MIN-125「次は答えを」
このお話で区切り完結とさせていただきます。
「お、おはようございます!」
「ああ、おはよう」
翌朝、自分でもわかるほどにはてんぱっている。
幸いというべきか、ユリウス様は挨拶以外特につっこんでこない。
「まあ、聞かないでおくわ」
ルーナは、なんだか呆れた感じ。
色々察してはいるんだろうなってところだ。
プラナ様は……もう馬車のそばであれこれ確認していた。
馬車3台に、後はみんな馬。
歩きの兵士はいないようだ。
「おはようございます。朝食は?」
「おはよう。ええ、いただくわ。せっかくですもの」
にこりと笑う姿は、いつものプラナ様だった。
そのことに安心しながら、またの再会を願いつつ、一緒の朝食。
「そうだ。ユキ、よかったら領地の境界まではついていくかい? どうせ、護衛がそこまではつく予定だ」
「そうなんですか? じゃあ、そうしたいです!」
お話が出来るのなら、それがいい。
朝一の微妙な気分が吹き飛ぶ言葉に、嬉しくなった。
「一応、装備は身につけていきなさい。怪物が出てくることもあるから」
「うん、わかったよ」
ルーナの忠告に従い、食事が終わるとすぐに身支度をした。
いつも装備してる赤熱のナイフ以外にも、魔法補助の杖、ポケットに魔晶石とかの入るローブ。
ポーションも、念のために数本持った。
表に出ると、私の乗る馬車がちょうど来たところだった。
「ユキ、どうせならこっちで一緒に乗りましょ。行きはカラでもいいじゃない」
「ええっと……」
兵士さんたちをちらりと見ると、顔なじみの隊長さんは頷いてくれた。
みんながいいなら、そうさせてもらおう。
プラナ様と一緒に乗り込み、行ってきますと一言。
「寄り道しないようにね、ユキ」
「大丈夫だよー」
窓から体を出して、ルーナに手を振る。
ユリウス様は……あ、こっちを見てる。
今生の別れという訳でもないのに、ちょっと大げさだなあと思うのだった。
ようやく動き出した馬車の中。
暑くなりすぎないよう、送風の道具も準備した。
(冷やすのは、体が慣れないからやめておくって言われたんだよね)
確かに、ずっとクーラーの中で生活してると、外に出た時に危ないっていうもんね。
旅が長いプラナ様たちならではの話だと思う。
「良い風ね。ありがたいわ」
「ここに魔晶石を入れると、勝手に魔力を吸っていくようにしてあります」
こっそり、それだけでも魔法の道具としては革命的な仕組みだという。
表向きには、攻撃魔法の道具にはこの仕組みは使えないことになっているのだ。
もっとも、力が尽きる前に道具として壊れちゃうだろうけども。
「ふふ。他にも、水の尽きない袋は、本当に助かるわ」
旅で、困るものと言えば食事と水。
食事は最悪、獣を狩ることもできるけど、水は川でもないと駄目だ。
もちろん、頼りきりは壊れた時に危ないので補助になる。
「お水、重いですもんね」
その声が聞こえたのか、横を進む兵士さんも馬上で頷いた気がした。
さて、何を話そうか。
そう思った時、プラナ様の雰囲気が変わった。
「ねえ、ユキ。ユリウスとは一緒になれそう?」
「ど、どういうことですか!?」
突然の剛速球だ。
どもりながらプラナ様を見ると、真剣な顔。
「一応ね、誰もいなければ私は残ることになっていたわ」
「それは……」
なんとなく、わかった。
ユリウス様に伴侶となる相手がいないことは、領内でも有名な話だ。
ご両親を早くに亡くしていることも。
跡継ぎの問題は、前からくすぶっていたのだと思う。
そこに、運営が上向いているという知らせ……誰かをあてがわねば、そういうことだ。
「私は次、友人として訪ねたらいいか、それとも……」
「それは……」
答えに困っていると、ローズが突然飛び出してきた。
威嚇するように、外に向かって吠えている。
「ローズ? 何か、来るみたいです」
「警戒! 敵襲の可能性あり!」
きりっとしたプラナ様の声が響くと同時に、周囲の気配が高まった。
怪物を相手にするような、戦いの気配。
「ユキはこの中にいるのよ」
「そんな……あっ! あっちに6つ、こっちに4つ反応が!」
私は戦いはさっぱりだ。
でも、魔力の気配を感じることはできる。
そして、使えるかどうかは別にして誰しもが魔力を持っている!
「助かるわっ!」
飛び出していくプラナ様。
領地から領地へと旅する彼女たちは、ある意味歴戦なのだ。
「私に、出来ること……」
ローズが私の手を舐める。
炎で戦う? ううん。それよりも……。
「プラナ様たちの、装備を作り替える……」
馬車の中で、息を整える。
気配から、味方の物だけを選んでいく。
1つ1つの、力をしっかりと把握して……。
「静かに眠る友よ。呼びかけに応え、互いの手を……結ばん」
言葉は何でもいい。必要なのは、力ある宣言。
私を中心に魔力が伸びていき、味方を包むのを感じた。
そしてそのまま、革鎧や長剣を包み、それらを簡易的な魔法の道具にしていく。
「ふう……」
結果はすぐに出た。
窓から見える兵士たちは、人影……盗賊らしき相手を圧倒していく。
10分もしないうちに、戦いは終わったようだった。
「無事ね、ユキ」
「はい、プラナ様こそ」
道理で、お嬢様らしくない装備だったわけである。
「もうすぐ境界だから、これで襲撃はないはず。事件があったら、その土地の領主の責任になるのよ。治安維持も、仕事だから」
つまり、さっきのはユリウス様に押し付けるための襲撃だったわけだ。
ただの、盗賊ではないということでもある。
「早いけど、ユキたちはここで戻りなさい。今なら、大丈夫だから」
「わかりました。お気をつけて」
プラナ様はにこっと笑うと、私を抱き寄せた。
「次は、式にでも呼んでくれると嬉しいわ」
「ちょ、それはっ」
まだ早い、そう言おうとして誘導されたことに気が付く。
一枚も二枚も上手な相手に、苦笑が浮かぶ。
「支度を終えたら出発よ!」
凛々しく号令を出すプラナ様を見送り、私も本来の馬車に乗りこむ。
「帰りましょう」
荷物もあまりないからか、行きより速い。
揺られながら、景色を眺める。
戻ったら、ルーナとお話しよう。
そして、ユリウス様とも。
私がこの世界にいていいのかどうかは、もう考えない。
今、私がいて生きている。
そのことが、何よりも大切だ。
「好きに、生きるぞぉ!」
もっと魔法の道具を治して、たくさんのもふもふと出会うのだ。
それと、恋が出来たら……素敵かな。
兵士さんに聞かれていたことに気が付き、恥ずかしくなりながら馬車に揺られる。
手元に飛び乗ってきたローズを撫でつつ、これからのことに思いをはせるのだった。
約1年、ありがとうございました。
状況が整えば、また書いていきたいと思います。