第6話洞窟の中には伝説の巨大ロボがある
森の中に入って数分もしないうちにプスンという音とともにランサーは止まってしまった。
ガス欠だ。
もともと燃料をあまり入れていなかったのか、それとも燃費が絶望的に悪いのか、いずれにしても運の悪いことだ。
少し愛着がわき始めた赤い機体を森に捨てて歩き出した。
森の中だけれども、ちゃんと整備された道がある。さすがに舗装はされていないけど、快適に歩ける。
追手達もこの道を通って追ってくるかも知れないが、深い森を分け入って進むのは、遭難しにいくようなものだ。
こんな田舎臭い国では、森の中にポツンと一軒家も望めないだろう。
僕はトボトボと歩き続けた。
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何時間歩いただろうか。日がすっかり高くなっている。
「……足が痛い。 喉乾いた……」
僕は元々インドア派だし、部活をやったこともないので、体力に自信がない。体力の無さに自信があると言った方がいい。
沿道の木の下に座り込み、目を閉じてうずくまると野鳥の声が聴こえる。
鳥の鳴き声は異世界でもあまり変わらないらしい。
単に森を見て鳥の声に耳を傾けていると、まるで日本にいるのではないかと錯覚を覚える。
ふと、鳥の声に混じってガタガタという音が聴こえてくる。
僕が歩いてきた方角から聴こえる。よく聞くとガタガタという音に混じってエンジン音のようなものが聴こえる。
ランサーが追ってきたのか? 慌てて木の陰に隠れる。
やってきたのは車だった。そう、1台の自動車が道をゆっくりと近づいて来る。
「おおーい! おおーい!」
手を大きく振りながら駆け寄る。
その自動車は耕運機の後ろにリヤカーの荷台を付けたような形状をしている。
なんだよ、車輪付きの乗り物がちゃんとあるじゃないか!
車には2人の女が乗っていた。
「あれっ? フウガ様、なんでこんな所に居るんですか?」
乗っていたのはシルビィとサリィの姉妹だった。
自動車があるならロボットじゃなくて車の方を貸してほしかった
「お前たちこそどこへ行くのだ?」
「私たちはこの先の村にあるロボの整備に向かうところです」
シルビィもまだ僕がフウガじゃないことに気づいていないようだ。
「ちょうど良い、乗せて行け」
荷台に乗り込みサリィの横に腰を下ろす。
シルビィは前方の動力車に乗り、振り向いて水筒を渡してくれた。
臭く生ぬるい水だが、ひび割れそうな喉の粘膜に染み込んでいき、生き返る思いがする。
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恐ろしく遅い車で3時間ほど走ると民家が数軒並んだ小さな村に着いた。
農村の家といった感じで僕の田舎とあまり変わらない風景だ。
「これはこれは、お城の技師様、いつもご苦労様です」
村長だろうか、腰の曲がった老人が挨拶をしてきた。……あの基地だか要塞みたいな物は、どうやらお城だったらしい。
「集会所に食事を用意してございます。まずはそちらでお休みください」
「いや、先に作業をさせてもらいます」
本当は凄く休みたいし、空腹で今にも腹がなりそうだが、シルビィが仕事モードに入ってしまっている以上、将軍様が休みたいとは口が裂けても言えるはずがない。
「さようでございますが、ではご案内いたします」
「洞窟には何度も通っているので場所は分かります。自分たちで行きますので終わったら集会所に報告に行きます」
シルビィは村長に一礼して森の奥に進みだした。
「こんな森の中に洞窟があるのか? そこでロボットでも作っているのか?」
「まさか! でも、そうですね、いつか私にも転移人のようにロボが作れるようになれたらいいですね」
転移人、つまり僕のような異世界からやってきた人間がロボットを作ったのか。
どうりで仕組みが自動車ぽいと思ったよ。
20分ほど歩いただろうか、道端にへたり込みそうになった頃、ようやく目的の洞窟に到着した。
「これは……大きいな」
日本の観光地によくある洞窟レベルを想像していたが、これはスケールが違った。
キリンとゾウが並んで入れるくらいの高さと幅がある。実際にはもっと大きいだろう。
じめじめした高い天井を見上げながら進んでいく。
時々落ちてくる水滴を警戒しながら歩いていたが、奥に行くにしたがって段々と暗くなっていき、何も見えなくなった。
シルビィがカンテラを灯して先を照らす。
数百メートル進むと行き止まりになり、シルビィは壁のレバーを上げて天井の照明を付けた。
「ムグッ!」
目の前に現れたものに驚いた僕は、慌てて口を押えて声が漏れるのを防いだ。
それは巨大な獣に見えた。
しかし、落ち着いてよく見てみると、金属質な表面や直線的なシルエットは、やはり人工的な造形物であることを示している。
四足歩行の横長ボディ。
見上げると10メートル程上に大きな顔が見える。
ランサーとは比べ物にならない。数倍の大きさの巨大ロボだ。
顔の先端に1本の長い砲身が伸びている。
腕は胴からではなく、顔の両横から1列に触手のように細いのが何本もうねうねと生えている。
動かないで垂れ下がった腕達はまるで2枚のヒレのようになって、まるで巨大な耳のようだ。
全体的に見ると、人型ロボットというよりは、……ゾウにしか見えなかった。
「どうです、将軍! これが伝説の第1世代ロボの一つ、“パオ”です!」
シルビィが誇らしげに名を告げた伝説のロボ“パオ”。
僕はその姿に圧倒されていた。
圧倒されたといっても、あくまでも、その大きさにだけだった。