MIN-123「いてもいいという、許し」
「はい、そこでくるっと。うんうん、良い感じよ」
「本当にここまでやるんですか? 結構激しいですけど」
プラナ様が領主の館に滞在するようになって数日。
合間合間に、私はダンスのレッスンを受けていた。
本当は、それぞれのお家にいるような先生がいるらしいんだけど……。
ブリタンデにはそういう人はいない。
ご両親がいないのと、関係していそうだ。
「いいえ、ここまでやるのは稀よ。ただ、出来ないのとやる必要がない、とは話が違うでしょう?」
「はい、よくわかりました。あ、でもそろそろいい時間です」
プレケースには連絡をして、少しこっち側に滞在予定。
そんな状態でも、スケジュールは結構かつかつだ。
領内にいるという魔女からの、ポーションの買い付け。
冒険者たちが産出する素材を輸送用にまとめたり。
そして、分類分けされた魔法の道具たち。
「私も見せてもらおうかしら。昨日も見たけど、同じ見た目で同じ能力の魔法の道具……うん、確かに重要よね」
「咄嗟の時に、違うのを選んじゃうと不便だなあって思って」
もちろん、全部が都合よくダンジョン産、ではない。
似たようなのを、私がちょこちょこっと精霊にお願いして形をいじったのだ。
服を少し直すようなものかな?
「何かを巻き付けておく、でも見ている余裕があるとも限らない物ね。旅でもそう思うわ」
「お水を産む道具とか、絶対に必要ですよね」
色んなお話でも聞いたことがある。
旅慣れていないと、お腹を壊すと。
ベテランでも、いきなり生水は口にしないのだとか。
「そうそう、わかってるじゃなーい。ふふ、ユキとの旅も面白そうね」
「機会があれば、ぜひ」
そんなことを言っていると、また硬い言葉になってるーなんてからかわれる。
普段、ストレスたまってるのかな、なんて思ってしまう。
お偉いさんと会うこともあるだろうし、板挟みみたいな?
「いる間は、ゆっくりしてくださいね」
「ええ、もちろん。昨日の新作は美味しかったわー。あれが怪物の体を使ってるなんて信じられないもの」
「兵士さんが、昔ひもじくてとりあえず口にしたことがあるって言ってましたからね」
せっかくの機会ということで、試作しているデザートなんかを食べてもらっている。
そのうちの1つが、スライムの体を使ったゼリー系の食べ物だ。
透明な体が、全部危ないのかというと、そうでもなかったのだ。
(生きてるときは危ないけど、体そのものは酸性ってわけじゃない……なんだか、胃腸みたいだよね)
詳しくはわからないけど、死んだ後のスライムなら、良く洗うだけで問題ない様子。
それに、熱するか冷やすと、すごく形を変えるのだ。
熱するとどろどろに、冷やすとこんにゃくぐらい硬くなる。
「世の中には神秘があふれてるわあ……」
よほど気に入ったのか、ぽわんとした様子のプラナ様。
そんな彼女の横に並びながら、心の中で指折り考える。
私には、まだ出せる札がある。
でも、それは限りあるものだ。
(私は、私だけの札をしっかり育てないと)
気持ちと共に視界を切り替えると、普段の光景の中に光が増える。
物に宿る精霊、それ未満の力たち。
「ユキ」
「? なんでしょう、わぷっ」
問いかけに横を向いたら、抱きしめられた。
少し背の高いプラナ様だと、ちょうど胸に顔が挟まった。
同性と言っても、恥ずかしい物は恥ずかしい。
「大丈夫。世の中案外なんとかなるものよ? 私だって、こうして楽しい思いをさせてもらってるもの」
「……ありがとうございます」
気恥ずかしさも手伝ってか、そんな言葉しか出てこなかった。
駄目な子ね、なんて苦笑しながら言われてしまいそう。
優しい笑みを浮かべ、体を離すプラナ様を見てそう思ってしまうのだ。
「今はそういうことにしておくわ。さ、食事に遅れてしまうわね」
視線の先に、私たちを呼びに来たであろうメイドさんがいるのだった。