MIN-017「直すではなく、治す」
「遺跡の活性化と、魔法の道具たちの関係、ね。ユキとしては都合がいいんじゃないかしら」
ルーナとの探検もどきは、思ったよりも大きな出来事となって迎えられた。
しばらくの調査の結果、遺跡の気配が変わっていることが判明したのだ。
駆け出し専用から、未知を含んだ遺跡へと。
「活性化する時期がわかれば、魔法の道具が再度使えるようになるかもしれない。だけどその前に飲み込まれるかも……試すにはやや怖いですね」
言いながら、すくい網に教わった通りに糸を通していく。
まだ力が残ってると言っても、壊れかけの魔法の道具であるすくい網。
結局、私が持って行っていいということで貰って来たのだ。
「よし、できた。ベリーナさん、どうです?」
「どれどれ……うん。普通に使えるんじゃないかしら? でもそれ、どんな奴なの?」
気になるのも無理はない。
見た目は、どう見ても釣りの時に使いそうなやや大きな輪っかのすくい網、だもんね。
「拾う前は、精霊が光ったところで水が凍ってたので……ぶつけると凍るんじゃないですかね?」
脳裏に浮かぶ、魔物相手に網を振り、出ていった力で相手が凍る姿。
かなり、シュールだ。
網だから、他にすくったりできるとは思うんだけど……。
「まあ、魔法の道具にもどう使うのかわからない効果の奴もあるし、道具と効果が一致しないのも多いから、そういうものなのかもね」
「また調べておきますね。それより、店内のレイアウトを少し変えないと」
既に始めていることではあるのだけど、お店の内装を変え始めている。
雑貨屋は雑貨屋としてなのだけど、籠とか食器とかは場所を固めた。
その分、冒険に使いそうな道具や、中古品の取り扱いを少し増やしたのだ。
「そうね。新顔も少し増えたみたいだし……この雪の中、良く来るわねえ」
「狩りとかをするよりは、確実だからですかね?」
私はこの前入り口に行った以外に、遺跡には潜ったことがない。
危険が一杯だし、何より私は戦いたいわけじゃないのだ。
でも、遺跡の重要性は嫌でもわかる。
無限に湧く魔物たち、そしてなぜか出てくるお宝。
毛皮や牙なんかは加工されるし、お宝も生きる糧となる。
「あまりここで増えると、物余りになるから難しいところよ」
「ああ、インフ……じゃなかった。同じお金で買えないってのも出てくるかもですね」
ゲームみたいに、硬貨が直接出てくる状態じゃなくてよかったと思う。
もしそうなら、とんでもないことになってしまう。
もっとも、鉱石の類も手に入るらしいから、全体で考えると同じかも……ね。
「私としては、ユキが目利きだったことに驚いたわ。あっちで覚えたの?」
「ええ。同じような雑貨が好きで、それが高じてと。魔法の道具は無かったから、精霊頼みですけど」
簡単な物なら、私も鑑定もどきが出来るようになっていた。
魔法を使う時のように、道具の力を確認していけばいいのだ。
ほとんど残ってなければ、道具として買い取ればいい。
これまでは、自分の感覚がこっちと同じかがわからなかったから、色々と控えていたのだ。
食器やそのほかの物に対する美的感覚と言えばいいのかな?もそう変わらないことを学んだ。
結果、ただのお手伝いから進化した!……だといいな。
「そのことだけど……そろそろ、お店の買取の時にやってみましょうか。領主様からも、冒険者の犠牲が減るのは喜ばしいことだし、お金が回るならそのほうがいいと手紙が来たのよ」
「なるほど……私の力も実験対象が増えれば、もっと磨けるかもですね。っと、いらっしゃいませ」
意外なところからの、修復解禁。
そうそうそんな依頼が来るものかなあと思いつつ、来客だ。
「やあ、鑑定を頼めるかな。力は残ってなさそうだけど、捨てるぐらいならパン代になればと思って」
「その杖を鑑定ですね、わかりました」
あくまでもどき、とは思うけどそれでも貴重な技能らしい。
思ったよりも、こうして頼んでくる人が多い。
私の鑑定は簡単。魔力を込めて精霊に呼びかけるのだ。
「! 魔法の道具ではありますね……あれ? 力はまだかなり残ってますよ。半分より上ぐらい……でも、何かが足りない……」
視線を感じながら、指先を杖に這わせていくと、力のよどみが見つかった。
そこには、親指の先ほどの穴。
ちょうど、そこで杖の両端から伸びている何かが途切れている。
前言撤回、案外早く修復チャンスはやってきた。
杖から出て来た精霊、ひよこみたいな相手を撫でながらお客である冒険者さんを見る。
「どうします? 宝石でなくても、何かはめるとなんとかなりそうですけど」
「ユキ、右の箱に魔晶石が入ってるわ」
後ろからの声に頷きつつ、木箱を開く。
中には、地球でいうと水晶の類が色々と。
色も結構あり、大きさもばらばら。
遺跡やダンジョン内部で、水晶が魔力に影響を受けたというブツだ。
案外、パワーストーンていうのもこういうのだったのかもね。
「興味深いなあ。うまく行けばお宝に化ける。赤いのを1つ貰おうか」
「ありがとうございます。じゃあ、はめてみますね」
魔晶石の代金を受け取り、石を指でつまむ。
ただ同然の杖が、もしかしたらお宝に、となればお金を出すという物かな。
まだ多くは、アルトさんとベリーナさん、つまりはこのプレケースの信用があるからだろうけど。
何度か角度を変えていくと、穴に魔晶石がはまった。
もちろん、そのままだと隙間だらけ。
砂のように細かい、魔晶石の欠片を少しそこに埋め込む。
(ここで魔力を……)
いつだったかステッキを治した時のように、指先に魔力を込めながらざらつく表面を撫でる。
すると、氷が解けるように魔晶石が動いた。
突然、ひよこは身震いしたかと思うと、一気に鶏みたいな姿に変化する。
「ふう……どうです。効果はちょっとわかりませんけど、魔力は通るはずです」
「確かに、使ってみないとわからないことはあるな。お代は……」
私が口を開くより早く、ベリーナさんが「1本」とつぶやいた。
戸惑う間に、お客さんが取りだしたのは……金貨。
「使ったらまた話に来ますよ。ベリーナさん、それでいいですよね」
どうやら、知り合いの様だった。
去り際に、こういう時ははまってる魔晶石の色、属性で傾向がわかるのだと教えてもらった。
そして、半ばなし崩し的に、私が鑑定をしつつ、出来るようなら治すという商売が始まった。