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MIN-005「出会いは突然に」


「あ、またいた」


 朝、お店を開ける前の掃き掃除は大事な仕事だ。

 異世界でも、箒ってあんまり変わらないんだなあと思いつつ、お店の回りを掃き掃除。


 なんだか汚れがたまってるなあってところに、ぐにょっとしたよくわからない物が。

 パン屋さんで見たのと、よく似ている。

 あの時と同じなら、ナイフで一発っぽいけど……。


「そもそも、これってなんだろう?」


 幸い、アルトさんはまだ出かけていない。

 準備に忙しいだろうけど、早いうちに聞いておいた方がいいような気がした。

 そう思って呼びに行くと、ベリーナさんもついてきた。


「ユキがわざわざ呼ぶんだもの。何かあるのかなって思って」


「たぶん、大したことじゃないですよ? あれなんですけど」


 一応、ベリーナさんはなんとなく感じられて、アルトさんは半透明だけど見えるってのは知っている。

 私が指さした先を、ベリーナさんは不思議そうに、アルトさんはお?って感じで見つめるのだ。


「よどみじゃないか。良く見つけたな」


「ああ、道理で。うっすらと何かあるなあというぐらいね」


 どうやら、なかなか見つけられない物のようだ。

 形を説明すると、アルトさんでもそこまでは見えないらしい。


(いうなら、ここかな。隠しててもしょうがないし)


 物のついでではないけれど、パン屋さんでの出来事も一緒に伝えると、驚かれた。

 これは精霊とは違うけど、同じような力の塊、らしい。

 発生理由はわかっていなくて、いろんな場所に出てはそのうち消えるんだとか。


「パン屋のは、大方修理の時になじませるのをサボったんだろう。そうやって修理した時とかに、古い場所と新しい場所でズレが出る時があるんだ。ユキ、ナイフを見せてもらっていいか?」


「ええ。毎晩遊んでますけど、続けたほうがいいんですかね?」


 寝る前に、ナイフのわんことは指先で遊んでいる。

 もふもふだし、すべすべだし、触ってて気持ちがいいのだ。

 さすがに抱きしめて寝るには小さいし、鞘からナイフを出しっぱなしというのも問題だ。


(大きいのがいると、いいんだけどな)


 アルトさんがナイフを観察している間、ベリーナさんは楽しそう。

 不思議に思い、視線を向けると微笑まれた。


「ふふふ。別に大したことじゃないのよ。アルトはこういう話が好きで、あちこち首を突っ込むの。昔から変わらないわ」


「ただ気になることが世の中に多いだけさ。ありがとう、ユキ。結論から言うと、精霊の力が上がっている。それこそ、冒険に出た時に怪物相手に使うのにも問題がないぐらいだ」


「そんなにですか? へぇ……」


 よくわからないけど、品質が良いのはいいことだ……と思う。

 ふと、価値も上がってるのかなと考えた。

 なぜなら……。


「うーん、こういうのを何本か治したら、アルトさんの防具とかも買えますかね?」


「ユキ、前の話を気にしてたの?」


 ベリーナさんに頷くと、少し悲しそうな顔をされた。

 別に、そこまで気にしてるというか、必死なわけではないのだけど……。


「現役を引退してるのは確かだが、そこまでヤワじゃないさ。でも、ありがとう。仮にユキの力で稼ぐとしても、自分のために使いなさい」


「ええ、そうよ? 私たちはこれまでも暮らしてきたのだから、大丈夫」


 朝も早い時間だというのに、2人の優しさに全身を撃ち抜かれた気分である。

 涙ぐんでしまい、それでまた慰められてしまった。


 お店に入り、泣き止んだ頃にはアルトさんは出かけるところだった。


「今日も仕入れですか」


「ああ。少し行ったところに、遺跡があってな。そこに潜るやつから、売り物になりそうなものを買い取っているんだ」


「そう言いながら、駆け出しがピンチになっていないかとか、見に行ってるのよこの人」


 あっさりとネタばらし。

 遺跡、というからには危ない場所だ。

 でも、それだけ人が行くということは、だ。


「もしかして、怪物が何度も出てきたり、たまに変な箱があったりするんですか?」


「よくわかったな。ユキの世界には怪物はいないんだろう?」


「平和って言ってたものね」


 私のように、別の場所から来たらしい人間は落とし子って呼ばれてるらしい。

 だから、私が別の世界から来たっぽいことは、既に話してある。

 まあ、一番驚かれたのは、本当はもっと年上で背格好も若返ってるっぽいことだけど。


「そうですね。遊びというか、物語にそういうのがあるので」


「なるほどな。俺たちの知ってる童話でも、まさかと思うようなものがある。似たようなものか」


「アルト、時間じゃない?」


 お話してるうちに、結構な時間がたっていたらしい。

 慌てて出ていくアルトさんを見送り、私たちは店番だ。


 もう慣れて来た手順でお店を開け、接客開始である。


「こんちはー」


「いらっしゃいませ。ご用件は……もしかして、買い取りですか?」


 時間はいつの間にかお昼前。

 やって来たお客さんは、ぼさぼさ頭の冒険者。

 背負い籠に野菜でも入れるかのように色々な物を入れた状態だった。


 買い物をするには、遅い時間。

 ふと思って、聞いてみたら正解だ。


「そう思ったんだけど、アルトさんはいないか……」


「ユキ、何かあった? あら、久しぶりじゃない」


 どうやら、初めての人ではないらしい。

 ベリーナさんとお客さんが話してる間、気になって床に置かれた籠を覗き込む。


 座布団みたいに使えそうなたくさんの毛皮、折れた剣、丈夫そうなこん棒。

 よくわからない液体の入った瓶たち。

 それに、革袋。


 瓶も気になるけど、一番気になるのは革袋だ。

 一見すると、お店でも見たことがあるような奴なんだけど……。


「気になる物があった? 私もアルトほどじゃないけど物はわかるわよ」


 声をかけられ、ベリーナさんに思ったままを告げる。

 実際、武具たちはただの中古扱いらしい。

 そして、瓶の中身は専門のところで鑑定しないと危ない。


 最後に残った、革袋。

 赤熱のナイフと、同じような感じを覚えたと言えばわかるだろうか。


「適当に使おうとしたら、中がじめっと湿るんですよ。水筒にするには怖いし。どうしたものかなあって」


「そういうことね。いいでしょう、帰ってもらうのもなんだし、このぐらいでどうかしら」


 まるでそろばんをはじくように、ベリーナさんが提示した金額に冒険者さんは満足して帰っていった。

 籠の中身を、空きテーブルに乗せてみるだけで、なんだかそれっぽいお店に感じるから面白い。


「剣は鋳つぶすわ。こん棒は、必要な人もいるでしょう。毛皮と瓶は伝手があるからそっちに回すとして、革袋ね。感じたんでしょ、ユキ」


「はい。たぶんこれ、魔法の道具ですね」


 昔、テレビでも見たようなものだ。

 水筒代わりの、革袋。

 飲み口を縛る紐が、なんだか豪華っぽい。


 手にしてみると、確かに中はしっとり湿っている。

 渇く様子がないのだけど……んん、手ごたえ。


「待って。やるのはアルトが帰って来てから、居間の方でね」


 頷いて、ひとまず引っ込めておく。

 その後、夜になる前にはアルトさんが帰ってきた。


 食事を終えて、2人の前で革袋に集中する私。


「魚が浮いてます」


「確かに魚っぽいな」


「浮いてる、わね」


 3人の視線の先で、弱った感じの金魚みたいなのが、浮いていた。

 精霊って……魚型もいるんだ、とつぶやく私だった。



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