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MIN-009「もこもこ増産中」



 やってしまった……何してるんだ、私。


「ユキ、気を付けなさいよ、ほんと……」


「普通のにゃんこだと思ったんだよ……」


 ルーナの呆れた声にうつむきながら、足先にすり寄ってくる猫……みたいな精霊を撫でる。

 気持ちいいのか、それとも私の何かが美味しいのか。

 もこもこすべすべで、温かい。


(これが精霊で、本当の動物じゃないって言われてもなあ)


 1度だけいった、猫カフェを思い出す。

 たぶん、抜けていった魔力のせいだろうけだるさが、持ち直してきたようだ。


「室内履きに、いいかなって思って持ち出した私も私ね。まさか、だけれども」


「あ、じゃあもう普通の履物だよって扱いだったんだ?」


 視線の先は、猫が出て来た魔法の道具─どう見てもファーな飾りの靴。

 靴下はなく、直に履くと気持ちいいのは確か。

 履いたときに、どこからか猫が来たから撫でて……で、ルーナにばれた。


「兄はそのあたり、気を使ってくれるけども……どうにもならない時って、世の中あるからね」


「そうだよね。怪物だっているし、その……戦争だってないわけじゃないんでしょ?」


 憂いの表情で頷く姿も、絵画のように似合う美少女ってすごいなあ。

 っとと、そんなことを考えてると知られたら、さすがに怒られそうだ。


 代わりに、周りを見渡す。

 ここは、領主の館の隅っこ。


 アルトさんが領主様に呼ばれ、私はルーナに呼ばれた。

 ルーナのおてんば具合は有名なようで、町の人たちは新顔が誘われたんだ、ぐらいに思ってくれてるみたい。


「怪我で引退したとはいえ、うちにはアルトをはじめとして腕の立つ人が何人もいるわ。小競り合い程度でも、そうそう起きないでしょうね。地理的には戦争になるようなことは、まずありえないわ」


「アルトさん、そんなに強いんだ……」


 なんとなく、そんな気はした。

 引退したといっても、それはすごい場所で無理ができない、という程度だろうと。


「多くの魔道具を駆使し、戦場を戦い抜いた英雄、多くのダンジョン、遺跡にも潜ったトレジャーハンターでもあるわね」


「だからお店をやろうとしたんだねえ……ありがと」


 ルーナが、私にちゃんと教えてくれたことが嬉しかった。

 たぶん、何も知らないと変なやっかみを受けるかもしれないとか考えてくれたんだろうね。


「別に……友達、だもの」


「……ふふっ」


 顔を赤くしてそっぽを向くルーナに、微笑んでいると足先を猫が噛んだ。

 甘噛みだけど、構ってってところだろうか。


「よしよしっと。お前は何ができるのかな? 猫だから、抜き足差し足忍び足ってとこかな?」


「……なるほど、精霊がしっかり見えると推測も出来るわけね」


 へ?っと顔を上げると、説明してくれた。

 この靴、魔力を消費して足音や気配が消えたりとかが出来たらしい。

 普段は役に立たないけど、外履きでもいけるらしいということで考えを変える。


(もし、冒険に出る時があったら奇襲とかしやすくない?)


 物騒な話だけど、逃げるのにも役立ちそうである。

 本来なら金貨何十枚って値段だけど、そのままなら普通の靴に戻ったはずだったからいらないとのこと。


「気にしないの。ここで変にお金が動く方が、疑われるわ」


「それもそっか……うーん、代わりって程じゃないけど、クッキー食べる?」


 今さらながら差し出したのは、焼いて持ってきたクッキー。

 パンがライ麦のばかりだったので、値段が不安だった小麦粉は思ったより高くなかった。

 単に、そうやって使う文化があまりなかっただけのようだ。


「ふうん? お菓子、かしら。いただくわ……出来れば温かいうちに食べてみたいわね」


「おお、鋭い。さすがいいところのお嬢様。冷めても美味しいように作ったけど、確かに出来立てはそれだけでも美味しいよー。砂糖使うから、誰でもっていうわけにはいかないんだけど」


 実際、使いすぎないようにと思ったからやや甘みが薄い。

 これはこれで、悪くはないんだけどね。

 コスト的には、コンビニで売ってるスイーツ、ぐらいのやや割高って感じ。


「また遊びに行くわ。その時に、ね?」


「いいよ? こんなの貰っちゃったし……うん」


 ふと、ナイフの犬と靴の猫は喧嘩しないのかな?なんて思ってしまう。

 どっちも仲良くしてくれるといいんだけど……。


「アルトからも聞けると思うけど、案外魔法の道具、魔道具はそこらじゅうにあるのよ。基本的に壊れなくて、力が尽きたら普通に使えるだけだから。色々集めて、アルトが潜った時に見つけたっていうことにしておいたらどうかしら」


「2人に相談してみる。さすがに、何回も完全な状態で見つかることは少ないみたいだし……ベリーナさんだけの時に泥棒とか、怖い」


 そんなことを話していると、ノック。

 扉を開いてやってきたのは、アルトさんだった。


「待たせたな、ユキ」


「お話はもういいんですか?」


 領主様、ルーナのお兄さんとの大人の会話。

 私自身、中身は大人のつもりだけど偉い人との会話は苦手。

 首を突っ込む予定は、今のところない。


「ああ。特に問題はない……そっちは少し問題……まではいかないようだな。ふむ……俺が渡したとしておけば、いいか」


「そうしてちょうだい。見る人が見れば、わかってしまうもの」


 アルトさんにも、靴が復活したことがわかったようだった。

 いつも持ち歩いているらしい革袋に、押し込むようにして靴を仕舞う。


「またね、ユキ」


「ルーナも、元気で。待ってるね」


 ひらひらと手を振り、学生時代にあったような感覚を味わいながら、館をアルトさんと一緒に出た。


「ベリーナを、頼む」


「はい。頑張りますよ」


 その言葉から、なんとなくアルトさんの頼まれごとが分かったような気がした私だった。



 

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