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MIN-014「加減を知る」



 毛布の隙間に忍び寄る冷気に、身震いして目を覚ます。

 寒さで起きてしまう朝だ。


 実は、それでも私の部屋は少しだけ、温かい。


「おはよう、ローズ。ありがとうね」


 枕元で既に遊んでいる赤いワンコ、赤熱のナイフに宿っている精霊、を撫でる。

 ふわもこしているこの子が、部屋を暖めていると誰が考えるだろうか。


 刃先を鞘から少しだけ出しておけば、一晩中部屋でローズは遊んでいられるのだ。

 本当は、構ってあげたいけどそれは普通のペットと同じ。

 もっとも、自由に部屋の中だけでも動けるのは、嬉しいみたい。


「朝ごはんだよー。さ、今日も頑張りますか」


 指先から、ではなくナイフを手にした私。

 そのままルーナに教わったように魔力を練り上げると、それをローズが食べていくのがわかる。


 そう、精霊に直接食べてもらうんじゃなく、道具を通して食べてもらう方が効率がいいのだ。

 そのことを知ったのは、ルーナから魔法を教わって数日後の事。

 アルトさんたちに、相談して色々試した結果なのだ。


 そこで私がやると決めたこと、それは魔力の使い方の訓練だ。

 今後、魔法の道具を治していくのを商売にするにしても、そうでなくても加減は必要。

 1つ治すたびに、すぐ寝入ってしまうようじゃ問題だもんね。


「おはようございます」


「おはよう、ユキ。ふふ、今日も精霊は元気そうね」


 かなりお腹の目立ってきたベリーナさん。

 そろそろ、動き回るのも大変なはずだけどぎりぎりまでは動きたいらしい。

 元々、好きで雑貨屋をやっていたから、落ち着かないんだとか。


 自分も、食事とかを手伝おうとしたら止められた。

 あれ?と思えば、視線は腰の赤熱のナイフ。


「さ、練習は毎日の積み重ねよ。部屋の暖房と、お鍋でやりましょうか」


「あ! はいっ! ええっと……春の息吹よ、集え」


 教わった言葉を口にすると、ナイフにこめた魔力が抜け出ていくのが感じられた。

 と同時に、まるでヒーターを付けているように温風が広がった。

 たぶん、少しずつ魔力が減ってるだろうなという風だった。


「うんうん。ちょうどいいわね。これを、魔法の道具に固定できたらいいのだけど……」


「そうですよねえ。薪も安いわけじゃないですし、温まるのに少し時間かかりますよね」


 一応、ナイフを何かで立てかけておけばしばらくは大丈夫。

 とはいえ、暖房器具としてはちょっとこう、ねえ?


 一通り温まったかな?と判断したら、ナイフを手にして魔力を止める。

 なんだろう、電池と電気……ちょっと違うかな。


「これは少し煮たらそれでいいわ。そうそう、便利ねえ」


「ローズも、何かできるのが嬉しいみたいです。たまにお湯の中に入ってしまうのが問題ですけど」


 精霊に綺麗も汚いもないから、別に問題はないのだけど、ちょっと気になるよね。

 でも、ベリーナさんたちというか、この世界の人にとっては精霊がかかわったあれこれは縁起がいい扱いらしい。


「ふふ、毎日祝福を受けたのを食べているなんて、誰も信じないわ」


「そういうもんなんですねえ」


 そうこうしてるうちに、アルトさんも起きて来た。

 今日も、仕入れ兼救出として遺跡周辺にお出かけらしい。

 冬だからこそ、怪物以外が理由で危機になる人が出るからだとか。


「そういう場所なら、多少高くても買うんだ。出店みたいなものだな」


「なるほど、そういう手が……」


 ふと、ナイフを使っていつでも温かいスープが飲めるっていうのはどうだろうか?なんて考えた。

 そこまでしなくても、切ったパンにチーズあたりをこれで削れば……。


「ユキが、安定して力を使えるようになったら、少し考えるよ」


「うっ、まずそこからですよね……」


「そうよねえ。一気に治るんじゃなく、中古ですよってぐらいに治るのが一番、売りやすいのよね」


 言うなれば、今の私は常に現金で満タン給油、なのだ。

 1000円だけ、10リッターだけ、というのが出来ていない。


 アルトさんを見送った後、今日も雑貨屋プレケースの店番が始まる。

 いつものように、パン屋さんから届けられたパンを並べ、お店の整頓も行う。

 空いた時間で、魔法の練習というか、力の練習。


「ユキは、それぞれの元気の違いがわかるのよね?」


「ええ、それはわかるんですよ。だから、これはまだ使えると思いますし、こっちは駄目ですね」


 ベリーナさんも、興味があるようでこうしてカウンター裏でお話をしてくれる。

 気がつけば、カウンター裏は精霊たちでいっぱいになっている。


 元気よく走る子、疲れてる様にじっとしてる子。

 問題は、多くの道具が何の道具か、見ただけじゃわからないことだ。


 ルーナから買い取ったものは、なんとかわかるのだけど……それも、記録があるからで。


「説明書とか、ないもんなあ……」


「そうね。ユキのいう世界のように、作った人がわかったりしたらいいわよね。後は、物自体に書いてあるか」


「書いてある……あ、そうか」


 一番近くにいた、子犬みたいなワンコをそっと捕まえる。

 じっと見つめると、カウンターに置いてあるうち、鈴の精霊だとわかる。

 鈴はへこんでいるし、精霊自体元気がないからか、成すがままだ。


「君の力はなーにかな」


 そう、わからないなら、聞いてみる。

 書いてないから、教えてもらう。

 単純な話だった。


「鈴に少しだけ魔力を通してっと……おお? おおお?」


 女の子らしくないな、と我ながら思う声が漏れ出た。

 ベリーナさんの視線を感じながら、そちらを向く余裕はない。

 頭の中に、何かが流れ込んできたのだ。


「これ、精霊が喋ってる……?」


 ワンワンと、犬の鳴き声。

 その声が聞こえると同時に、何かが見える。

 見たことのない文字だけど、なぜか読めるのだ。


「警戒……警報……噛みついて起こす? そーいうことね」


 魔力を止めると、説明も止まった。

 鈴は、一定範囲に何かが入ってきた時に知らせてくれる道具だということがわかった。

 そんなに高性能ではないからか、範囲の調整やそういったことはできない様子。


「使い道はあるわね。次は治すのを試して見ましょ」


「はい、そうします。でもそのままやると一緒だし……うーん」


 しばらく考え込み、1つの仮説を試すことにした。

 それは、やりたいことを口にすること。

 ルーナは、魔法の呪文はやりやすくするため、と言っていた。


 だったら、治すのだって程度を決められるんじゃないか?と。


「半分まで、治します。えいっ」


 我ながら、馬鹿みたいな単純な台詞。

 結果は、ばっちり。


 体からそれらしい量の魔力が動き、手にした鈴に注がれた。

 見る間に鈴が、ぴっかぴか……ではないけど、へこみが消えたのがわかる。


「ふう……どうでしょう」


「……ええ、大丈夫そうね。やったじゃない」


 その後の練習の結果、私が眠くなるのは一気に枯渇させたからだということもわかった。

 休み休み、1割から5割ぐらいまで変えてみたけど、ちょっと疲れただけで済んだ。


 その結果は……。


「ちょっと、くすぐったい。ひゃっ、そこはダメっ」


「見える人が見たら、驚きで口が閉じられないわね……」


 精霊たちに、まとわりつかれて遊ばれる私、という物が出来上がるのだった。




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