執行
「アイガ様っ……魔法ってどう使うんですか!?」
「えーと……その……私は神の力は使えても魔法は使えないですから……」
「えー」
守はアイガの事を頼りにならないなと思った。
「処刑人!」
ラムホの声に合わせて処刑人が斧を振り上げる。
「ま!待ってください!」
「なんだ!?」
時間稼ぎともう一つ確認したいことがあって守は叫ぶ。
「この世界には魔法は存在してるんでしょうか!?」
「あ?まあ我が国は魔法に関しては軽視されてはいるが、魔法研究自体は行なっているぞ」
質問をしながら守は自身が無意識に使っている言語理解の魔法について考える。
魔法というのは無意識に発動することもある事は分かっている。
問題は意識して使えるかという事である。
「俺をそこへ連れて言ってくれませんか!?俺には魔法の才能があります!」
「な、何を言っている!そんな願いが通るわけ無いだろう!」
守は自分の足元にある小石を発見した。
それを見えない手で掴む様なイメージをする。
すると石は何かにすり潰される様に砕けた。
「!!……出来た!」
「もう言うことはないな!処刑を始めるぞ!処刑人!」
ラムホの声に合わせて再び斧を振り上げる処刑人。
「やれっ!」
処刑人は守の首に向けて斧を振り下ろした。
守は首元をガードするような盾をイメージした。
「!!」
守は凄まじい金属音が後頭部あたりから聞こえるのを感じた。
しかし自身に痛みがない事を確認する守。
「っっっしゃ!」
処刑人や女騎士達、そしてラムホは弾かれた斧を見て愕然としている。
守は思わず成功した事を喜び叫んだ。
「見たでしょ!俺には魔法が使えるんです!研究所へ俺を連れて行ってください!」
「馬鹿な!詠唱や道具無しで魔法を使うなど……今のは……ええい!拘束してる騎士も処刑人もその化け物から離れろ!」
ラムホがそう言うと処刑人は斧を放り捨て逃げ出し、守を拘束していた騎士達は少し距離を置いてから剣を抜いている。
「手の空いている者は増援を呼べ!何としてもここでこいつを仕留める!騎士達は早くそいつを殺せ!」
ラムホからの命令を聞くと守の目の前にいた二人の女騎士の片方が剣を振りかぶる。
その後ろで追撃の準備をもう片方の女騎士が始める。
「死ねっ!」
「!!」
女騎士は上方から剣を振り下ろしてきた。
守は再び盾をイメージしてそれに対抗する。
激しい金属音をたてて女騎士の剣は弾かれた。
弾かれた女騎士の傍からもう一人の女騎士が下から剣を振り上げてきたが、それも盾に当たり守は弾くことに成功した。
「弓兵!あの化け物を狙え!」
ラムホのその声を聞いた瞬間二人の女騎士は守の近くから素早く離れた。
守が周りを確認すると盾だけでは防ぐことができない位置からも弓で狙われていることに気づいた。
「打て!」
様々な方向から風切り音が聞こえた守は盾をもう一枚イメージして背中側にも作ることに成功した。
胴体や背中を狙っていた矢は盾によって弾くことに成功した。
「っ!!」
しかし的を外れた一つの矢が右ももをかすめ、その痛みによって守は傷をかばってしゃがみこんでしまった。
「ああっ……!!」
「第二射構えっ!」
そこら中から張り詰めた弓のキリキリとした音が守の耳に聞こえる。
「ここまでか……」
守は以外にもここで全ての思考を捨てようとしていた。
どうも現実味の湧かない状況や、自身への評価の低さが諦めの境地へと至ってしまった要因と言えた。
しかし彼の想像した結果にはしばらくしても至ることはなかった。
足を庇うのをやめ周りを確認すると弓兵達や女騎士達も武器を下ろし唯一つの方向へ向け同じポーズを取っている。
自分の知っているものとは少し違ったが、それが敬意を表すものだと言うことが守にも分かった。
「ドーヴァ……今のはどんな奇術か?」
「ハッ!姫様、今のは本人曰く魔法の一種であると言うことですが、道具も詠唱も用いず発動しており不審な輩として排除しようと……」
「はぁ……未知に怯えるだけでは何の進歩を得ぬぞドーヴァ」
「ハッ!申し訳ございません!」
夕日が眩しくてよくは見えないが、石壁の上方にいる女性が全ての兵士から敬意を向けられ、自身の死期を遅らせている要因だと守は気づいた。
しかし自分があの人に対し一声発してしまえば一瞬で
射殺されるような気がしたので、守は沈黙を貫いた。
「我が国の後進的な魔法技術を打開するきっかけになるやもしれん。研究所へ連れて行け」
「しかし姫様!戦時法により身分怪しき者は速やかに処すようにと……」
「法と実益どちらが大事か?そのようなこともわからぬかドーヴァ」
「……分かりました!構えを解け!」
その声に弾かれるように全ての兵士が武器をしまい、再び姫に向き直り敬服した。
「聞け!法を厳守するはよし!ただ法に己が眼を曇らされることなきよう注意せよ!」
「「「ハッ!姫様!!」」」
守は会話の状況から首の皮一枚繋がったことは理解できたが、状況が理解できず一人でぼうっと立ち尽くしていた。
「そこの無礼者」
「へ!?俺ですか?」
「頭を下げろ!姫様の御前だぞ!」
夕日でよく見えない女性から呼ばれ思わず返事をしてしまった守。
しかし棒立ちだった事をラムホに咎められ慌てて屈む。
「この国のために働く気はあるか?」
守は夕日で見えない女性、周りが言うには姫だと言う彼女の質問に対し戸惑った。
この世界の人のためにやってきたわけだが、一国家の利益のために働くのが世界のためになるのかと考えてしまったのだ。
「どうした!?早く答えろ!」
守が考えているとラムホからの怒鳴り声が聞こえた。
時間をかけると再び弓兵に射殺されそうな空気だった。
「……分かりました!やります!研究所でもどこでも行くんで命だけは!」
とりあえず守は土下座してみた。
だがどうもこの国の礼儀作法においては全く的外れだったようで、誰もどう反応していいのかわからない様子だった。
「はははっ!その体勢が何をさすかはわからんが気持ちは伝わったぞ無礼者」
「と、言うことは!」
「研究所でよく働く事だ」
「はいっ!」
守の返事を聞いて満足したのか姫は何処かに消えていった。