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MIN-071「噂の彼女」



「お店の改装と、販売の委託ですか?」


 ある日の夜、二人から語られたのは、新しい未来の話だった。

 プレケースの改装と、魔法の道具を一部他の場所で販売しようという話だ。


「ええ、改装は言うまでもないのだけど……ユキのおかげで、前より魔法の道具が増えたじゃない?」


「このままだと、店内に用心棒が欲しいぐらいだなと……そう感じたんだ」


 もっともな意見に、頷くしかない私。

 実際、生活に役立つような魔法の道具はともかく、攻撃魔法に等しい道具は、怖い。

 今のところ、怪物相手以外には使わないことって書面を書いてもらってるけど……。


(破ったからって何か起きるわけじゃないもんね)


 評判が広がれば、この土地じゃ過ごせなくなるけど、そのぐらいだ。

 例えばそう、全部奪っていこうなんて人が出てきたら……うーん。


「町の中に、集会場の形でギルドを作る話が出たのさ。冒険者、探索者、町を渡る荒くれをまとめようという話だ」


 曰く、領主様も1枚噛んでいるという。

 確かに、今まではいくつかの酒場とかに情報が集まり、個別に依頼を受けていたわけで。

 いかに人脈、コネを作るかがいい依頼を受けるコツだった様子。


 でもそれだと、お互いに都合が悪い時があるんだよね。


「儲けのいくらかを税金として徴収する代わりに、色々と支援もすることにしたいそうよ。薬の割引とか」


「後は飲食の支援もそうだな。切り詰めて、碌に食べないようでは事故も増える」


 つまりは冒険のセーフティということかな?

 遺言や、遺産処理の話まであるのは、ちょっと驚きだけど……。


 ともあれ、そこに魔法の道具を絡めようってことみたいだ。


「自分のように、元冒険者が待機する予定だからな。そうそう問題は起きないと思う」


「それなら安心ですね」


 これまでに、アルトさん以外にも何人か、元冒険者って人に会ったことがある。

 みんな、普通の人よりしっかり強いのは間違いない。


 そうして話は進み、明日からはそのための在庫整理をしようということになる。



「こうしてみると、思ったよりありますね、在庫」


「ほんとね……意外だわ」


「うう、重かったです……」


 カウンター裏のスペースに、魔法の道具を分類していく。

 よくわからないのもあるけど、わかりやすいのもある。


 今回は、そのわかりやすいものを移動させるのだけど……。


「こら、遊ぶわけじゃないから大人しくしてて!」


「よくわからないけど、なんだかいっぱいいる気がします……」


 アンナは今でも精霊を感じることはできるみたい。

 姿は見えずとも、魔法の道具からたくさんの精霊が噴き出てきたことを感じているようだった。


「大人しく並んだ子には先にご飯あげようかなー」


 棒読み気味にそういうと、あっさりと並んでくれた精霊たち。

 内心ため息をつきつつ、その体を撫でていく。

 そうして、力を確かめて分類だ。


「やっぱり火の玉とか、火を生むのが多いですね」


「わかりやすいから……だからこそ、消耗も激しいのだけど」


 一番多いのが火の魔法系、次が風、水、岩、といった感じだ。

 土地によって、この辺は偏りがあるのかもしれない。

 湖がそばにあるのに、水系は少ないのが意外だった。


「ちょこっとだけ火が出るのがあると、お手伝いができます!」


「ええ、そうね。冒険者には不要でも、そういう需要はあるかしら」


「あ、いらっしゃいませー」


 生活向けの魔法の道具、というのもありかもしれない。

 接客をしつつ、整頓を続ける。

 棚卸だっていえば、大体の人は納得してくれる。


 中には、魔法の道具たちをみて、驚く人もいる。


「貴金属を見せびらかすようなものよ? 気を付けなさいな」


「あははは、ありがとう。ルーナも買い物?」


 例えばそう、お忍びといった格好で来店のルーナとかね。

 今日の彼女は、冒険者風の格好でアクセサリーも控えめだ。


「ちょっとした予行演習ね。プラナ様から手紙が来たのもあるけど……はい、ユキの分」


「わざわざありがとう! ええっと……しばらくただの町娘でいるようにってどういうこと?」


 特に隠すようなことでもなさそうなので、ルーナにも読んでもらう。

 だんだんと彼女の表情が硬くなっていく気がした。


「なるほどね……ユキ、こっちの手伝いをする気、ある?」


「ええ? 話が見えないんだけど……」


 良くなさそうなこと、というのだけはわかる。

 硬い表情のルーナに、何とも言えない表情を自分も返している自信がある。


「ユキお姉さん、お茶をどうぞ。綺麗なお姉さんも」


「あら、ありがと」


「アンナ、ありがとう」


 ベリーナさんが気が付いて、アンナをよこしてくれたのだろう。

 カウンターの隅でという少々、行儀が悪いけど暖かいお茶を飲むと落ち着く。


「簡単に言うと、役職を背負ってみない?ということね。地方とは言え、領主の部下になっていれば、そうそう引き抜きは出来ないから」


「引き抜き……? それがプラナ様とどういう……」


 プラナ様は、中央からの使者だ。

 地方がちゃんと領地を治めているかという目的で巡っているという。

 ただ、これ自体は左遷的な意味もあるようなんだけど……。


「少しキナ臭いということみたいね。中央が戦力を集め始めているとか。ユキもついでに引っ張られないようにってことね」


「私が、そうされるだけの価値があると思われた?」


 無言の頷き。

 喉が渇いた気がして、残りを飲み干してしまった。


「冒険者をしてる、とかだとすぐ引っ張られるわ。でも、さっき言ったように既に役職があるような立場なら……ね」


「でも、私政治とかできないよ?」


 精々授業で色々習ったぐらいだ。

 案外、使える物はありそうだけど、それはそれ。


「ええ、実質は相談役、ぐらいかしらね。また話をまとめたら来るわ」


「ええっと……うん。気を付けて?」


 話もそこそこに、帰るというルーナを見送る。


「ユキお姉さん、どこかにいっちゃうの?」


「そうならないですむようにってことみたい……だね」


 急展開に、まだふわふわした感じの残る、私だった。


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