表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/126

MIN-027「精霊と魔物の違い・後」


「蛇の脱皮のようなものか?」


「かも、しれませんね」


「小さい頃の怪我が治らず、いっそのことそこをそぎ落とせれば、か。迷惑な話ね」


 3人で木陰から見上げるくじら。

 精霊とも、魔物とも感じるらしい大きな相手だ。

 大きなビルを横にした感じ。


 そんな相手が、少し浮きながら山に口をこすりつけているというか、齧っている。


「討伐は容易ではなさそうだ。対話ができるという可能性を信じるしかないな」


「放置したら、ウチまで埋もれてしまうもの」


 今回のメンバーの中で、精霊を感じられる3人が、結果的に対応できるメンバーだ。

 意を決して、木陰から出る。


 相手からしたら、とても小さい存在のはずなのに……すぐに私たちをくじらが見た。

 視線を感じたと思ったら、力ある圧迫感。

 精霊が教えてくれた、魔力の会話だ!


「いきます!」


 お腹に力を入れて、こちらも魔法にならないように魔力を高める。

 地球にいたころは、使ったこともない力……。

 それが今は、体中をめぐる何かとして認識できている。


 腕をつかんでくれるルーナの助けを借りて、敵意がないことをなんとか魔力に乗せて放出。

 吹雪未満の風の中を、それが伝わっていくのを感じた。


「風が、止まった……」


「はい、そうです。雪で埋もれてしまうから、どうにかできるなら助けたいんです」


 周囲を警戒するアルトさんの声を聞きつつ、精霊たちが教えてくれた方法で会話のようなものを試みる。

 一方的に伝え合うだけの、会話とは言いにくいものだけれども。

 口にしてつぶやくことで、明確に魔力に乗せることができる……らしい?


 と、そんな時だ。


「つっ! ルーナ、感じた?」


「ええ。口の中が、痛いって見えたわ」


 思ったより話せるというか、言葉が通じるというのか。

 だからと言って、簡単な話かという問題は残るわけで。


 想像してみてほしい。

 ビルのような大きさの生き物みたいな相手の、口の中を見てみよう!

 誰が、喜んでいくというのか。


「でも、いかないとなあ……」


「最悪、ユキだけでも帰すつもりだ」


 それはそれで、ベリーナさんが泣いちゃいますよ、と心でつぶやいてしまう私。

 くじらに、なんとかするから口を開けてと感情を送る。

 なんとか通じたようで、くじらはこちらを向いてその大きな口を開いた。


「さぶっ」


「まるで氷の王国ってところね」


 くじらの口の中は、外よりかなり冷たいようだった。

 周囲に、明らかに冷気が漂ってくる。

 余り熱いのも嫌がると思い、ローズの力も最小限。


(後で、しっかりあっためてもらうからね)


 頑張りたいローズを抑えつつ、ゆっくりと口元へ。

 そうして近づくと、色の違う物が見えて来た。


「何か刺さってますね」


「剣……いや、槍か? ふむう……」


「昔、討伐されかかったってことじゃないかしら」


 なるほど、と思う。

 確かにこんなのが刺さったままでは、治る物も治らない。

 それに、こすりつけていてはさらに食い込むだけだ。


「いい? 抜くから、ちょっと痛いかもしれないけど、すぐ済むから。閉じたらだめだよ?」


 どこかのコントのように、駄目だよ?を連呼しながらゆっくりその現場に。

 アルトさんはいざとなれば、すぐに私を抱えて飛べるようにしてるけど、間に合うのかな。


 刺さっていたのは、槍。

 見事な装飾で、それだけでもかなりの値打ち物に見える。

 ルーナには無理そうだし、私……かな?


「ふっ!」


 ぐっと力を入れ、槍を掴む。

 予想に反して、それはゆっくりと、動き始める。


 その度に、くじらとしては痛いのだろう。

 痛みに思わず動くような気配が感じられた。

 長引かせるのもどうかと思い、ひと声かけてから一気に抜き放った。


「閉じっ……ない。我慢してくれたか」


 一瞬、明るさが減って口が閉じたかと思ったけど、ぎりぎりとどまってくれたみたい。

 再び、開いた口の外から明るい陽射し。

 ぽっかりと空いた、槍の刺さっていた場所。


「効くのかな……」


「抱えて帰るから心配はしないでいい」


「道具以外にも効くのか、楽しみね」


 かわいそうだなと思った私は、同行者2人の許可をもらい、治すことを試みる。

 近くに手を添えて、癒しを祈る。

 ぐぐっと魔力が動いていく気配。


 大きさに対して、私の魔力は不足していそうに思ったけど、案外ゆっくり……おおおお?


「ちょ、待って。そんなに持ってったらダメっ」


 くじらからの吸い取りにも近いものは、かなり強引だった。

 慌てて力を抑え、調節してもらう。

 短時間でも、かなり効果はあったみたいで傷がかなりふさがっていた。


「こうしてみると、生き物よね」


「うん。だけど、うっすら向こう側が見えるから……普通じゃない」


「そろそろ出るとしようか」


 濁りのある体の向こうに、景色が見えていることが、とても不思議だった。

 しばらくそうしていたいけど、危ない物は危ない。


 そのまま3人で外に出ると、ほっとした。

 やっぱり何かの口の中というのは、妙な気分だよね。


 そのまま、兵士達のいる場所まで戻り、振り返る。

 くじらが、優しい瞳でこちらを見ているような気がする。


「調子はどうー?」


 何気なく、問いかけたのがまずかった。


 元気いっぱいの、くじらが歓喜に吠えた。


「ローズっ! お願いっ!!」


 咄嗟の熱気バリア。

 ルーナにアルトさん、そして兵士達も包んだバリアがなんとか吹雪を防ぎ……。


 ぎりぎりで、耐えたようだけど私はそのまま魔力切れで気絶したのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ