MIN-105「勧誘と受諾」
「確かに、聞いたことのある力を感じるね」
「金貨何枚ぐらいかしら……」
献上という形で、ユリウス様に守護宝珠を見せた私。
人払いをして、私とユリウス様、それにルーナの3人だけだ。
予想通りと言えば予想通りの反応に、一人くすりと笑ってしまう。
「問題はどこに安置するかだけど……まあ、無難に石碑のところだろうね。じゃあユキ、設定を頼むよ」
「わかりました。守る相手は……」
一応、追加も削除も出来るんだけど、今のところは2人。
ユリウス様と、ルーナ……当然だよね。
そう思ったのだけど、追加で私を入れるように言われた。
「私もいいんですか? その、他人ですけど」
「構わないよ。そのことで少し話もあるし……何より、入れなければ妹に怒られてしまうよ」
「そうよ、ユキ。貴女だって、もう余所で住んでもらっては困るのだから」
(おや? なんだか風向きが?)
2人の事だから、単純に私を入れてくれる可能性は考えていた。
お金の源だし、領地のためにも色々治せたりするからね。
まあ、それだけのお付き合いはしてきたという自覚がないわけじゃない。
ではあるんだけど……。
「その……ユキは、向こうに戻れないのよね?」
「うん。向こうにも多分私はいて、こっちの私は私だけ……よくわからないけど」
「正直に言おう。建前だけだった遠縁ということを、本当にしないか?ということさ」
2人とも真剣なまなざしだ。だから私も真剣に考える。
遠縁だということを本当にする……それはつまり。
「一族に養子とかで入るということですか?」
「そうなるわね。その、両親とかは死去していて、ひっそり暮らしていたところでウチとの関係が発覚、と」
「適当だと思うかい? 意外と、本当にあることだから誰もつっこみは入れてこないはずさ」
そういって笑うユリウス様は、とてもうれしそうだ。
遠慮……はしなくてもいいんだろう。
むしろ、応えたいと考える私がいた。
「わかりました。よろしくお願いします」
「じゃあ、苗字もちゃんと覚えないとね。ブリタンデ、それがウチの家名よ。大貴族って程じゃないけど」
「元は、遠征時に前線に向かう騎士の家系でね。その時々、臨時で領地を頂いていたのが、先代でようやくここに固定さ」
人に歴史ありとはよく言った物だと思う。
ひょんなことから、昔の話を聞けた。
ブリタンデ……うん、それが私の新しい苗字。
「たまに、中央とかのパーティーに呼ばれることもあるけど、変なのに掴まっちゃだめよ?」
「変なの……うーん、今のところ結婚願望はあまりないかな?」
「なら大丈夫かな。花に誘われる蜂は多いからね」
今は、こうしてみんなと過ごしてるのが楽しいというのが大きい。
それに、こういってはなんだけど、ユリウス様以上に素敵な男性はなかなかいないと思うのだ。
接するようになって、柔らかい口調になったユリウス様は、カッコいい。
なんというか、まさに親戚のお兄さんって感じで、ちょっとときめく。
(ちょっと、も嘘かな……?)
「さて、表向きにもちゃんと遠縁の子を招き入れたと宣言すると、少しお仕事も増える」
「変な物じゃないわよ。書類とかで、決裁の権限をあげられるってことね」
「私、そんな経験ないよ? じゃない、ないですよ?」
とんでもない発言に、必死に言うけど、2人は笑ったまま。
本当に、私はただのOLだったんだから……!
「大丈夫よ。やることはそう変わらないわ。でも、ユキの判断で予算が出せる。例えば、新しいレシピを試す時に予算をこっちに聞かなくていいの」
「あ、そういう……う、でもそれはそれで責任がしっかりだね」
地球の感覚でやったら、予算がとんでもないことに!ってこともありそうだ。
でも、これで私も……関係者。
そのことが、とても嬉しく感じる。
「ふふ、そうね。じゃあユキ。さっそく守護宝珠を安置にいきましょう」
「私も見させてもらおうかな」
そういうことになった。
2人の先導に従い、前に祈りをささげた石碑のある場所へ。
それらしい布を下敷きに使うことにして、そっと添える。
「2人とも、魔力をちょこっとだけ指先に……そうそう」
宝珠の中に、魔力を垂らす感じで登録はOKだ。
ぽわっと光った気がしたと思うと、白クマ、エメルが出て来た。
「この子は、エメルって名付けました」
「そうなのね。エメル、末永くよろしく」
「私もだ……ん? このぐらいになると、私にも見えるね」
また1つ、精霊のことがわかって、わからなくなった。
でも、危ないことじゃないからいいかな?
部屋に戻って、雑談をしていれば時間は過ぎる。
その日の昼食は、なんだかプレケースでしているような、家族の食事だった。




