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MIN-041「さいころを砕け・前」


 例えばここに、当たりの目が1つだけの100面さいころがあるとする。

 毎日振り続けたとして、当たりはいつ来るか?


 ほとんど当たらないけれど、振りつけていればいつか、当たる。


「実際には、そんな単純じゃないんだろうけど……」


 不安そうに外を見つめるベリーナさんを、なんとか寝かせた。

 ウィルくんも、不安になっちゃいますよと少し卑怯な手段で。


 夜も更け、空に星が輝くころ、

 私はプレケースの中で、静かに荷造りをしていた。


「領主様に献上予定だった道具は……あったあった」


 買取を行った道具の内、そのまま冒険者が持っていると危なそうなものがある。

 正確には、信用できる相手じゃないと危なそうなもの、かな。


 多くは、持ち込んだ本人が持ち帰っている。

 でも、買取金額を聞いてお金を優先する人もいるのだ。


 例えばそう、強力な攻撃が出来る道具とか。


「でも一人じゃ……」


 考え込む私。

 そして、町に駐在している兵士さん2人に、相談することにしたのだ。


 結果として、すぐに領主の館に連絡をしてくれることになった。

 領主としても普段の行方不明、ダンジョンでの死亡とは違うとなれば問題だからとのこと。


 じりじりと、胃が痛む時間の先にやってきたのは……。


「ルーナ、どうして」


「名目がないと、下手に動けないのよ。あくまで、一般人の行方不明事件だから」


 言われ、納得するしかない。

 アルトさんは特別な人だ。

 でもそれは、私や知り合ってる人にとっては、なのだ。


 プレケースの護衛に、兵士さんを残してくれるというルーナ。

 そして、在庫を持ちだす形で私はルーナとダンジョンへと向かう。

 彼女の護衛という名目の人たちと一緒に、だ。


「一応ね、名目はこのダンジョンの中にある月見草よ。安眠の薬になるっていう薬草。多忙で睡眠不足の兄のために、私が我がままで乗り込んだっていう形」


「そんな……いいの?」


 これには、そこまでしてもらうほどの関係になれているのだろうか?という確認もある。

 ちょっとそこまで、という話ではないのだから。


 心配が顔に出ていたのか、ルーナは微笑み、すぐに少し寂しそうな表情になった。


「今さらよ、それにプラナ様のいたときに、貴女は遠い親戚だと認識されてるわよ」


「そういえば……!」


 今から、危険な場所に行くというのになんだかおかしくなってきた。

 そういえば、だいぶ遅れたけどプラナ様は目的の街にたどり着いたとの連絡はあったね。

 無事でよかったと思う……おっと。


「道が暗くて危ないですね。おねがいっ」


 灯りは松明や武骨なランタンだけだった。

 見えない訳じゃないけど、足元がおぼつかない。

 そこで、持ち出した道具の1つを点灯させる。


「魔力を込めると光る石を、うまいところにはめ込んでみたの」


「なるほど……これ、いいわね」


 おしゃべりの間にも、みんなは周囲を警戒してくれている。

 幸いにも、こちらに迫る気配はない。


 そうこうしているうちに、それらしい場所が見えて来た。

 時間の感覚はよくわからないけど、1時間近く歩いた気がする。

 たぶん、もっと近いんだろうけど。


「状況はどうかしら」


「周囲の足跡からして、特別慌てた様子はありませんね。いつも通り入って、いつも通りには出てきていない、ということかと」


 兵士さんからの報告に、私も気を引き締める。

 夜にそのまま出てきたのには、理由がある。

 一番大きな理由は、ダンジョンの中は朝も夜も関係ないからだ。


「灯りは生きてるわね。ダンジョンの収入は領地の経済にも直結しているわ。急な話だけど、よろしくね」


「「「はっ!!」」」


 きりっとした返事の兵士さんたち。

 どうも、普段からルーナと一緒にいる馴染みの人たちらしい。

 となると、彼らも無事に戻れるようにしないとね。


 荷物から、1本のステッキを取り出す。

 緑色のそのステッキは、雷を打ち出すことができるのだ。

 カメレオンみたいな精霊が宿っていて、力を放つと同時に舌がびゅーんって伸びるのがお約束。


「っ 何か、来た」


「怪物ですな」


 ぞわりと、背中を走る感覚。

 気配というより、魔力?


 前に立つ兵士さんが武器を構え、相手が顔を出したところで襲い掛かった。

 悲鳴のようなものを上げる怪物は、あっさりと死んだ。

 映画ので見たような、異形の怪物。


「ダークバットだ!」


 そちらを見ていた私は、一人の声に振り返る。

 通路の先に、羽ばたく巨大な影が2つ。


「走れ、雷よ!」


 こっそり練習していた攻撃の魔法。

 それが、ステッキの力を借りることであっさりと発動した。


 ピシャンといった音が響き、大きな蝙蝠は落下する。

 兵士さんが駆け寄り、死んでいることを確認してくれた。


「やるじゃない。力は制御できてるみたいね」


 命を奪ったことに何か思う前に、ルーナがそっと手を握ってくれた。

 すぐに震えそうになる心を引き締め、ゆっくりと私たちはダンジョンを進むのだった。





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