MIN-101「世界とのパス」
水が合う、という言葉がある。
不思議と、有名どころの素材よりも地元の素材を使った方がいいとか。
その土地の物を活かした、とも言い換えられるかな。
小物を買いに行った先、民芸品を売っているお店。
そんな場所で、ちょくちょく聞く言葉でもある。
素材に、その土地ならではの物を使うのだ。
「見る人が見れば、どこで作られた水薬かってわかるそうよ」
「なるほど……。薬草類も、土地ごとに生え方とか違うんですね」
今日はプレケースで働く日。
買取希望で持ち込まれた水薬を見ながらの会話だ。
当然、工場生産品ではないから、ラベルなんてない。
物によっては、魔女みたいな水薬作り専門のところに渡すのだとか。
「少し減ってるのは、鑑定のためにですよね」
「そうそう。ちょっとだけ使うの。だから、新しく作る場合は、多めに、ね」
中古の水薬、だと問題がある場合がっていうのはこういう時だ。
全部飲まないと効力が足りないってこともあり得る。
(病気を治すようなのも、あるのかな?)
栓のされた水薬の瓶。これ自体、ダンジョンとかで中身ごと手に入る時があるという。
不思議過ぎて、考えるのをやめた方がいいことだと思うんだよね。
神様の手作業とか? それはないか。
「あ……」
ふと、窓からの陽光に透かすと、動くものが見えた。
小指の先ぐらいの、小さな小さな精霊さん。
弱ってる様子はなく、これが普通みたい。
「ユキ、少し変わったかしら?」
「んー、どうなんでしょう。私としては、そんなに大きな違いはないと思うんですけど」
先日の、街の名前の名付け。
儀式は無事に終わり、ユリウス様からは名前の布告と、事業の宣言がされた。
避難してきた人たちで、こっちに移住予定の人も参加できる大事業だ。
代わりに、元の場所に戻りたいという人たちの準備も始まった。
それを手伝っているうちに、私は自分の変化に気が付いたのだ。
それは、周辺との魔力的なつながり。
「大事に、していかないとね。強すぎる力は、厄介事も誘うというわ」
「はい、それはもちろん。槍の方も、うんともすんとも言わないからいいような……」
そういう問題ではないかもしれないけど、ひとまず直近は大丈夫そう。
と、ドアベルが鳴って、やってきたのはお使い帰りのアンナだ。
「終わりました!」
「お帰り、大丈夫だった?」
「もー、心配しすぎですっ!」
今日も元気いっぱいのアンナだった。
なんでも、お給金で家族のためにプレゼントを買ったらしい。
とてもいい子で、お姉さん、泣いちゃいそうです。
「ユキお姉さんは、お仕事大変ですか?」
「大変は大変、かな? でも、大丈夫」
やりがいはあるし、報酬もちゃんとある。
まだこの世界での金銭感覚はどうかなあと思うレベルだけど。
あまり使うこともないし、イマイチわからないんだよね。
「あ、いらっしゃいませー」
なんだかんだ、お客さんは途切れない。
今も、店内には何人かの常連さんが棚を回っている。
売れるし、入ってくるし、で結構変わるようなんだよね。
主に、冒険者や旅向けのコーナーの方だけど。
「住む人も増えるなら、雑貨も売れますかね」
「たぶん、ね。家具なんかは、注文が多くなってるようよ」
そろそろ、この街……セレスティアにも、武具屋みたいなのがあっていいように思う。
今みたいに、鍛冶屋さんとプレケース、それに酒場の一角とかバラバラじゃなく。
魔法の道具だった場合のために、主にここに集まるみたいなんだよね。
かといって、ギルド的な建物に武具がずらっていうのも威圧感があるかな?
「鍛冶屋さんでも鑑定が出来れば……うーん、ご飯の種が無くなっちゃうか」
「一番は、依頼や仕事の集まる酒場とか集会場でしょうね」
「剣とかは、売る時もどきどきします!」
今のところ、ろくでもないような相手はいないけど、これから先はわからない。
ベリーナさんやアンナを脅しつけるような人が来ないとも限らない。
アルトさんがいつもいるわけじゃないのは、ちょっと通えばわかるもんね。
「用心棒兼店員、かあ……」
買い取った魔法の道具をいじりつつ、考えをめぐらす私。
前より、なんだか道具たちの精霊が見えるようになった気がする。
魔法の道具になる前の、気配というのかなあ?
(ふわっとした光みたいなのが、そうだと思うんだよね)
もしくは、さっきの水薬に感じたようなのとか。
これも、この前の儀式で宣言したからだと思う。
私が、この土地、この世界の同胞になるのだという宣言。
どこかで、もう私が戻れないんじゃないかということを、自覚した瞬間でもあった。