MIN-117「立場故に」
もうしばらくしたら、一度区切り完結とさせていただく予定です
「やっぱり、お風呂は最高の文化だよね」
一人……いや、お世話をしてくれるメイドさんを含めると2人か。
鉱山へもついてきてくれたメイドさんが、お風呂のお世話もしてくれた。
と言っても、私自身ローズの力を借りて水を温めたんだけどね。
薪がもったいないし、微調整が効かないから、うん。
「夏場に熱いお湯に入り、その後に風で体を冷ます……親が聞いたら、何の冗談だと言われそうです」
「あははは。そうだよねー」
一応、お風呂らしきものはあったけど、どちらかというと汚れを落とす物。
ぬるま湯でごしごしという感じで、思ったのとは違った。
そこに、自分の好みだからと熱いお湯にしたのは私のわがままだ。
「あー、でもさっぱりした。やっぱり拭くだけだとねえ」
メイドさんは無言だけど、表情が肯定している。
そんな姿に微笑みつつ、用意された服にそでを通す。
ユリウス様とルーナの家であるブリタンデ、その一員になった。
そのことは、こうして過ごす姿も変えなくてはいけないということで実感する。
誰かに手伝ってもらいながら着替える、というのはどうにも慣れない。
「ユキ様、お気持ちはわかりますが、本当は私のような立場が叱られてしまいますので……」
「そっか、ごめんね。って謝るのも簡単にしちゃ駄目か。ありがとう」
偉くなるって大変だなあと思いつつ、ルーナたちの待つ食堂へ。
もう夕暮れが近づき、油のランプと魔法の道具による灯り、両方が灯る。
夕方とかは、よく妖怪がとか聞いたことがある。
精霊は違う物だけど、共通点はあるのかもしれない。
「ねえ、見える?」
「? 星はまだ見えないかと思いますが」
やっぱり、そういうことみたいだ。
魔法の道具以外にも、精霊は宿る。
姿がはっきりしない子もいるけど、不思議と怖さはない。
(見えないようにって意識すると、見えなくなるしね)
気持ちを切り替えて、食堂へと入る。
「ゆっくりできたかしら?」
「うん、ありがとう。ルーナも元気そう」
留守番として、色んな書類を代わりに決裁したであろうルーナ。
元気そうとは言ったけど、ちょっとばかりお疲れっぽい。
「まあ、ね。今お兄様ともそのことで話していたのだけど……」
「大したことではないよ。お祭りを、しようと思ってね」
「お祭り? 収穫祭みたいなものですか?」
まだ夏真っ盛り、収穫は先のことだ。
でも、主にOL経験からは何事も早めに準備をするものだと学んでいる。
「その通り。おかげで税収は下手をすると倍近くてね。そのままだと問題になるから民に還元しようと」
税金を取る側としては、異例のことなんだと思う。
地球で言えば、景気がいいから食事券配りますね、みたいなものだ。
(でも、楽しそうだな……)
「ユキも、出したければ屋台を出しても構わないよ」
「本当ですか? やりますっ」
思ったよりも、大きな声が自分から出て来た。
そのことに自分が驚きつつ、笑みが浮かぶのがわかる。
予算はいくらでもってことはないだろうけど、かなりやれそうだ。
(何作ろうかなー。食べ物がいいよねー)
「お兄様?」
「あははは。予想以上のくいつきだ。ユキ、冷めてしまうから食事を先にしよう」
「はっ!? わ、わかりましたっ」
作ってくれた人にも申し訳ないし、ちゃんと食べないとだ。
今日も、どこか素朴で粗さを感じつつも、贅沢だろう食事をする。
香辛料がほとんど塩なのは、なんとかしたい。
ハーブとか、色々探してみるのもいいと思う。
「それと、だ。ユキ、今後のことで気を付けてもらいたいことがある」
「はい、なんでしょう」
予算の使い方だろうか?
それとも……。
「家を通して、お見合い話が来る可能性があるから、相談しておきたい」
「……はい?」
お見合い……お見合い。
なぜか通じてる言葉が、今日ほど嘘であってほしいと思ったことはない。
どうやら、私の認識しているお見合い、で正しいようだ。
急な話だけど、一体……。
「あ、そうか。一族で未婚の女が、しかもいい歳のがいるのは体裁が良くないと」
「すんなり出て来たわね。ユキの世界でも、そうなの?」
呆れたようなルーナに、苦笑しながら頷く。
晩婚というほどでもないけど、結婚してる子はしてるだろうなあと思う。
「まあ、ね。でも……うーん、ちょっと他所の土地に行くのは考えられないんですよね」
そう、そうだ。今さら他の土地で、新しい人間関係をと言われても困る。
アルトさんやベリーナさん、ウィルくんとも別れたくない。
ユリウス様やルーナ、アンナとだってだ。
「何かカバーストーリーを考えておかないといけないから、相談ということさ」
今すぐという話ではないそうなので、今後その話を、ということで食事が終わる。
なんだか変なことになったなと思いつつ、自室に戻った。