MIN-055「小物と一緒、もこもこと一緒」
夢だとわかる夢を見るのは、久しぶりだった。
ふわりと浮き上がり、大自然を眼下に空中散歩だ。
「なんだろ……」
森や川、何でもないような地面からも、小さな光の球がふわりと浮いて……。
「……朝?」
そのうちの1つを掴もうとしたところで、目が覚めた。
一体何だったんだろうと思う中、視界に同じような光の球が……。
「おはよう、ローズ」
その正体は、狼の姿を取る前のローズだった。
つまり、あれは精霊たち……だったんだろうか?
着替えてすぐに、肩に飛び乗ってくるローズ。
もう、狼というよりは仲良しなワンコだ。
「ローズはいつも、元気で毛並みがいいね」
残念ながら、声は聞こえないけど気持ちはわかる。
表情豊かに、笑顔なのがはっきりとわかるのだ。
と、ローズが鳴くような仕草をしたかと思うと、小さく遠吠えのような何かが。
「お話できるようになると、いいね」
やっぱり、わかることとお話できることとは違うのだ。
そう考えつつ、ふわもことした体を撫で、キッチン兼リビングへ。
今日は既に、ベリーナさんが起きていた。
「おはよう、ユキ。今日は山菜の揚げものよ。たまには食べたくなったの」
「やった。私、山菜好きなんですよね」
「アルトは、向こうでゆでて食べるとか言って、揚げる前を持って行ったわ」
アルトさんらしいというか、なんというか。
現地へ向かうのに、運動することになるから朝からは油物はちょっとということかもしれない。
この世界の油は、まだ色んな雑味みたいなのも混じってるけどそれはそれでという感じ。
手際よく揚げられる野菜や山菜の香りが漂う中、私はウィルくんの子守だ。
今日も、ぬいぐるみの精霊は元気に動き、彼の相手をしてくれている。
と言っても、なすがままというか、握られたり引っ張られたり。
(たまに痛そうにするから、教育にもよさそうだなあ)
「お待ちどうさま。ユキはお芋の揚げたのも大丈夫よね?」
「大丈夫ですよ。あ、皮は油を綺麗にできるはずですから、捨てないでいいですよ」
ふと思い出した、母に教えてもらった生活の知恵。
いろんな場所に、自分のこれまで過ごしてきた環境が恵まれていることを感じるのだ。
そして、案外学校の勉強も、捨てたもんじゃないな、って。
「後で試そうかしらね。油は貴重だものね」
頷き返し、そのまま食事を終えて、いつものようにプレケースへと……。
これまでのように、店番が始まると思っていた私の前に、いつもと違う光景が飛び込んできた。
「わっと……あれ、精霊たち?」
そう、お店のあちこちに、精霊の獣たちがいたのだ。
数が多いわけじゃないけど、これまでにはなかったことだ。
原因を考え、すぐに思い当たる。
「どうしたの、ユキ。あらあら……あっちの村の子?」
「ええ、多分。見覚えがあるので」
答えていると、精霊たちは自分の宿っている物を思い出したように移動し始めた。
そして、何もありませんでしたよ?なんて顔をしてちょこんと待機だ。
「もう、遊ぶのは自由だけど、人を脅かしたら駄目だよ?」
一番近くにいた鳥型の精霊の鼻をツンってつつけば、逆に魔力をつまみ食いされた。
そういえば、ご飯が必要ではあるんだよね。
掃除ついでに、精霊たちに魔力のご飯をあげていく。
不思議と、そうするとお店の雰囲気も明るくなっていくような気がした。
「おはようございますっ!」
「おはよう、パンはそっちにおいてもらおうかな」
朝早くやってきたのは、パン屋でアルバイト中の男の子。
最初は、魔法を覚えてダンジョンに行きたがっていた子なんだよね。
今は、しっかり修行中みたい。
「わかったよ。これが全部売れちゃうんでしょ? すごいね」
「ここは外の色んな人が来るからね」
そう、本当に色んな人が来る。
元気な人も、ちょっと元気のない人も。
お金持ちも、普通の人も。
「あのー、装備の相談って出来ますか?」
「え? どのぐらいの物を……」
男の子と入れ替わりに来たお客さんみたいに、村人に毛が生えたぐらいの冒険者だって来る。
本格的な助言は、アルトさんじゃないとできない。
でも、このぐらいの相手だとベリーナさんや私でもわかる。
というのも……。
「まずは傷薬、毒消し、後ロープと非常食。それに、これ」
「良い装備とかじゃなくて?」
私の勧めた内容に、きょとんとする若い冒険者。
これは間違いなく、農家の三男坊とかで飛び出て来た口だ。
偶然、そばにいた木の樽に宿るリスも、首を左右に振っている。
意外なことに、精霊は人間のことがわかるのだ。
「武器はなんでも、使い慣れるのが一番らしいですよ。それよりも、生き残って帰ってくることが大事です」
半分ぐらいは、地球で遊んだりしたゲームとかの知識も混じるけど、説明をする私。
1つ1つに、頷いてるあたり、素直な冒険者みたいだ。
結局、プレケースの売り上げに普通に貢献した形で、店を出ていった。
「ふふ。ユキもいっぱしの店員ね。見事なものだわ」
「えへへ。まだまだですよ。さ、次のお客さんにも買ってもらわないとですね!」
褒められたのが妙に照れくさくて、声をあげる私。
背中に、ベリーナさんの視線を感じつつ、店番の再開である。




