MIN-116「隣に立つのは誰?」
予約忘れてました。
山に、男たちの声がこだまする。
夏真っただ中、炎天下の山は、暑い。
それでも、穴の中に入ると少しひんやりするのは、不思議だ。
「普通は、外かそれ以上に暑いはずなのだが……」
「魔法の道具が必要だと思ったんですけど、いらないですね」
間違いなく、精霊のせいだとは思う。
どこかひんやりとした壁を、そっと撫でる。
山全体に、うっすらと力を感じるのが怖いところ。
試掘を見学している私たちの前で、みんな頑張って掘っている。
そうして掘り出された岩石たちを、選別していくわけだ。
「思ったより掘れてるんですね。試掘だからもう少し控えめかと」
「中の方が快適、となれば力が入るというものさ」
言われてみれば、そうなのかもしれない。
みんな汗はかいているみたいだけど、外にいるよりはマシっぽい。
「こいつは、いい鉄鉱石ですぜ」
「ふむ。出来るだけ早く炉を作るようにしよう」
そんなやり取りを見つつ、自分は自分で周囲をよく観察する。
精霊がいたら、ご挨拶というところ。
映画で見たような、水が出てくるようなことがなければいいんだけど……。
まだそう長くない坑道を歩くと、なんだか不思議な気分だ。
高さは私がジャンプしたぐらいだけど、すごく広く感じる。
「風を起こして空気を入れ替えたほうが多分いいよね……」
今回は、メイドさんはお留守番。
何かしてもらうわけじゃないからと、掃除もかねてだ。
もっと言うと、ここに来ると汚れるんだよね。
(私自身も、出来ればふもとにいたほうがと言われたけど)
そこは、精霊関係でごり押した。
そうして歩いているうちに、感じ取る。
この山が、やっぱり精霊の住んでいる場所なんだと。
言うなれば、例の火山と似たようなものなのだ。
「そろそろ戻ろうと思うのだが」
「はい、わかりました。見るものは見たと思います」
満足そうな表情のユリウス様。
一緒に外に出ると、日差しが襲い掛かってくる。
「移動の間が一番暑いというのは、なんとも……」
「もうセレスティアに戻るのですか?」
問いかけには、頷きが返ってきた。
思ったよりも短い滞在というべきだろうか?
ふもとに戻ってすぐ、ユリウス様は宣言通りに帰り支度を始めた。
採掘できた一部の積み込みと、ここに滞在する兵士さんの準備だ。
私も、用意して来た魔法の道具から、役に立ちそうなものをいくつか置いていくことに。
「用意がいいことだ」
「こんなこともあろうかと、です」
怪物退治用の物、生活が便利になるもの、といった感じだ。
何分、娯楽もなければ生活も不便、だとなかなかね。
行きよりも、ある意味荷物を重くしながら馬車は出発だ。
─帰りは少し急ぐ予定だ
そうユリウス様が宣言した通り、行きよりも急ぎの様子。
野営も楽しみではあるけれど、出来ればベッドで寝たい気分。
一応、馬車の中はそれらしく整えられてはいる。
私はユリウス様とは別の馬車で、メイドさんと一緒だ。
見張りの兵士を除き、みんな休み始めている。
「ねえ、結婚を考えている相手はいるの?」
「急ですね……ええっと、はい。幼馴染なんですけど」
ぼんやりと寝転がる私の突然の問いかけ。
だというのに、丁寧に答えてくれたメイドさんに感謝だ。
「それは素敵ね。稼ぐなら、このまま結構稼げると思うよ」
「少しばかり、普通じゃない騒がしさがあるのは、飲み込んでおきます」
思ったよりも、現状に慣れて来たらしいメイドさん。
人によっては怒られそうな発言も、私には面白く感じられる。
確かに、私といると稼げるだろうけど、忙しいかもね。
「試しに作った魔晶石、売れば良いお金になると思う」
「ええ、だからです。ユキ様自身、忠誠の言葉より、この方がいいとおっしゃってるわけですし」
月明りに光るのは、私が試しに作り上げた魔晶石。
魔法の増幅にも使えるらしいそれは、結構な値打ち品だ。
大きい物は魔法使いの切り札の1つ、と言えばわかるかな。
「私自身は偉くないからね―。ユリウス様やルーナは偉いんだけど」
「……私は、気持ちに正直なのがいいと、学びました」
「あはっ、わかりやすかったかな?」
問いかけには、無言の頷き。
どうやら、メイドさんにはばれたらしい。
日中、私が視線をちらちらと向けた先にいた、ユリウス様への気持ちに。
(さて、どうしたものかなあ)
突然膨らみ始めた気持ちに、どう付き合った物か。
悩みながら寝てしまう私だった。