MIN-104「もふ……もふ?」
「こちらが、用意した材料になりまーす」
「わーい!」
雑貨屋プレケース。
その自宅側のリビングに、声が響く。
私と、お手伝いにやってきたアンナの声だ。
お店の方は、ベリーナさんがやってくれている。
ウィルくんも、この時間は起きていることが多くなってきたみたい。
「お姉さん、どうしてこんなに大きいんですか? このぐらいの大きさ何ですよね?」
「それはねー? 作ると、丸く小さくなるんだって」
嘘か本当かは、やってみないとわからない。
でも、ぎゅぎゅっと小さくするのは必要そうだとわかる。
テーブルに置かれた、枕程もある木材。
トレントの物だと、今の私にはよくわかる。
なんというか、何か漂ってくる感じなのだ。
「じゃあ始め……ローズ?」
ローズだけじゃない。
部屋にあった、いくつかの魔法の道具から精霊が出て来た。
それだけじゃなく、部屋中のあちこちから光の球。
(精霊……? どうして……)
悪い感じはしない。
ふわりふわりと私の周囲を飛び、そしてテーブルの上に。
見守っているかのような姿に、微笑んでしまう。
「何か、いますよね?」
「うん。また今度、特訓しようか」
そっとアンナを撫でて、木材に集中。
長老曰く、祈りを捧げよ、とのこと。
随分と、適当だなあと思うけど、そもそもの守護宝珠の始まりがそんなものなのだという。
昔々、力ある人が、人々のために祈った結果だと。
(この世界の人間じゃなさそうですけど……それが許されるのなら……)
─私は、この世界でみんなの笑顔のために生きたい
「自分だけじゃない……みんなの、笑顔のため」
「あ……」
目を閉じて、集中。
浮かんでくるのは、この世界に来てから出会った人たち。
起きた出来事、感じた気持ち……。
みんな、本物だ。
夢じゃない、きっと本物。
だから……。
「お願い……っ!」
一瞬、時間が止まった気がした。
周囲に漂う精霊たちから少しずつ。
私の中からも、少しずつ。
力が、木材に吸い込まれていく。
すると、徐々にそれは形を変えていく。
縮まり、丸くなり……緑と茶色の混ざった、綺麗な宝珠になった。
「透明だ……すごい」
「綺麗ですー」
木材なのに、まるで宝石のように透明感のある球になった。
でも、模様というか中身?が植物を感じる。
そっと手にして、呼びかける。
「うわっ……大きい!」
守護宝珠も魔法の道具だというのなら、精霊が宿っていると考えたけど当たり。
出てきたのは、1メートルはあろうかという熊だ。
優しい瞳の、焦げ茶色の毛並み。赤い瞳が、意外に怖くない。
まるで犬のように、スンスンと匂いを嗅ぐようにして、顔をこすりつけて来た。
「よろしくね……名前はどうしようかな……」
ひとまず、もう1個作ってから考えることにした。
同じように、木材を置いて集中。
先ほどの繰り返しのように、宝珠が出来上がった。
今度は……あ、白クマだ。緑の瞳が綺麗。
「どっちも熊さんなんですか?」
「私にはそう見えるよ。すっごいもふもふしてる」
大きいから、もふもふというより、もっふりというか……うん。
どっちも、なついてくれてるから問題はないかな?
「名前名前……よしっ! 君がガネッサ、君がエメルね」
名づけが終わった途端、2匹ともちょっと光り出した。
おおお? と思ったら、何かが流れ込んでくる。
宝珠2つの、性能だ。
私にわかるようにたぶん翻訳されている内容からすると、面白い。
守る相手を登録できるみたいで、害意がある存在が近づくと教えてくれるみたい。
後は、体調を整えてくれるとか。
「ふふ。よろしくね。じゃあアルトさんにベリーナさん、ウィルくんと、アンナもかな」
「私もいいんですか? やったー!」
嬉しそうにはしゃぐアンナの姿に、こちらまで嬉しくなる。
次に領主の館に行くときに、あっちに安置すればいいのかなと思いつつ。
まずは片方をこの家に設置するべく、報告に向かうのだった。




