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MIN-030「出来ることから、少しずつ」



「本当は、貴女が中央に来たいというつもりだったら、止めるつもりだったわ」


「そう……なんですか?」


 心底意外だった。

 だからこそ、こっちにプラナ様が来たと思っていたのに……。


 驚きを隠せない私に、微笑むプラナ様。

 まるで出来の悪い生徒に、仕方ないなあと教えるかのような表情だ。


「癒しの道具を延々治させる……なんていうのは大した理由ではないのよ」


「それはっ」


 自分が監禁されるぐらい、特別なことじゃない。

 そう言いたいのかとカっとなり、何とか我慢する。

 ほんのわずかな間だけど、そんなことを言う人じゃないだろうと感じていたからだ。


「この土地ぐらいの規模なら、いいの。まだ、影響は最小限で済む。けれど、中央の……これまでため込んできた魔法の道具たちがある中央では? 強力であるがゆえに、使うのを控えていたようなものが多くあるとしたら?」


「あっ……!」


 言われたことから、どんどんと想像が膨らむ。

 今、この場所ですら火の玉を撃ちだす道具なんかが、治すのに人気なのだ。

 大事に使えば、また私が治して使える。


 それが、土地にお金を落とす結果となるのだから。

 そのサイクルが、もっと大きくなったら?


「だから、この土地にいてくれた方がいいわけ」


「よく、わかりました」


 頷き返すと、満足した様子でプラナ様は去っていく。

 ユリウス様とかと話すんだろうなと思っていると、ルーナが近づいてきた。

 知らない人と話すよりは、お偉いさんだけど知っている彼女の方が気が楽なのは内緒だ。


「言いたいことは、もう言われてしまったかしらね」


「あはは……」


 その後は、時折近づいてくる知らない人と、当たり障りのない会話。

 誰もが、ルーナの親戚だと思っていたのが面白い。


 気が付けば日も暮れて、パーティーは解散となっていた。

 聞くところによれば、豪華なところだと夜の照明と暖房を維持できることがステイタスなんだとか。

 もったいないよねえ……。


「灯りの道具があるのは、収穫だったけど」


 月明りを眺めながら、与えられた部屋のベッドでぼんやりと過ごす。

 寒いことは寒いけど、しっかり窓にガラスみたいなのがはまってるからそこまででもない。


(このガラス……歪な感じだし、発展途上、かな?)


 案外、映画みたいに虫の大きいのがいるのかもしれない。

 もしそんなのがいるなら、色々加工もしてみたいけど……。


 何をするにも、先立つ物やコネは必要。

 アルトさんたちが便利に暮らせるならそれでいいかな、と思うのだ。


「魔力が電気みたいに使えるかな?」


 発明家という訳じゃないけれど、色々と置き換えは出来そう。

 既に、赤熱のナイフで暖房は再現出来てるのだし、同じようなことを目指して見よう。


 温かいのは出来るなら、次は冷たい、冷やす方。

 まだ春は来ていないけど、夏に向けて冷房を考えてみようか。


「赤ちゃんは暑さ寒さに弱いもんね」


 思い浮かべるのはウィルくん。

 いっそのこと、集会場のようなものを作って、保育園代わりにそこで過ごすのはどうだろうか?

 一か所で済むし、お互いに面倒をみあえる。


「戻ってから……かな」


 考え事をしながら毛布にくるまっていると、段々と眠く……。



 翌朝、プレケースで温かく過ごすのに慣れた私は、早起きしてしまった。

 ようやく明るくなってきたころ、まだ使用人の人たちしか起きていないんじゃないだろうか?


「おはようございまーす」


「おや。ユキさん……ユキ様のほうがいいかい?」


 別に自分は貴族とかじゃありませんよーと、料理人である相手に答える。

 プリンとかを再現するのに、手伝ってもらった間柄だから他人ではない。


「庶民生活の方が肌に合ってますよ、ええ」


「ははっ。そうそう、この前、これを作っておいてと言われたけど何に使うんだい?」


 そう言われて出されたのは、瓶に入った干しブドウ……ああ!


 すっかり、忘れていた。

 ライムギだろうものの黒パンばかりだから、白いのが欲しいなあと思っていたのだった。


 本当は何回か発酵させたりしてもいいけど、一発でも確かよかったはず。


「パン、ですよ。小麦粉を使うんで、ちょっと贅沢ですけど」


 地球の感覚でいうと、高いお米を買う感覚に近い。

 瓶を受け取り、中身のエキスを取り分けて……パン作り開始だ。


 並行して、いつものパンも作ってもらう。

 成功するとも、限らないからね。


 それからしばらく、ダシの考えとかを会話しつつ、出来上がるのを待つ。


「いい香りだな」


「ですね。混ざって余計に複雑な香りです」


 朝食には、普段通りの物をまず出してもらう。

 その間に、私は白パンを試食だ。

 料理長みたいな相手と、一緒にちぎって……うん、ふわふわ。


「なるほど、贅沢品ですな」


「ええ、毎回、領民全員がとは今は難しいでしょうね」


 土地の問題もあるから、黒パンを否定するつもりもない。

 小麦が多くは取れない土地だからこそ、の文化なのだから。


「ユキさん、1つ提案があるのですが」


 プラナ様たちが嗅ぎつけて騒動になる前に、こっそりお出ししましょう。

 そう言われ、笑いながら自分で騒動を起こしに行く私だった。


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