MIN-042「さいころを砕け・後」
実際のところ町の近くには遺跡、ダンジョンはいくつもある。
入ったのは、そのうちの1つ。
駆け出しが良く潜る場所で、危険度は少ない……そう聞いている。
「アルトが戻ってこないって、よっぽどなのよね」
「そういえば……私、強いってことしか知らない……」
潜ってすぐ、小休止に使われる小部屋のようなホールに出た。
出入口は交代で見張ってもらうとして、作戦会議だ。
時間は深夜、町では眠る時間だけど、ダンジョンではそうもいかない。
そもそも、そんな時間まで潜ってるというのが予定にないはずなのだ。
「アルト殿が現役の頃は、我々もよく稽古をつけてもらったものです。訓練と実戦の違いを体で覚えろと」
「ふふっ、なんだか思い浮かぶようです」
意外と、アルトさんは優しいようで厳しい。
出来ることはやろう、ってしっかり言ってくれるんだよね。
このダンジョンにいないってことは……無いと思う。
そうなると、どこまで潜ったんだろうか。
「ここはそんなに深くはないはずなのよね……」
休憩を終えて、再び少しずつ奥へ。
ルーナのつぶやきに、何事もないといいなと思いつつ……!
「何か……ううん、変な感じ。ルーナ、これ魔力?」
「? 本当……足元からジワリとくる感じね」
言うなれば、足元だけ冷えるような感覚。
一層警戒を強めつつ、前へ。
私たちの前で、道が二つに別れた。
嫌な感じは、右からする。
「どっちかしらね……」
「姫様たちが嫌な感じがするというほうは、討伐、戦いも考えねばいけないでしょうね」
少し悩んだ結果、左に行くことに。
それが正解だったことは、すぐにわかった。
視界の先に、崩れた瓦礫でほとんど埋まった場所が見つかったのだ。
その中からは、人の気配!
というか、馴染のある魔力の感覚で、間違いなく……。
「アルトさんっ」
「ユキ? どうしてここに……それより、一人じゃないだろうな」
見つけた安心を胸に、手短に説明をする。
色々と、持ってきたことも。
「わかった。それならなんとかなりそうだ。瓦礫をどかしたら、すぐに戦いの準備を始めよう」
嫌な感じがまだ遠くにあるのを感じながら、みんなして瓦礫をどかす。
そうして互いの灯りが重なる頃、元気な姿のアルトさんと出会うことができた。
後ろには、駆け出しだろう冒険者たちの姿もある。
2人ほど、怪我をしているのか座り込んだままだ。
「アルト、無事で何よりだわ」
「わざわざ……これは余計に無事に帰らねば」
ここにルーナがいることに、アルトさん以外も驚いている。
でもすぐに気を取り直し、戦う準備を始めた。
と言っても、陣形を組みなおし、来るだろう相手を迎え撃つだけだ。
魔法の道具を分配し、いつでもというところ。
怪我人はいるけど、ここに誘い込んでという作戦。
「どうなってるの?」
「理由は不明ですが、牛人が出ました。ここにはいないはずなんですがね」
牛人……ミノなんとかいう奴だろうか?
不思議な灯りが照らすダンジョンの中、一種不気味さを感じさせる通路に……相手が出て来た。
確かに、牛人だ。
筋骨隆々、超マッチョ。
手には、こん棒らしいものを持っている。
「よし、やるぞ」
「先手必勝! 走れ、雷よ!」
乱戦になったら、私のやれることは少ない。
こちとら、ただのOLだったのだから。
距離があるうちに、射撃武器でちくちくというのは初心者に最適。
まだ遠くにいる牛人に、雷が走る。
ばしっと音がしたけど、倒すことは出来なかった。
「よし、いいぞユキ!」
その代わりに、こん棒を持つ手に当たった雷は、しびれさせることに成功したみたい。
こん棒を取り落とした牛人は、それを理解するなり怒ってそのままこちらに来たのだ。
武器を手にしたアルトさんと兵士さんたちが、近接の相手をする。
その隙に、私やルーナ、駆け出し数人が援護する手はずだ。
「素手のお前ではな!」
雄々しい声を上げ、アルトさんが正面から牛人に挑んでいた。
本当に現役は引退したのかな?と疑問に思う姿だった。
とはいえ、牛人も素手で武器とぶつかり合うあたり、さすがに怪物だ。
「焼肉にしてあげるわ!」
牛人の頭を狙ったルーナの火球が飛び、アルトさんたちが離れたところで直撃した。
悲鳴のようなものを上げる牛人に、兵士さんたちが飛び掛かる。
ちょっとぐろいけど、これも大事なこと。
長剣が突き刺さった牛人は、わずかに声を漏らし、ついに力尽きた。
「なんとかなったな。見回りの際にこいつが出てな……けが人をかばいながらは少し危ないなと思って、わざと崩して立てこもっていた」
「じゃ、戻りましょうか。早い方がいいわ」
そうして、ほぼ倍に増えた人数でダンジョンを出口へと進む。
牛人は1匹だけだったらしく、無事に外に出ることができた。
「じゃあね、ユキ。落ち着いたら顔を出してちょうだい」
「ありがとう、ルーナ。うん、またね」
町につくところでルーナたちとは別れ、冒険者たちと町へ……あ。
「ふはは、ユキ。一緒に怒られようか」
「……はい」
視線の先では、プレケースの前でウィルくんを抱きつつ、こっちを見ているベリーナさんがいるのだった。




