MIN-103「願いの証」
「高いものではないですが」
「何、冷えておればこの時期は甘露じゃの……うーん、美味い」
長老の言うように、最近はすごく暑くなってきた。
湖が近く、日本ほどじゃない気候だからまだマシだけど。
今のところ、氷を出せる道具が少ないのは問題だ。
「こちらが長老さん?」
「はい、ユリウス様やルーナのお師匠でもあるそうです」
「なあに、しがないじじいじゃよ」
お店の方は、少し早いけど閉店。
時計なんてないから、開店も閉店もある意味適当だからね。
何かあれば、ベルが鳴るから大丈夫だと思う。
「さて、話は……おお、守護宝珠のことじゃったな」
「名前的に、何かを守る……例えば、街に置いて外敵から守るとかですか?」
ゲームやアニメの知識から適当に言ってみたけど、大体当たりらしい。
良いカンをしている、と褒められた。
「その通り。国によっては、代々の王族が力を注ぎ、維持している場所もあると聞く。効果は……そうさの、正直宝珠によって違うというしかない」
続けて聞いた話によると、効果範囲も様々で、家一軒分しかない宝珠もあるそうだ。
その効果も、範囲内だと病気になりにくくなるとか、怪我が早く治るとか色々。
あれだろうか、休憩場所を作るようなイメージなのかな?
「聞いたことがあるわ。ダンジョンの中にあるそれを、持ちだすことができると」
「それも正解じゃな。稀に、そうして運び出すこともできる。もっとも、維持が大変らしいがの」
「そんなのが、作り出せるんですね。それも、私が可能だと」
聞く限りでは、かなりのレア物品。
それこそ、作れるとなればお金もかなりの量が動くんじゃないだろうか。
そう考えると、あまり目立ちたくはない……今さらだけどね。
「問題の多くは、ユリウスに投げればよかろう。個人的には……この店と、館での部屋ぐらいは守れるようにしておいたほうが良さそう、というところじゃな」
「あっ……なるほど」
長老はこう言っているのだ。
敢えて、範囲の狭い物を作って自分の身を守れと。
大体的に作り出した、とは言わずにそうしてしのげということだ。
「落とし子とはいえ、もうこの世界の一員じゃ。健やかに過ごしてほしいのだよ」
「ありがとうございます。それで、やり方は?」
肝心のやり方、例えば素材として何か必要、とかが必ずあると思う。
それが、希少品だったらなかなか難しい。
「核となりえる素材に、祈りと力を注ぐだけじゃよ。願いの証として出来上がる。ユキ、お主なら簡単じゃろう」
「それって……魔法の道具を、精霊を形にするのと同じ?」
恐る恐るの問いかけに、あっさりとした頷きの返事。
そうなると、やり方によっては私は先に守護宝珠なるものを作っていた可能性がある。
今のところは、出来てないからこその話だとは思うけどね。
「最近の話からすると、トレントの幹に近いところをそうさな……拳ぐらい削りだしたのを使えばいいじゃろう」
「さっそく、明日にでもやってみますね!」
以前、街の近くまでやってきたトレント。
その体は色んな素材になり、中央にも売られたと聞く。
でも、なんだかんだセレスティアや、そもそも領主にも献上されているのだ。
(いくらぐらいだったかな……)
あまり使うことのないお給料、そして色んなことへの報酬がたまっている。
それなりの買い物は出来るだろうという自信はあるんだよね。
「期待しておるぞ。そうそう、かつて魔法の道具を産み出した神は、決まった時間や天候の時にまとめてそれらを作ったそうじゃ」
「決まった時間……ありがとうございます!」
帰るという長老を見送りに外に出ると、ちょうどアルトさんが戻ってきた。
長老とは知り合いなのかわからないけど、無言の会釈の2人だった。
「なかなかやる老人のようだ」
「ええ、ユリウス様のお師匠さんだそうですよ」
そんな言葉に、なるほどななんて微笑む姿は俳優の様。
少しどきっとしつつ、ベリーナさんと一緒に夕食の準備だ。
となれば、守護宝珠の話も出るわけで。
「確かに、あれば便利だな。性能も様々……冒険の時に、野営をしやすくするぐらいの物から、街を丸ごと障壁で覆うようなものまであると聞く」
「あんまりすごいのだと、色々問題になりそうなので、適当にやりますよ」
「でもユキだからねえ……本当に手加減するのよ?」
「うう、そう言われると……」
落ち込むようにうなだれた私を、起きて来たウィルくんが笑った気がした。
微笑みつつ、手を伸ばせばぎゅっと握り返して……。
「ウィルくんが巻き込まれないように、頑張りたいです」
「あまり無理はしないように」
決意の言葉に、優しくも力強い言葉が返ってくるのだった。




