MIN-054「一件落着?」
「随分ついてくるのね」
「そうなんだよね。一緒に行くって言ってるっぽい」
焼き物を発展させた村で起きた、不思議な出来事。
いたずらぐらいで済んでいる内はいいけれど、悪化したらどうしよう、そんな状態。
ユリウス様からの依頼という形で、ルーナと一緒にその村へとやってきた私。
結局、急な開発と、精霊への敬いの少なさが引き起こした事件だった。
悲しげに、怒らずにただただ、見つめてくる精霊の姿は、感じる物があった。
一緒に生きていきたいのにという精霊たちの願いを、上手く村人に伝えられたと思う。
「姫様、感じられませんが、それほどに?」
「どこまでついてきてくれるかは、わからないけれども……10はいるわね」
ルーナの言葉に、ぎょっとした様子で周囲を見渡してしまう女性騎士さん。
外で聞いていた兵士さんも、気になる様子だ。
みんな、もこもこした動物の姿だから、可愛いと思うんだけどね。
やっぱり見えないっていうのは怖いというのか、気になる物らしい。
「こっちが、岩にいた狼さんで、こっちが花にいた鳥さんかな。今は、こっちに移ってるみたい」
そういって取り出すのは、村の人たちからもらった、名産品。
名産品と言っても、焼き物をはじめとした道具たち。
(開発で悲しい目にあったのに、その出来た物にくっついてくる……うーん?)
結局、精霊のことがわかったような、わからないような。
これまで、魔法の道具や、自然のなにかに宿る物だと思ってたけど……。
それに、力も決まってると思っていた……でも、目の前の光景はそれを否定する。
「確かに精霊だけど、何かできるわけじゃないのね」
「うん。魔法の道具みたいに、色々出来るわけじゃないみたい。ただそこにいる、みたいな」
実際、例えば火の球を打ち出す力を持つような精霊はいない。
せいぜいが、宿っているものを転がすぐらいで、特別な力はないと言っていい。
同じ精霊って呼んでいる物でも、何か違うのかなと思う。
そのあたりは調べていけばわかるのかもしれないけど、大事なのは今だ。
「最近、精霊のもふもふ具合が増した気がするんだよねー」
「……良い事なのかしら……」
膝の上に、大人しく寝てくれてる猫精霊(ちなみに白黒のぶち)を、撫でる。
精霊とは思えないぐらいもこもこで、そしてそこにいると感じる力。
これは、精霊の力というのか、魔力みたいなのを感じてるんだろうか?
疑問はいくつか残るけれど、事件自体は解決できたはず。
良い報告が出来ることに、内心満足しつつそのまま帰りの旅へ。
大きな事件もなく、無事に町が見えてきたころには、ルーナも精霊の事を気にしないようになっていた。
「なんで、がわからない状態であまりばたばたしてもね」
「また何かわかったら連絡するね」
じゃ、とプレケースへ帰ろうとした私を、がしっとルーナが掴んできた。
良い笑顔と言えそうな、にこにことした表情。
「駄目よ。報告はちゃんとしなきゃ」
「うっ……ですよねえ……はは」
正直、ちょっとめんどくさいことから逃げただけである。
あきらめて、騎士さんや兵士さんたちと一緒に領主の館へ。
到着してしばらくすると、執事さんが呼びに来た。
ちょっとどきどきしながら、招かれた場所へ行けば……報告というより、お茶会といった様子。
「ユキにはこのぐらいの方がよいだろうと思ってね。あまり偉そうに話すのも疲れるのさ」
「そういうことなら……」
柔らかい口調のユリウス様。
仲良くなれた、ということなんだろうか?
それがいい事なのか、なんとも判断しにくい。
勧められるままに座り、出されたお茶を頂く。
ほんのりと鼻に届く香りに、思わず頬が緩むのを感じた。
「リラックスできると聞いている茶葉だ。その甲斐はあったようだね……話を聞いて良いだろうか?」
頷き、そばにいつの間にか来たルーナと一緒に、村であったことを話す。
あまり村人に責任がいかないように、言葉を選びつつ、だ。
なんとなく、ここで村人に処罰があるのを精霊も望まないような気がしたんだ。
「なるほど。やはり、精霊の事を教育とまではいかずとも、伝えていく必要があるということだね……」
腕組み、目を伏せるようにしてつぶやく姿からは、後悔を感じた。
お父さんから領地を引き継いで、大変なんだろうなと思う。
地球で言えば、20代でいきなり社長になるようなものだ。
「ありがとう。これで村の平和も保たれるだろう。また何かあれば、ぜひ頼めるかな」
「そういう事件がないほうがいいとは思いますけど、私にできることであれば」
そう答えると、それでいいとばかりに笑顔が返ってきた。
こういうところが、貴族というか偉い人って難しいんだよね。
疲れを内心に隠しつつ、時間を過ごす。
プレケースまで送ってくれるという話になり、ルーナと別れの挨拶だ。
「また遊びに来てよ」
「ええ、そうね。何かの誘いというより、遊びにね」
こうして、春の事件はばたばたするうちに、終わるのだった。