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03

「俺の知っているレスティアがお前でなければ、俺がお前と仲良くする理由はない」


「だから私にはあるんだって……まあ、それもこっちの一方的なお願いなんだけど……」


 今尚、周りはなぜかお祭り騒ぎだがカナタは冷静に、今目の前にいる偽のレスティアと話を進める。


「そもそも俺の記憶では、地球には魔法という概念はあったものの、それはあくまで空想、おとぎ話のような産物だったはずだ……」


「あら、よく知ってるのね。本当に……おかしいわね…………」


 そしてまた、その手に持つ古びた本を開こうとするレスティアだが──


「俺は、元地球人だ……」


「……!」


 本の表紙に手をかけてそれを開こうとしていたレスティアが、カナタのその突然の告白にその手を止める。


「いや……、戻ってきてしまった今、厳密には地球人という分類に適合されるのかさえ分からないが……」


 成長したカナタの異世界での容姿は、元々地球で過ごしていた時とあまり変わらなかった。しかしカナタは転生したタイミング、そして召喚されたタイミングをからも、おそらく今現在彼を構成するその体は異世界で培った体であると断定する。


「そして俺の知っている地球では奴隷制なんて敷いている国はなかったはずだ。だから俺はこれで失礼する」


 その場から立ち去る意を表に出すカナタ……、しかし──


「そんなことを言って……いいのかな?」


 そんなカナタの発言に対しレスティアは思わせぶりに、少しの挑発を交えてカナタを引き止める。


「何が言いたい……」


 そしてその意味深なレスティアの発言は、その場を立ち去ろうとするカナタの意識を引き戻すのに足り得た。


「実はね……、あなたにはある呪いが掛けられているの……」


 まるで絶対不落の切り札を場に出したように異質な自信をチラつかせたレスティアであったがそれも僅か数秒、今は急激に気分を沈ませ、瞼を閉じてある事実を語り始める。


「なに?……おい、どういうことだ!」


 カナタはそのレスティアの言動に、驚愕と困惑を見せてみせる。


「そうね……、こんなもの……本当は着けたくもないし、一方通行で信頼も何もないのだけれど……。これも使い魔とのコミュニケーションの一環だから教えてあげるわ」


 レスティアはそうして、今度は閉じていた目を開くと、こちらを真っ直ぐに見据えて、話の続きを語り続ける。


「あなたの左手の甲をみて……」


 カナタはレスティアに言われた通りに、自分の左手の甲へと視線を移す。


「それはね……、あなたを召喚した召喚陣に組み込まれていた、召喚された使い魔を服従させるために付けられる証の紋」


 レスティアは真剣に、しかしどこか憂うようにカナタの左手の甲を見ながら語る。


「そしてその紋は、使い魔の主人である者がある呪文を唱えるとその紋が刻まれたものに、形容しがたい苦痛を与えることができる術式が組み込まれていて……」


 ・

 ・

 ・

 

『俺はどこのわんぱく猿だよ……』


 カナタは、そのどこか昔話で聞いたことがあるような力関係と術の全容に、呆れ果てて終いにはため息さえ漏らしそうになる。


「あまり使いたくなかったけど……これは最終手段として私たちに必要な……」


「なるほどな……、嘘はついていないようだ」


 しかしレスティアとの会話も程々、カナタは彼女の言葉を途中で遮る……、そして──


「解析完了……続けて、《契約(キャンセル・)解除(コントラクト)》」


 その挟言も束の間、レスティアの先祖が作り上げ、幾年月もの年月を経て、代々守り継がれてきた召喚陣の服従契約のその呪いは、僅か数分で唐突な終わりを迎えた。


「長々と話してくれてありがとう。思慮には欠く行為ではあったが、貴様のいう所の呪いとやらはこちらで早々に解除させてもらった」


 解除魔法《契約解除》、これはある一定のレーティングにおける魔法的に交わされた契約を解除・破棄する魔法である。


「ど……どうやって!?」


 カナタの告げる事実に、困惑するレスティア。 


「貴様が最初に呪いと口にしたときだ。俺はその言葉を聞いた瞬間に、自分に直ぐに《解析(アナライズ)》の魔法をかけていた……」


 冷静に、一つずつその種明かしをしていくカナタ。脅威対象との立場がこうなってしまえば、その形勢は逆転したも同然だ。


「貴様も魔女を名乗るなら、常に相手の魔力に対して気を配るべきだ……」


 一魔導師として、同職であるレスティアに酷評を添えて忠告する。


「また妙なことをされぬ内に……《光の霊体(スペクトル・ゴースト)》」


 そしてカナタが《光の霊体》を唱えた瞬間……!


 眩い光とともに無数の光の粒子が発現し、その粒子の繭にカナタの体が包まれていく。


「な……なに?その魔法!……すごい!」


《光の霊体》を使ったカナタの体は幽霊のように少し不安定に透け、その姿を見たレスティアは、突然目の前で起こった高度(傍点)な魔法の発動に、驚きを隠さない。


《光の霊体》は、自らの肉体を光の粒子へと解析・変換・整列・圧縮の過程を通し、肉体から分離した独立した精神体と肉体情報を持つ粒子を再融合、それはまるで幽霊のように体を作り変える魔法である。


「確かに妙な契約がされていたようだ。それも一方的な……」


 不安定な姿、機械を通したようなカナタの声が、大部屋中の人々の視線を集める。


「だがもうすでに解除ができた。それにこんなものをつけといて、信頼もクソもないだろう」


 そしてカナタは、説明された内容と自身で確かめた情報の整合性から、その仕打ちに対する怒りを露わにする。


「そ……その、それは召喚陣に最初から組み込まれていた式で私の魔法技術では事前に外せなかっ……」


 しかしそんなレスティアの言い訳も虚しく、カナタは聞く耳を持たない。


「悪いが俺はこの辺でお暇する」


「ご……ごめんなさい!……悪かった、私が悪かったから!お願いだから行かないで!」


 今度は必死に、真っ直ぐとカナタを引き留めようとするレスティアだったが──


「じゃあな」


 無慈悲にも告げられるカナタの別れの挨拶も束の間、彼はろうそくが照らす薄暗い部屋の天井へと吸い込まれるように消えていった。

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