MIN-015「精霊保育園」
「ユキ、しまっておきなさい」
「やっぱりそうですよね? 悲しそうな顔をするから、つい……」
3人での食事の場。
それまでは、他には暖炉の音ぐらいだった場所。
そこには今、たくさんの精霊がいる。
まるで、精霊の保育園のようだ。
鳴き声が可愛らしいから、私は気にしないのだけど。
「あちこちに気配を感じるのも、ちょっと不思議ね」
「魔法の道具が、いつでも使える状態で置いてあるわけだからな。ルーナあたりが見たら、倒れるかもしれん」
「いやいや、それは大げさ……大げさですよね?」
革袋の口を閉じたり、箱のふたを閉めたり。
もっと遊びたーいって顔をしてる精霊を、1匹1匹撫でていく。
最後に残ったのは、暖房代わりに使っているローズだ。
「見える人は少ないからな……それが救いだ」
「そっかぁ。普通の人には、便利な道具でしかないんですよね」
「ユキの話は、興味深い。精霊と仲良くすると、魔法の道具も使い勝手が変化するというのは、聞いたことがないからな」
すっかり、慣れた感じのローズ。
指先で撫でてやれば、じゃれあうようにしててテーブルの上を転がる。
「使い捨て前提で流通しているし、どうなるかしらね」
「私としては、精霊たちがまだいるのがわかってるのに、ゴミにするのはちょっと……でも、どこかで売らないとお金が足りなくなりますよね」
「しばらくは大丈夫だと思うが、問題は増えた物をどうするかだな。道具は使われてこそ、精霊も役目を果たしてこそだ」
アルトさんの話はもっともなことで、現に今でもたくさんの道具が売るに売れず、残してある。
少しだけ、アルトさんが拾って来たという形で売っているのだけど、それも人気だ。
どちらかというと、アルトさんのというネームバリューな感じだけど、ね。
「魔法の練習をして、新しい魔法を開発した!だとだめですかね」
「ああ、その手があるな」
あるらしい。
どういうこと?と視線で聞いてしまう私。
まだ知らないことが多いのは確かだけど、そんな簡単な話で良いんだろうか?
「魔法の道具を使うのに、魔力も消費するのは誰でも知っている。人に教えることはまだできないが、不安定ながら魔力を込めることに成功した、とでもしておこうか」
「最初は領主様あたりに少しずつ、卸せばいいわね」
真面目な声色になる2人に、私も真剣に頷く。
言うなれば、兵器の再生産、修復の力なのだ。
使える状態の魔法の道具、その数は領主としての発言力に直結するらしい。
「そのうち商売にするとしても、販売価格の半額、とか高額にする手もある。何回も使うか、直接買うか。選べればそれでいい」
「随分ぼったくり、じゃなかった。足元見てる気がしますけど、そこは経験者に従います」
そうと決まれば話は早い。
アルトさんはいつものようにお出かけしつつ、途中で根回しをしてくれるらしい。
その1つは、ルーナ宛てに手紙を書くこと。
「事情を少しは知っている彼女のほうが、話が通りやすいだろう。直接聞くより、人目を引かないと思うぞ」
「確かに、どれを優先していくかとかも、聞けるかもね」
「わかりました! 儲かったら、ベリーナさんに大きな椅子とかプレゼントしますよ」
本当は、車椅子が欲しい。
馬車はあるから、仕組みを流用して作れそうなものだけど……うーん。
お世話になっているし、少しでも楽をしてほしい。
アルトさんには何がいいか、ちょっと思いつかないんだけどね。
「あら、ありがとう。さ、お店を開けましょうか」
アルトさんを見送りつつ、今日もプレケースが開店だ。
今日まで過ごして、わかったことはいくつもある。
お店でわかったことは、雑貨としての食器とか家具は、あまり売れないということだ。
どちらかというと、消耗品になる道具のほうが売れている。
「はい、縄が5本に、革袋が4枚ですね」
武具とかとは違う、旅や冒険に必要な物。
よく考えてみれば、そういった物に加えて食べ物や、ポーションも置いてあるのだ。
冒険者用の、コンビニみたいになっているのだった。
なんだか、雑貨屋の横でカフェでも開いている気分。
「あのー、プレゼントみたいに渡したいんだけど、良い籠あるかな?」
「どんなものを? ああ、それでしたらこちらはどうでしょう」
中には、家族にプレゼントするのか、綺麗な装飾品を手に、相談も受ける。
こういう時は、小さめの籠とかが似合うんだよね。
ついでに、ハンカチみたいに布を合わせてあげれば、そうやって売っていたみたいなものの出来上がりだ。
「それはいいね! ありがとう!」
多くの場合、お客さんは一度には数名だ。
地球というか日本のお店みたいに、常に10人規模でお客さんがいるということは無い。
それ自体は、寂しいことだけど十分な接客が出来るということでもある。
カウンターで、お会計はベリーナさんに任せて、私は接客中心。
不思議と、今日はお客さんが多い日だった。
「ふー……ベリーナさん、この辺在庫がかなり無くなっちゃいました」
「あら、そう? 近くに新しいダンジョンでも見つかったのかもしれないわね」
「新しく、見つかる物なんですか?」
整頓の手を止め、思わず聞いてしまう。
カウンター越しに微笑む姿は、私から見ても美人さんだ。
そのまま聞いた話によると、遺跡がダンジョンになった場合は、そのまま。
それ以外に、洞窟とかがダンジョンになる場合は、一度潰された後もまた出てくるときがあるらしい。
「へー……不思議ですね。商売としては、ずっとご飯の素があるみたいな感じですけど」
「そうね。実家では暮らせないっていう長男以外が、結構そうやって冒険者になるのよ。無理しなければ、そこそこ暮らせるから」
その言葉の影には、無理する人がそれなりにいるって感じかな。
だからこそ、危険な職業扱いなんだろうし……うん。
「棚、ちょっと変えましょうか。冒険用の奴、あんまり入り口に近いと管理しにくいかもです」
「そうね。高い物が売れるようになったら、危ないものね」
うまく魔法の道具が売れるようになれば、本当はショーケースみたいなのも用意したい。
そうなってくると、私とベリーナさんだけだと不安。
特に、実質動けるのが私だけだと……。
「私、魔法の道具で武装するとかどうですかね? 泥棒は、退治しちゃうぞって」
「あまり、お薦めはできないけど……必要なのかもね……」
冗談で言ったつもりが、案外真面目にとらえられて焦る私。
なんだかお腹が痛い……後でローズをもふろう。
そう決めて次なるお客さんの対応をするのだった。




