MIN-050「自然とのバランス」
「なるほど、これで方角が……」
「ああ。周りが鉄だったりすると問題だが、普通に使う分には問題ない」
試作方位磁石を試したアルトさんは、帰ってくるなり私を連れて領主の館へ。
突然だというのに、ユリウス様は快く迎えてくれた。
建前はお茶会の場で、アルトさんがさっそく報告をしている。
私が報告するより、アルトさんからのほうが話が分かりやすいだろうという判断だ。
実際、私からだとどのぐらいの影響がある話か、見えないところ。
(便利だなーじゃ、いけないんだよね)
「行軍の具合が変わるな。特に、敵地や開拓地では……」
真面目な表情で、優雅にお茶を飲むユリウス様。
それだけで、なんというか眼福である。
ふと目が合い、微笑まれた。
あ、これは為政者モードだ(勝手に私が呼ぶことにした)
普段は、もっと柔らかい口調らしいとルーナからこっそり聞いている。
「心配せずとも、妹のお気に入りだ。それにこうして貢献をしてもらった以上は中央には……な」
「い、いえ。そういうつもりじゃ……」
どうやら、他所に行きたくないから頑張っていると思われたようだった。
慌てて否定しつつ、部屋の中に視線を向ける。
落ち着いてみてみると、バランスが悪いというか、ちぐはぐな調度品だ。
「気が付いたか? この部屋は、領内からの献上品を集めている。どこで何が出来て、どう売り込もうかと考えるのにも使っているのだ」
見本市、といったところかな? ……あれ。
常に装備してるように言われている、護身用としての赤熱のナイフの柄に手を伸ばす。
「アルトさん。あの鉢植えの裏」
「ん? む……」
久しぶりの、よどみだ。
なんでも、精霊に至れなかった力がこうして詰まるようによどみとなるらしい。
放っておくと、いたずらされたようなことが起きる、あまりいいものじゃあない。
しかも、なぜか複数の鉢植えに同時によどみがある。
こんなに一度に見るのは、初めてだ。
「えいっと……これで終わりみたいですね」
許可を得て、よどみを赤熱のナイフで突き刺す。
少し揺れたと思うと、燃えるように消えていくよどみ。
ローズもまた、役目を果たしたとばかりにポーズだ。
(よしよし……お腹壊さないようにね)
「皆、新しめの鉢植えだな。これはどこから?」
「どうだろうな……誰か」
よどみをばくりと食べるローズを撫でつつ、ユリウス様が人を呼ぶのを見守る。
そうしてやってきた、執事な感じの人と会話が始まった。
聞こえた限りだと……。
「川沿い、上流にある別の村からの輸入ものらしい。新しく製法を試してるとのことだが……」
「ちょっと失礼します……確かに、プレケースにあるのとは違いますね」
目利きなんて言えるほどじゃないけど、焼かれ方の違いぐらいはわかる。
小物や雑貨を集めていれば、色んな知識が浅く広く入るのだ。
しっかり見ていけば、プレケースで取り扱ったことがないこともすぐわかる。
たぶん、特別な製法って訳じゃあないと思う。
でもこの状況……うん。
よどみも、考えてみると何か言いたそうな感じだった。
精霊もどきというか、精霊になりきっていないだけというか……。
「たぶんですけど、開発を無理にしてるんじゃないですか? 森を勢いよく切り開いたり、それで力がゆがんでるんじゃないでしょうか」
「一気に遺跡を攻略しようとすると、魔物のバランスが崩れてくることがある……近いかもしれん」
「使いを出そう。何かあってからでは、遅いからな」
変なところで、話が大きくなってしまった。
何もなければいいのだけど……どうだろうね。
そのまま解散となり、私はアルトさんと一緒に館を出る。
外では、何かの工事が始まっていた。
「税収が増えたのもあり、防壁を作ろうということになったらしい。いざとなったら逃げ込めるように」
「あー、大事ですよねえ……」
魔物がいる世界だし、戦争だってないわけじゃないだろう。
平和が一番だけど、平和の維持にも色々必要だしね。
帰り道、さっそくの使者だろう人が馬で駆けていくのを見送る。
「そういえばユリウス様の領地は、どのぐらいの広さなんですか?」
「言ってなかったか。確か他には6つの大き目の村と、その近くにある遺跡、ダンジョンたちといったところだ」
なんでも、プレケースがあるこの町自体が一番大きく、館もそのためにそばにあるとのこと。
他の場所は、まだ村ということで……うーん、すごいのか、あまりすごくないのか。
「数年もすると、もっと大きくなるだろうな。国を挙げてダンジョン攻略は推奨されている。なにせ、コアを潰さない限りは、資源がたくさん得られるのだから」
「命の危険と引き換えに……ですね。うーん、うまく回ってるような、危ないような」
あれこれと考えつつ、プレケースに戻る私たち。
その日は他には何もなく、ごく普通に過ごした。
数日後、プレケースにやってきたのは……いかにも悩んでますといった表情の、ルーナだった。