MIN-113「山のふもとへ」
数日の旅は、とても有意義な物だった。
「次もユキに付き合ってもらおうかな」
「私も、面白かったです。おとぎ話とかも、知らない話ばかりで……」
暇をつぶしたいのはユリウス様も同じだったのか、色々とお話をした。
この世界の事、国の事、みんなのこと。
私からも、当たり障りのない範囲での地球の事。
(さすがに、兵器の類はどんなものがあるっていうのもやめておいてよかったかな)
火薬の類は見たことないけど、領主の力でどうにか出来ちゃいそうなのが怖い。
何より、私もきっと魔法の道具をそういう方向で作ることも不可能じゃない。
火を生みだす物を筒に閉じ込めるだけで、原理的には再現できるのだから。
「待機しててと言われたけれど……」
馬車が止まったのは、山のふもと。
切り開かれた、街道未満といったような場所だ。
ログハウス的なものが、いくつも建てられている。
そんな中の1つに、案内されたのだ。
「ねえ、特には聞いてないのよね?」
「はい。お世話をするようにとしか……」
壁際に立っているのは、私付きとして一緒にやってきたメイドさん。
たぶん中学生ぐらいかなあ?とても可愛らしい。
最初、丁寧に話しかけたら、自分が叱られるから上役らしくしてほしいと言われてしまった。
そんな彼女も、細かいことは聞いていないようだ。
待っててもいいけど、ここは私もブリタンデの一員として、外の様子を見るぐらいはしよう。
「ついてきて。外を見るわ」
一応、赤熱のナイフは常備している。
他の道具も、いくつかをこっそりと装備。
メイドさん的には、荷物は自分が持ちたいだろうけどこれは駄目。
外に出ると、風が通り過ぎた。
山からの、吹きおろしだろうか?
暑さの中にも、爽やかさを……。
「何か……いる」
「ユキ様?」
一瞬、ぼんやりした思考が戻ってくる。
不思議そうにこちらを見るメイドさんの姿に、正気を取り戻した。
(今の感覚……)
私が精霊を呼んでいるのか、精霊が私を呼んでいるのか。
あるいは、意外とあふれていて、私が気が付けるようになったのか。
なんとなく、どれも正解のような。
「ユリウス様を探すわ」
そう告げて、ゆっくりと歩き出す。
と言っても、陣地としてのログハウス群か、鉱山の方しか選択肢はない。
「ユリウス様」
「ユキ? 待っていていいといったのだが……ふむ、話を聞こうか」
別のログハウスの中にいたのは、外向けの態度なユリウス様。
私もそれに合わせるように、頭を下げてから近づく。
そっと耳を拝借して、精霊の強い気配を感じたことを告げる。
「なるほど。やはり、君を連れてきて正解だったようだ」
「何か、あったんですか?」
私の疑問の答えとして、何人かの男性が紹介される。
彼らは、鉱山だろう場所で試掘している人たちだそうだ。
そこで見聞きした、不思議な出来事。
曰く、光る石が出て来た。
曰く、一晩たったら穴がふさがっていた。
曰く……。
「有用そうな鉄鉱石だろうものも出て来てね。なかなか難しい」
「そういうことですか……その石たちはどこに?」
本当は、なんとなくわかる。
部屋の隅に置かれた木箱から、今も気配を感じるからだ。
予想通り、運ばれた木箱が開かれ、中身が見える。
「精霊を感じますね。これ、多分全部魔石、魔晶石の類ですよ」
透明感はあまりない、石英な感じの塊たち。
水晶と呼ぶには、難しい感じの石だ。
「むしろ、悪くないんじゃないでしょうか。出てくるものが、有意義な物が多いという点で」
言いながら、問題点も言ったようなものだと自分でも思う。
すなわち、山にいる精霊たちにちゃんと向き合わないと、いつぞやのように痛い目を見るぞと。
「そういうことか。さっそく、手配をしよう。山に感謝を、自然と共存せねば」
さすがに言いたいことが伝わったようで、動き始めるユリウス様。
人々を引き連れて、どこかに行ってしまった。
私はと言えば、試掘で出てきたという魔石たちを手に取り、観察だ。
伝説の武器の中には、全部が高密度の魔晶石の類で出来てるだろう物があると思う。
込めた力で色が変わる刀身とか、その最たるものだ。
宿っている精霊を確かめつつ、力を少し通して……うん。
「ユキ様、それは……」
「あはは、内緒だよ」
誰もいないことを確かめて、ちょっとだけ魔石をいじった。
小さくなり、その分力を増したそれを手に、メイドさんに内緒のポーズだ。
そのまま私も外に出て、周囲を観察する。
自然あふれる、いい場所だ。
この場所も、鉱山が本格的に始まれば開拓されるのだろう。
(いい共存ってなんだろうなあ)
精霊は、どこにでもいる。
自然の、どこにでも。
人と過ごさない精霊もいるけど、人と過ごすことが前提の精霊もいる。
まだ全部はわからないけど、そう感じるのだ。
「私にできることを少しずつ、か」
まずは井戸をどうするかかな?と思いながら、ユリウス様が戻ってくるのを待つのだった。