MIN-119「餌は見えないけどわかるらしい」
「竿よーし、仕掛けよーし、重りよーし」
「釣りの経験があるんだな、少し意外だ」
昔を思い出しながら、釣りの準備をする私。
たまたま時間があるからと、ついてきたアルトさんに向き直る。
「子供の時ですけどね。それに、ちょっとズルしちゃいますから」
ズル?なんて顔をするアルトさんの前で、私ならではの手段を見せる。
仕掛けの先には、魔力を糧にぼんやり発光する小さい球。
それだけじゃない。遠くまで飛ぶように、風を産む魔法の道具も使うのだ。
「贅沢な話だな……まあ、道楽だからな、釣りは」
「生活のためとか、食べるなら、漁でいいですもんね」
言いながら、第一投。
この世界に来てから体が鍛えられたのか、思ったよりもスムーズに投げられた。
飛んでいく仕掛けを、お願いした通りに風が包むのがわかる。
そうして、かなりの沖の方まで飛んでいく。
(リールはあるんだよねえ……私みたいな人が伝えたのかな? 発明されたのかな?)
ねじとかは一応あるのだ。
となれば、思いついた人がいても不思議じゃないと思う、多分。
「それで、深い場所にいる魚ってなんですか?」
「知らないで釣ろうとしていたのか? 大きさはそうだな、子供の腕程はあるぞ」
でかい、それはでかいよアルトさん。
私ももっと聞いておけばよかった。
基本的に、体の大きい相手となれば引きも相当な……ちょっと!?
「うそっ! アルトさん、すいません!」
「もう食ったのか。よし、支えるのは任せろ!」
一気に持っていかれる感覚。
でも、不思議なことに左右には暴れない。
どう巻いていこうか考えながら竿を握っていると、腰からローズが飛び出して竿先に乗った。
精霊に重さはないから、別に重くはないんだけどっ!
なぜか、踊りだしたローズ。
「ちょっと、ローズっ! あっ」
思わず意識を向けたからか、手元から竿を通じて自分の魔力が伝わっていくのがわかった。
慌てて力を絞るけど、竿先から糸へと魔力が伝わっていく。
しばらくすると、なぜか糸が一気に緩んでしまう。
「逃げちゃいましたかね?」
「わからん。どんどん巻いてみよう」
ひとまず、リールをひたすら巻いていく。
すると、ある程度のところで手ごたえが復活した。
つまり、魚は逃げずにこっち側に泳いでいたということだ。
(ラッキー? なんか、違うような?)
首をかしげていると、またローズが竿先で踊りだす。
今度こそ大人しくしてもらおうと、声をかけようとするとまた魔力が竿に伝わった。
どうも、竿の素材が杖に使うのと同じような物だった様子。
「あれ、また糸が緩んだ……」
「ユキの魔力を、食べてるのか?」
アルトさんに、竿から糸へと魔力が流れたことを伝えると、そんな答えが返ってきた。
もしかするともしかして、の話だ。
意識して流してみると、大当たり。
「釣れたっ! 大きい!」
「むしろ、飛び込んできたという感じだったな……」
最後はごぼう抜きという感じで、一気に引っ張った私。
そのまま飛び出てきたのは、クマが食べていそうな大きさの魚だった。
少し平たい感じだから、水底にいる感じなのかな?
「ミネウス、栄養豊富で、身も柔らかい。焼いて良し、煮て良しだ。干物にしても美味いぞ」
「そうなんですね! ひとまずはここに入れておいてっと」
釣れたとき用のいけすみたいなのに入れておく。
最初は暴れたけど、すぐに大人しくなった。
太陽は眩しいし、暑いけどもう少し釣っておきたい。
そう思い、餌を付けて……ああ、仕掛けの魔力がカラだ。
ミネウスが魔力を食べるというのは正解みたい。
「とんでけー!」
再度、風に乗せて遠投。
遠くにポチャンと落下し、待つことしばらく。
なんとなく、魔力を細かく流すとまた引いた!
「魔法使いのいい小遣い稼ぎになりそうだなあ……」
呆れ気味のアルトさんの声を聞きつつ、結局追加で2匹、合計3匹をゲットだ。
プレケースに持ち帰り……近くにおすそ分けをしつつ、うどんもどきを作る。
出汁を麺が吸い、とても味わい深いうどんになった。
(具もほとんどないのに、すごいなあ)
薬味代わりのハーブに、ミネウスの切り身ぐらいなのだけど、十分だ。
うどんもどきの種のほうは、どうしようか。
雑貨を買う時に見たことがある昔の資料にならって、踏んで作るのが一番かな。
「アンナにも手伝ってもらおうかなー」
「何をしたらいいですかー? 重い物を運ぶのは大変ですけど……」
少ししょんぼりした姿も可愛らしく、そんな彼女を撫でる。
コシの強さは好みが分かれるのがうどんだ。
あんまりコシがありすぎても、食べにくいって人もいるからね。
「大丈夫。アンナならではのことだよ」
「なら頑張ります!」
微笑みつつ、準備をしてうどんもどき用の生地を踏むように言う私。
アンナが、驚きの声を上げるのはある意味、お約束だった。