確認し始める私だった。






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