MIN-053「共存を目指す・後」
悲しみ、嘆き、そして疑問。
驚くほど、精霊たちは優しかった。
そう、優しいのだ。
「すごいね。こんな状態なのに、みんな人間が嫌いだから、じゃないんだ。どうして、なんだ」
先頭に座る、黒うさぎにそっと歩み寄る。
後ろでは、ルーナが止める気配がするけど、大丈夫。
ゆっくりと手を触れると、とても冷たかった。
手のひらから、熱が動いていく感覚。
どこまでも深く……。
「ごめんね、わかってあげられなくて」
たぶん、私の力で彼ら?を治すことそのものは出来る。
だけど、今のままだと止血せずにいるようなものだから、結局繰り返しだ。
「ルーナ、どうしたらいいと思う? ただ言うだけだと、納得しにくいと思うの」
「そうね……精霊は見えない人も多いから。力が高ぶると、見えることもあるのだけど」
普通の人でも、力の強い場所や、そばで大きな魔法が使われると余波みたいなものがあるらしい。
体の中に、魔力が勝手に入り込んでしまうからなんだとか。
地球でも、幽霊を見たとか、不思議な物を見たとかはこういうことなんだろうか?
でも、それならば……。
「じゃあ、こういうのはどうだろう? まず、説明をする。信じない人の方が多そうなら、私が魔力をえいって出す。そしたらこの子達見えるでしょ?」
「ユキ、どうやって魔力を出すの。貴女、道具を介さないと駄目なんでしょ」
確かに、彼女の言うように私はそのままだと魔法、正確には魔力を外に出せない。
でも、正確には違ったのだ。
道具を介さないと、ではなくて、何かを介さないと、だったのだ。
「うん。だから、ここを使うの」
指差すのは、大地。周囲の地面に、力を注ごうと思うのだ。
なんとかなるだろうけど、力の使い過ぎで後は寝ると思うと告げると、呆れられてしまう。
「あのね、そういうのは最終手段という奴よ? もう、ユキは……でも、私を信頼してるということよね」
「そうそう、そういうこと」
まだ出会って短いというのに、なぜかルーナとは気が合うというのか、話しやすい。
波長なんてことは言うつもりはないけど、なんだろうね。
戦うことがないとわかって、ちょっと拍子抜けした様子の兵士さんたちを連れて、村へ。
最初は、村長宅だ。大っぴらにやるかは別にして、話を通さないとね。
「これはこれは……お久しぶりですな」
「ええ、久しぶり。さっそくなんだけど、村の異変、理由がわかったわよ」
どうやら村長さんはルーナの事を知ってるみたいで、変装にすぐ気が付いた。
そうなるとルーナも隠す必要がなく、いかにもな態度で村長さんに告げるのだ。
驚く彼を座らせて、事情を説明。
お爺ちゃんっぽいだけあってか、話自体は覚えがあるみたい。
「なるほど……確かに昔、開拓村がおかしなことになった時も、祠を建て、手順を踏むようにしたと聞いたことが……しかし、今の若いのが信じますかな」
「そこよね。というわけで策はあるの」
え?と疑問を顔に浮かべる村長さん。
ここからは、私の出番という訳で。
しばらく話をした後、村長さんの呼びかけで主だった村人が集まることになった。
ちなみに、ずっと黒い子達はついてきている。
怒った風ではなく、寂しそうに村の中を見つめているのが、とても印象的だ。
手が離せない人を除き、広場に続々と集まってきた。
ある程度のところで、村長の口から急な開発と、精霊への敬い不足が原因だと告げられる。
結果は、微妙なところ。
信じてる人もいるし、そうでない人も……まあ、当然よね。
「ユキ」
「うん。お願い……みんなと、お話しよう」
地面に手をついて、周囲にあるだろう力を意識する。
前に、魔法の道具をまとめて治した時と同じように、自分の力だけじゃなくて……。
「目覚めよ……大地」
それらしく呟いて、力を流した瞬間、私の目には地面が光って見えた。
何かが、伝わって波打つ。
(これ、なんだろう?)
魔力というには、とても大きくて、優しい力。
大体村中の範囲にそれは広がり、周囲が一時的に魔力的に豊富な場所となる。
ざわめく村人たち。きっと今、彼ら彼女らは、魔法使いと同じ視界を得ている。
となれば、見えるんじゃないかな。
何とも言えない瞳で、自分たちを見つめる精霊の獣たちが。
「この子達は、精霊です。でも、怒ってるわけじゃありません。同じ世界に生きているのに、何故こちらのことを考えないのか? 一緒に生きているのに、どうして、と」
「開発を辞めろという話ではないのよ。彼らへの敬意をというわけなの」
私とルーナによる説得が始まり、その間も黒精霊たちはじっと座っている。
それだけでも、乱暴な相手じゃないことがわかってもらえたと思う。
結局、彼らはわかってほしかったのだ。
だけど、攻撃をするわけじゃない。
気が付いて!とアピールしていたんだ。
10分ぐらいだろうか?
話終わった後、村長からの問いかけに、村人たちは頷きを返してくれた。
それは、一時的に見える状態が終わった時間でもあった。
「すぐには無理かもだけど、何とかなると思うよ」
私たちだけが見える黒い子達に呼びかけると、ちょこんと頷いて帰っていった。
見た目は黒いけど、精霊は精霊なんだなと感じる姿だ。
「ねえ、ルーナ」
「ユキがやれるなら、いいわよ」
幸い、倒れるようなことはなかった。
きっと周囲の力を使えたからだと思う。
だから、今度は私が自然にお返しをする番かなというわけ。
具体的には、伐採された場所で頑張る。
「姫様、私は彼女を抱えて帰る形でよろしいでしょうか」
「ええ、女性の方がいいだろうし、お願いするわ。ユキ、多分立ってられなくなるんでしょう?」
「たぶん、ね」
一応怪物を警戒しつつ、再び伐採が一番ひどい場所へ。
その中の切り株の1つに、そっと手をやる。
(くじらさんを治した時のように……)
あの時は、精霊だったからできたと思った。
でも、違うんだ。
生きているなら、もう精霊が一緒にいる……そういう世界なんだ。
「……呆れた。もう若芽が出て来てるじゃない」
「さすがに、成長までさせるときりがないからね」
そういうことじゃないんだけど、とルーナに言われつつ、切り株たちを順々に回る私。
そして、その日は村に泊まることになるまで、頑張ってしまうのだった。