MIN-013「力の秘密?」
大量の魔物を相手に、煙幕で視界を塞ぐ。
動揺したところに、雷撃と弓矢。
それが、後から聞いた戦いの顛末だった。
「ウチの兄は、出し惜しみはしないほうなのよ」
「だから使い切っちゃったんだ?」
魔法の道具を、2つ治してから数日。
日常を過ごしていた私の元に、再びルーナがやってきた。
髪も服も真っ白で、女性騎士を連れているところまでは一緒。
けど、前のような悲痛な表情ではなかった。
他所に聞かれたくない話になることも考えて、居住区側へ。
外は大雪だから、お客さんも少ないだろうとベリーナさんに言われたのだ。
「あとどれぐらい使えるか、わからないようなものに頼り続けるのは問題、らしいわ。まあ、アルトが拾って来た、という体にしてあるけど……どうかしらね」
「使い捨てみたいなものだと、そうなるのかなあ? で、持ってきちゃったんだね」
結局、電撃が放てるステッキも、仰ぐと煙幕が出てくる扇も、もう使えなくなったらしい。
道具としては別に壊れてないから、中古品として売り払えれば良しってとこなのかな?
「さすがに、ゴミにするにはね。それに、アルトが買い取ってくれたから。治しておけば、彼が使うんじゃないかしら」
「あれやると、すぐ寝ちゃうからしばらくは無しかなー」
今も、お店の倉庫にはあの時ルーナが持ってきた道具たちが転がっている。
譲渡ではなく、買取をしたみたいだから正式にプレケースの在庫となったのだ。
問題は、治したところで早々は売る先がないということ。
下手に売ると、どこで手に入れた、とかうるさそうなんだよね。
「それなんだけど……魔力が消費されるのよね? ユキが言ってたみたいに、魔法を覚えればマシになるかもしれないわね」
「おお、そうそう。魔法魔法。やっぱり呪文とか唱えるのかな?」
ワクワクしながら聞いてみると、椅子に座ったままルーナがその可愛らしい手に、棒を握った。
ちなみに、女性騎士はずっと立ったままだ。
何度か座ったらどうかと促したのだけど、いざという時に動けないのでと断られた。
「初心者や、大きな魔法を使う時ほど、言葉を口にするわね。やっぱり、力を出しやすいもの。弱気は駄目よ。短気な人や、自分で言うのもなんだけど冷静に考える人ほど、魔力は増えやすいみたいね」
「わ……光ってる。これが魔力の光?」
ルーナが一言つぶやくと、棒がペンライトのように光り始めたように見えた。
何が面白いのか、微笑むルーナの顔は……あれ、照らされてない?
「ええ、これが魔法になる前の魔力光。これが見える時点で、才能ありね。才能がないと、光って見えないのよ?」
「そうなんだ。だから、ルーナの顔は照らされてないんだね」
なかなか面白い現象だ。
例えば、魔法使いだけに目つぶし出来る可能性もあるって物騒なことを考えたな、うん。
「ユキは赤熱のナイフを使ってるんでしょう? だったら、魔力の行使はもうできるはずだから……ちょっと外に出ましょうか。軒下ぐらいでいいわ」
「じゃあこっちかな。アルトさんが戻ってくるときにって屋根があるんだよ」
裏口に当たる部分に、2人を案内する。
扉を開けば、寒い空気が部屋に入り込み、お互いに身震いしてしまう。
「ちゃちゃっといきましょ。見てなさい? 赤き力よ、集え」
「火だ……」
もっと他に言いようがありそうなものだけど、そんな言葉しか出てこなかった。
ルーナの握った棒、魔法の杖かな?の先から、スーパーボールみたいな火の球が飛び出し、地面の雪に激突。
じゅわって音を立てて、しばらく炎を上げた後、消えていった。
「一番わかりやすいでしょ? お腹から力をひねって、指先とかから出す感じよ」
「う、うん。赤き力よ、集え」
同じ言葉を、唱える。
すると、確かにお腹から魔力が動いてきて指先に……あれ、出ていかない。
「ルーナ、指先で止まっちゃった」
「え? そのままそのまま。ふーん……ふむ」
そういうことはたまにあるのか、慎重に私の指先を見てくれるルーナ。
いきなり出て来ても大丈夫なように、あくまで横からだ。
「魔力を戻す感じで意識してみて? そうそう、戻ったわね。次は、赤熱のナイフの刃先から出そうとしてみて」
「えっと、こう? 赤き力よ、集え。わっ!」
今度は、握りこぶしぐらいの火の玉が、飛び出していった。
雪山にぶつかり、畳一畳分ぐらいが一気に溶けていく。
「ルーナ様、これは……」
「碌に訓練も受けてないのに、何ができるっていうの? 内緒にしときなさい」
「えっと、成功したのかな?」
硬い表情の女性騎士にびくびくしつつ、聞いてみる。
ルーナの表情が、柔らかい物になったから成功は成功みたい。
「そうね。どうやら、ユキは魔法の道具越しじゃないと魔法が使えないかもしれない。たまにいるのよ、力があっても、外に出せない人が。今日はこのぐらいにしておきましょ。今のは、アルトたちにしっかり相談しておくようにね」
「わかりました、ルーナ先生!」
ちょっとおどけていってみると、キョトンとした後、笑われた。
そのまま、帰って行っちゃったのだけど……いいんだろうか?
しばらく見送りにその背中を見た後、お店に戻るのだった。