連行
「なんだその格好は、それにその様な瞳の色も見た事がないぞ!」
守は兜の下から見える女騎士の艶やかな口元に見とれ、その凛とした声に聞き惚れていた。
わけではなく聞こえる声と動く口元の違いに驚いていた。
「騎士隊長の権限でこの男を連行する!」
「「「ハッ!」」」
一番偉そうな女騎士の周りにいた女騎士達が一斉に守を取り囲んだ。
「え!?ちょ!」
「来いっ!」
腕を女騎士二人に掴まれ、されるがまま街道を歩かされた。
「ありゃたしか姫さまお抱えの騎士団だったな」
「かわいそうに……どんな目にあわされるんだか」
歩かされる中、騒めく町人のそんな声を聞いた。
しばらく歩かされると街中でも特別大きな建物の中へ引き連れられた。
石造りのまるで要塞の様な佇まいは守を不安にさせた。
守達全員が要塞の中へ入り、さらに狭い部屋へと連れていかれた。
部屋に入った瞬間石壁まで叩きつけられそうな力で守は押された。
「よし、護衛二人以外は引き続き見回りを頼む」
「「「了解!」」」
女騎士の大半は踵を返し、町の見回りに戻った様だ。
「さて……私は騎士団炎鳥隊隊長ラムホ・ンエ・ドーヴァだ……貴様の名は何という?その身なりからして平民風情という訳でもあるまい」
そう言いながら騎士隊長のラムホが兜を外す。
化粧っ気のない顔だったが、その清潭さの中に女性らしい美しさを感じさせるものがあった。
燃える様な紅の瞳。
兜に収めていたからか少し乱れてはいたが紅の髪は腰元まで真っ直ぐに伸びていた。
全ての髪を後ろに下ろしているからかおでこが眩しいな……などと守はラムホに見とれていたが、返事がないのを怪しんだ彼女に気づき慌てて返事をした。
「いや!俺はこの世界の人間じゃなくて平民とかはよくわかんないんですけど……名前は天野 守です」
「……この国の民でないものがこの国の中心地に入れるはずがないだろう!下手な嘘はやめて通行手形や紹介状などを私に見せろ」
「そ、そんなものないですよ!」
「……困ったな。てっきり地方貴族か豪商の息子が遊びでやってきたのかと思っていたのだが」
ラムホは少し困った顔をして髪の乱れを直していた。
「なにが困るんですか?」
「お前は知らないかもしれないが今この国は隣国との戦争中でな。戦時法に則り素性が知れない怪しい輩は即処刑ということになっていてなぁ……」
「そ、そんな!じゃあ俺は……」
「今日の夕方には処刑される」
「……え?」
「まあ運が悪かったと思ってくれ。私もまさかこの様なことになるとは……」
そう言うとラムホは兜をかぶり直し部屋を出て行った。
「え!?ちょ!待ってくれ!」
そう言って守がラムホに近づこうとすると近くにいた騎士に剣を抜かれ彼に突きつけられた。
それに驚いて守は尻餅をついてしまった。
その隙に三人は出て言ってしまった。
「……せっかくこの世界に来たのにいきなり死んじまうぞ……どうすりゃいいんだ」
守は座り込んで頭を抱えた。
夕日が守の部屋の格子窓から見える頃、部屋に二人の女騎士がやってきた。
「時間だ、処刑場に連れてくぞ」
ずかずか入ってきた女騎士に両腕を掴まれどこかへと連れて行かれる。
いくつかの廊下や部屋を通った後、急に広い場所に出た。
周りを石壁に囲まれ中央には簡素な木の台があり、その上で大きな斧を持った屈強な処刑人が待ち構えていた。
守は台の上に座らされ、頭を下げさせられた。
このまま首を切られて終わりかと守は考えていた。
この世界に来ても何もできないまま死んでいくのかと彼は考えた。
「守様……守様……」
守はアイガの幻聴が聞こえ始めてとうとう頭がおかしくなったと考え始めた。
「守様っ!」
「は?はいっ!?」
今度はあまりにはっきり聞こえたので思わず返事をしてしまい、処刑人がキョトンとしてる様な気がした。
「よかった。声は聞こえてる様ですね」
「……それでなんですか?もうすぐそちらへ戻されそうなんですが」
今度は誰にも聞こえない程度の声で返事した。
「何やってるんですか!?あなたの力ならそんなとこから逃げるのも簡単ですよ」
「……そうなんですか?だとしても下手に逃げてしさまうと、もうこの街にいられなくなりますよ。それに俺魔法なんて使ってないじゃないですか」
「?……現在も貴方は魔法を使っていますよ?」
守はアイガの発言からラムホが始めて発言した時に、聞こえる言葉と口の動きに違いがあることを思い出した。
「もしかして言葉が通じたのって……」
「そうです!貴方が無意識に使っている魔法です!」
「じゃあこの状況を切り抜けられる様な手段は無いんですか!?」
「それでは天野 守の処刑を開始する!」
守は下げていた頭の彼方で聞き覚えのある凜とした声、ラムホの声を聞いた。