MIN-039「素質があるということ」
「確かに、見えているみたいだな」
「そうね……早くわかってよかったというべきかしら」
二人にウィルくんの事を報告すると、真面目な顔になって確かめに行った。
店番の間、ちょっと落ち着かなかったのは言うまでもない。
戻ってきた二人の顔は、何とも微妙な物だった。
また寝始めたらしいウィルくんを籠ごと持ってきてるから、目が届く場所にいてほしいって感じかな?
(精霊が見えるのって、あまりよくないことなんだろうか?)
考えてみれば、自分も見えることを驚かれたわけだし……レアなんだろうなあ。
「一応言っておくと、ユキのせいとか、何か問題がっていう訳じゃないぞ」
「ええ、そうよ。今のうちにわかってよかったという方が大きいわね」
表情に出ていたのだろうか?
二人の慰めのような言葉に、こっちが戸惑ってしまう。
「精霊が見えるということは、魔法を使える可能性が高いということなんだ。それを知らないで過ごしていると、時々魔法が暴走する」
「暴走というと大げさだけど、ちょっと薪の火が大きくなったりってぐらいかしらね」
「怪我をするかもしれないという点では、十分危ないですね」
よかった、いきなり火の玉がさく裂するとかそういうことを予想していたけど、大丈夫そう。
スヤスヤと眠るウィルくんを見る限りは、そんな気配はないのだけど……。
「子供で、赤ん坊の内は気持ちの制御が難しい。カッとなればそのまま精霊が呼びかけに応えることもある」
「そうならないように、ちゃんと教えないといけないわけ」
もっともな話に、頷くばかりの私だ。
見てない場所で、寒いなあと思ったウィルくんの力で暖炉の火が強くなっても困るもんね。
しばらくはどちらかがそばにいて、魔力の動きを見張るらしい。
一応、精霊と遊んでいたことも伝えてあるので、どれか1匹はそばにいてもらおうかな。
「後は……あ、いらっしゃいませー」
やってきたお客さんは、珍しく3人いることに少し驚いた様子だった。
その後も、お客さんは度々やってくる。
今日は、初めての人が多いような気がした。
「ベリーナさん」
「そうね。最初の探索が終わったんじゃないかしら?」
具体的には言っていないのに、さすがの経験者ということかな?
私の言いたいことを予想したであろう返事に、納得する。
確かに、お客さんの多くは一稼ぎした後みたいだ。
消耗品の補充に、不用品の売却。
そして、私の出番だ。
「ユキ、これとこれを頼む」
「わかりました。手袋とこれはコップ? ふむふむ……」
アルトさんから頼まれたということは、魔法の道具ということだ。
実際、私も力を感じるし、そのほころびもわかる。
(手袋は穴開きと小指がない……コップはヒビかな)
まずは状態の確認と、精霊の呼び出しだ。
ちょこっとだけ指先を意識して、魔力を体からひねり出す。
歯磨き粉をチューブから押し出す感じかな?
「お、こっちはイノシシ? コップは……お魚だ……」
ブフーなんて声が聞こえてきそうな、ミニイノシシと、青いお魚。
イノシシはもふもふでちょっと硬い毛並みで、牙が折れてる。
お魚は、通るたびに少しヒヤッとするかな。
「何ができるのかなー……うんうん」
つぶやいてる間も、実はアルトさんやお客さんに見つめられてるのが少し恥ずかしい。
だけど、何かを口にして語り掛けるのは結構やりやすいのだ。
力も、制御するには黙ってるより喋っていた方がいい。
結果、イノシシは魔力と道具の消耗を引き換えに力を増すもの。
お魚のほうは、注いだ液体が冷えるということがわかった。
「手袋は治して使う方向で、コップは買い取ってもらえるか?」
「わかりました。金額はそれぞれこんな感じですけど」
安くない金額だけど、あっさりとお支払い。
この辺、冒険者というか探索者の人たちは、収入も出費もすごい金額だなと感じる。
アルトさん曰く、一度やり始めると辞め時がわからないのだとか。
(確かに、稼いだから明日からのんびりね、というにはロマンがありすぎるのかな)
お宝によっては、まさに城が建つらしいし……。
もっとも、そうなれるのはごく一部。
例のごとく、危険と隣り合わせだからね。
「皮がこの辺にっと……」
出来るだけ元の素材に近い材料を選び、修復というか治療を始める。
私にとって、これは直すではなく治すなのだ。
道具もそうだけど、精霊の怪我を治すイメージ。
不思議なことに、こうすると皮が最初からそうだったようになじんでいく。
最終的には、縫ったのでは無理な形で、くっついた。
試しに手を入れ、指を動かして確認。
「どうぞ。試しながら使ってくださいね」
「ああ。今のを見ただけでも払った価値があるよ。不思議な力だな」
「精々稼いでくれ。そうしてくれれば、こっちも儲かる」
冗談のようなアルトさんの言葉に、相手も違いないと笑い始めた。
こういうのは、男同士の会話ってやつなのかな?
入れ替わるお客さんの相手をしていると、時間はあっという間に過ぎていく。
途中、起きて来たウィルくんの世話をベリーナさんと一緒にしていればさらにだ。
「そういえば、ユキは農作業とかやったことあるのかしら」
「ほとんどないですね。知識としては知ってますけど……」
突然の問いかけ。
理由を聞いてみれば、納得だ。
実は近くに住んでいるというベリーナさんのご両親は、農家らしい。
時期によっては、お手伝いを頼まれることもあるらしい。
でも、今年は妊娠していたからと出来てないそうで。
「私が代わりに行っても、お留守番でもどちらでもいいですよ」
「その時には相談させてね」
ほっとした様子のベリーナさんに笑みを返しつつ、ウィルくんをあやす。
ふと、使い道のないと思われてる魔法の道具に、役立ちそうなものがないかと考えた。
何かあると、いいのだけど……さて?
少しずつの変化が、私の周囲をまた変えていくことを感じながら、今日も1日が終わる。




