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MIN-019「関わるということ」



「こちらは傷を癒せる杖……のはずです。都合よくけが人がいないので、あまり試せてはいません」


「なるほど……訓練の事故などに使えば確認できそうだな。次を」


 とある、雪の降っていない日。

 護衛の兵士……騎士かな?を何名も引き連れて、お客さんだ。


 その正体は、そばにいる女の子でわかった。

 騎士に紛れて、ひらひらと手を振る、ルーナ。

 となれば、目の前の青年は……。


「領主様、お探しの物があれば、それを選びますが」


「ユリウスで構わない。落とし子よ。話しやすい口調でいい」


 手渡した杖を、物珍しそうに眺めているイケメン、ルーナの兄で領主様だ。

 ルーナによく似た髪の色に、容姿もどこか似ている。

 服の上からでもわかるほど、鍛えられてるのが特徴かな?


「わかりました。そういえば、森の外で助けていただいたきりですよね」


「そうなるな。本当はもっと早く話をしたかったのだがな、今日になってしまった」


 満足したのか、杖をテーブルに置いた後、後ろに控えていた騎士と何やら目配せ。

 ルーナにとっての女性騎士みたいな関係だろう騎士が、メロンぐらいある革袋を取り出した。


「遅くなったが、先日の礼となる。銀貨の方が使いやすいと思い、用意した」


「受け取っておきなさい、ユキ」


「……わかりました」


 友達のお願いを聞いただけで、別に商売のつもりはない。

 そう言おうとしたのだけど、ベリーナさんに言われて頷いた。

 それに、立場上こうしておかないとややこしいというのもわかるのだ。


「あのまま、怪物どもが街道に顔を出す状態であれば、この土地は事実上、陸の孤島となるところだった。この雪深さに、怪物となれば誰も好んでは来ない」


「それは、確かに……」


 除雪車みたいなのはない世界だ。

 人や馬車が行き来することか、人力で雪かきでもしないと街道が埋まると思う。

 じゃあ雪かきを、ともいかないだろうしね。


「ユキ、といったな。その能力は、中央が知ればうるさいのは確実だ。幸い、魔法の道具自体は、遺跡から度々出てくる。今すぐどうこうということはないだろう。もっとも、馬鹿なことをしでかす輩が出てこないとも限らない」


 ユリウス様は、そういって2人の騎士を手招き。

 アルトさんぐらいの、そこそこ良いお歳という感じの人だ。


「この2人は、元々町に常駐させる予定の騎士だ。仕事の1つに、このプレケースの護衛も含むこととする。何かあれば2人に言うように」


「えっと、わかりました」


 よろしくお願いしますと頭を下げれば、騎士2人も、笑顔で頷いてくれた。

 そういえば、こんな時なのにアルトさんがいない。

 いつものように遺跡に行ってるのかと思ったけど、どうも違うみたいだ。


「戻ったぞ。おお、ユリウス、来ていたのか」


「アルトさん! お帰りなさい」


「アナタ、外ではたくぐらいはしてきて。床が濡れるわ」


 言いながら、アルトさんがユリウス様に随分軽いんだなと感じた。

 助けてもらった時に一緒だったから、それなりに関係者だというのはなんとなくわかるのだけど。


「アルト、どうだった」


「嫌な予感がどんぴしゃりだよ。他の遺跡も、活性化してる。稼ぎ時だが、ちょっと面倒だな」


 アルトさんの言葉に、騎士たちが動揺するのがわかる。

 私も、遺跡が活性化するということがどういうことかはわからないけど、普通じゃないことはわかる。

 つい先日、その影響であるものを目撃したばかりなのだから。


「そうか……ユキにとっては、都合がいいな。他の土地に気を配る余裕が減る。ましてや、冬だ」


「そういうことだな。手が空いてる兵士は、周辺だけでも雪かきさせたほうがいいだろうな」


 まるで、旧来の親友……うーん、どっちかというと近所のおじさんと話してるかのようなやり取り。

 その証拠に、きりっとした感じだったユリウス様も、アルトさんと話してるときは見た目相応の……うん。

 少年から青年に変わろうとしている、独特の雰囲気をまとっていた。


「それもそうだな。ああ、すっかり話がそれてしまったな。雪の中でも行軍できる、そういう道具があれば後日届けてくれ。色を付けて買い取ろう」


「アルトさんたちとよく相談しますね」


 それでいいと言わんばかりに、頷いたユリウス様は立ち上がると、騎士たちと一緒に去っていった。

 結局、ルーナは最後まで喋らなかったけど……そういうものなのかな?


「ユキ、無理はしなくていいからな」


「はい、それはもちろん。と言っても、都合よくそういう魔法の道具があるか?が問題ですけど」


「そうよねえ。何人もってことは無いから、多分偵察用に1人か2人分だと思うけれど」


 3人の視線は、並べられた中古の武具たち。

 その中でも、魔法の道具類は持ちだしにくいように並べてある。

 特に、火の球を打ちだしたりするようなのは、厳重に、だ。


「私、護身術でも覚えたほうがいいですかね? よく考えたら、強盗とか怖い気が」


「なあに、こんな場所だ。そんなことしたらすぐに捕まる。馬鹿な奴はそうそういない」


 言われ、今は町の外に出るには一苦労な季節だと気が付いた。

 それに、冒険者の人も何回も買い物に来てるから自然と知り合いになってるもんね。


「まあでも、うっかり手を滑らせたりしないように、取扱ぐらいは教えよう」


「頑張ります!」


 やれることが増えるということは、関わることが増えるということ。

 それを、感じる日となったのだった。



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