MIN-065「大自然の驚異」
普段は、町の近くで見ない怪物たち。
そんな奴らが、出没し始めたのは春も後半といった時期。
出来れば、早めに収束して畑の事もやりたい、そんな時期だ。
「お爺ちゃん。出てきたら、一緒に逃げましょうね」
「よっぽどじゃないと大丈夫だと思うんだがのう」
緊張しつつも、そういうベリーナさんのお父さん。
面倒だから、お爺ちゃんって呼んでるけど。
確かに、町周辺は討伐が進み、昼間に見かけることはなくなった様子。
でも、街道を進めばいつもよりいるのはまだ変わらないのだとか。
「ここは田舎。昔は、毎晩見張りをしたもんだ。それでも、開拓当初よりは……」
「うふふ。私たちが2人で見張りをしたのが、馴れ初めでしたねえ」
休憩の雑談で、お婆ちゃんが懐かしそうにつぶやいた。
お爺ちゃんの方は、恥ずかしそうだけど……良いな、ロマンチック!
食生活とかは、地球のそれとは違うけど、人の生活そのものは、やっぱり変わらない。
不便なところは当然ある。あるけど、楽しいこともいっぱいだ。
「落ち着いたら、ウィルくんたちと一緒に、釣りでもしませんか?」
「そりゃあいい。孫に、いいところ見せてやらんとな」
「あらまあ。まだ釣りがなんだかわかりませんよ、きっと」
ひとしきり笑った後、残りの農作業。
採取も終えて、3人で町へと戻る。
プレケース、要はベリーナさんたちにもおすそ分けを持っていきたいという2人。
たぶん、孫の顔が見たいんだろうね。
無事に門を越え、町中へ。
そのまま雑談をしながら3人で歩いていると、スライムの時と同じく、ローズが反応した。
視線の先には、街道。今は何もいないけど……。
「何か来る……お爺ちゃんたちはプレケースへ!」
遠くに、何かがいるっぽい。
みんなに知らせてと叫び、荷物を脇において走らせる。
何かが逃げて来たのか、わざわざ来たのかは、わからないけど……。
「牽制ぐらいなら!」
門を抜け、街道まで走ったところで遠くに小さな影が見えた。
スライムを退治できたことで、私にも余裕が出来ていたのだろうか。
どこか落ち着いた気持ちに戸惑いつつ、構える。
危ない真似はせず、かといってただ逃げるだけはしない。
「驚いて逃げてくれるかな? 赤き力よ、集え……えいっ」
チャージもそこそこに、火の玉を撃ちだした。
狙い通り、影の前ぐらいに着弾。
逃げてくれるかと思いきや、影は迂回してくるだけだった。
「四つ脚の何か? 町に来るなあ……」
他にも魔法の道具を常備しておくか、魔法のバリエーションを増やしておけば……。
少しばかりの後悔が浮かぶけど、まさに後の祭り。
どうしたものか、というところで一度振り返った町から人影。
「ここは任せて、下がるんだ!」
「お願いします!」
駆け寄ってきてくれたのは、顔なじみの兵士さん2人だった。
前衛は彼らに任せて、私は援護の方が間違いない。
しばらくして、やってきたのは興奮したイノシシ。
少し形が変だから、怪物に足を踏み入れた奴みたい。
幸い、他にはいないようで……。
「はぐれか……追い出されたのだろうな」
退治後のそんなつぶやきが、私の耳に残った。
一体何が、起きているのか。
不安を抱えつつ、私は町で過ごすしかない。
冒険者の人たちは、危険は承知の上でということでダンジョンに潜ってるらしい。
(そりゃ、動かないとお金がなくなるもんね)
周囲の討伐となれば、そう大きくお金が動くわけじゃない。
確実に怪物や回収できるものがあるダンジョンとは、収入が違いすぎる。
何もいないときもあるようだしね。
「魔法……魔法」
「あまりかさばる物は微妙よねえ」
いざという時に備えて、ベリーナさんやアルトさんと相談しつつ、魔法の道具を確認する。
どうも私の場合、攻撃魔法は何か道具を介さないと発動しないのだ。
いくつかの道具を見繕いつつ、警戒を続ける。
そして、ついに元凶が発見された。
正確には、見えてきたというべきなんだろうか。
「……大きいですね」
「ええ……まさかの相手よ。ここ100年、この土地じゃ目撃例もないわよ」
家の外に出て、みんなと見つめる先は、町から遠い小山。
その場所に、明らかに何かが突き出ている。
「トレント……」
誰かのつぶやきが聞こえたわけじゃないだろうけど、不思議な巨木が、枝を動かし始めた。
ここからじゃ見えないけども、その枝に獲物が絡みついているはずだ。
大地からも、生き物からも栄養を奪う……それがトレント。
ユリウス様から、冒険者全体にトレントの討伐報酬が設定されたのは、それから間もなくのことだった。
「ベリーナさん、私、行ってきますね」
「ユキ……」
義理はない。それに、危ない目にあう必要もない。
お金だって、稼ぐ必要もそんなにない。
けれど、私は何もしないというのも、嫌だ。
前線で戦うようなことはできないけど、出来ることをしよう。
「ベリーナ、俺がついていく。大丈夫だ」
「ええ、いってらっしゃい。アナタ」
私が来る前も、似たようなことはあったんだろう。
そんなことを感じさせる時間を見守り、一人決意を新たにする。
鼻に届く春らしい香りも、今日だけはなんだか違って感じるのだった。




