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火のないところに煙は立たぬ

 建前としては異母姉のことが気になるから城に行きたいというものだったが断られたポーシャは疑惑を強めていた。

だが、断ったのはローバートであり国としての判断なのだがポーシャの頭の中ではセシーラが手を回したと変換されている。

力説されてしまうとミーツェもポーシャの考えが正しいのかもしれないと思い始めた。


「お姉様は絶対に見つかるわ。だってそうじゃないと自作自演した意味がないもの。お姉様ったら私の邪魔だけじゃなくてミーツェの邪魔もしていたし」


「わたくしの?」


「そうよ。お義兄さまのお茶会には私だけじゃなくてミーツェも誘われていたもの。きっとお義兄さまはミーツェのことも好きなのよ」


 もともとミーツェはローバートのことが好きで、それなのにアイーヴィは公爵家というだけで候補になり直接会ってもいた。

この間のお茶会だってローバートが来るのが分かっているのだからミーツェに知らせてくれてもいいものを黙っていた。

ポーシャのことを紹介するついでに遊びに行ったから参加できたものの知らないままになる可能性も十分にある。

アイーヴィへの怒りが良く知らないセシーラへと混ざり、ポーシャと意気投合してしまう。


「何がなんでもお義兄さまにお伝えしないといけないわ。そんな悪巧みをするような王女を出したとなれば国の恥だもの。ミーツェ手伝ってくれる?」


「もちろんよ。わたくしが目撃しなければ真相は分からず仕舞いだったんだもの。ぜひ協力させてもらうわ」


 断られてもポーシャは何度も城に行きたいと声を上げた。

ミーツェも同じようにお願いするもののこの非常事態に屋敷から出るのは賢明な判断とは思えない。

あまつさえ城からは何度も断られている。


「・・・ごめんなさい。ポーシャ」


「どうしてミーツェが謝るの? 一緒に説得してくれているもの」


「お父様とお母様があんなにも分からず屋だとは思わなかったわ」


 さすがにセシーラが誘拐を自作自演したと詳らかに話すほど愚かではない。

だが、ポーシャはナルキエンス帝国においてセシーラの唯一の血縁だ。

そんな彼女を蔑ろにしているとしか思えない両親にミーツェは恨みにも似た怒りを覚えた。


「もしかしたら・・・」


「どうしたの? ミーツェ」


「あのね。笑わないで聞いてね」


「えぇ」


「もしかしたらセシーラ様に手を貸したのはお父様とお母様かもしれないの」


 なぜそんなことを思いついたのかポーシャは不思議に思ったが、ミーツェの真剣な表情にポーシャも同じように真剣な顔をした。

あれだけ豊穣祭に行くのを楽しみにしていると知っているはずの両親がいきなり相談も理由もなく取り止めにした。

それはミーツェにとって納得がいくものではないが、これからミーツェが話すことは理由になり得る。


「朝になったらいきなり豊穣祭に行くのを中止させたのよ。それはきっとセシーラ様が自作自演で誘拐されると分かっていたから。だってそうでしょう? セシーラ様が誘拐されたとなれば祭りは中止だし、その場にいた者は警備の者に話を聞かれるわ」


「でも誘拐されるのはお姉様よ。私たちに危険はないわ」


「そうね。でも万が一、誘拐されるところに出くわしてしまったら? 予定変更とばかりに誘拐に巻き込まれるかもしれないし殺されてしまうかもしれない。念には念をってやつよ」


「お姉様がいくらこの国の后妃だからと言って自分で犯人役を見つけるのは至難の業だわ」


「それでよ。公爵家だからというだけでアイーヴィはいつも優遇されていたわ。だからセシーラ様に恩を売る形で侯爵家を売り込んだのよ。それに今はポーシャがいる。まさか自作自演に手を貸しているとは思わないはずよ」


 論理的のような話しぶりにすっかりその気になってしまったポーシャは、セシーラの企みに手を貸したのが侯爵家夫妻だと信じ込んでしまった。

そうなると連座でミーツェも危ないのだが、罪を申告したということで温情を貰えると思っている。


「ミーツェの両親が共犯なら城に行きたいと言っても許してくれないわね。それならお姉様が見つかってから城に行きましょう」


「そうね。見つかったのなら無事を確認したいとでも言えば拒否はされないわ」


「お姉様が見つかるまで私たちが気付いていることを知られないようにしなくちゃ」


 自作自演だと信じている二人の予想に反してセシーラの行方は杳として知れなかった。

殺されてしまったのではないかと誰もが諦めかけたときだった。

観光名所となっている運河のほとりに横たわった状態で見つかる。


 誘拐されたと分かってから一週間のことだった。

衰弱はしているものの意識ははっきりしている。

見つかったことに国中が騒ぎ、豊穣祭並みの賑わいを取り戻した。

回復してから国民へ顔を見せることが決まり、知らせを聞いたポーシャとミーツェは再度、城に行きたいという旨を侯爵夫妻に伝える。


「ポーシャ王女は異母妹様でいらっしゃるから許可が下りるでしょうけど、ミーツェ貴女は家にいなさい」


「どうしてよ。わたくしだって心配していたもの。顔くらい見たいわ」


「それならまずは公爵家の方々が謁見してから」


「どうしていつもそうなの? 今回はポーシャの付き添いだもの何も問題ないでしょ」


 ポーシャだけを送り出すのも不安だが、ミーツェを一緒にというのはさらに不安だった。

それでもポーシャが城に不慣れだから案内が欲しいと言われると強く拒否できない。

城の内部にミーツェが詳しいかというとそうではないのだが、ポーシャが頼るようにミーツェの手を握っているのを見ると頷いてしまいそうになる。

今はまだセシーラを誘拐した犯人を追っており城も落ち着いた状態ではない。


「后妃様がお会いできる状態か分からないから先触れを出すわ。少し返答を待ってちょうだい」


「急いでね」


「ミーツェ、部屋で待ちましょう」


 聞き分けの良さを訝しみながらもセシーラの見舞いにポーシャとミーツェが行くことを城に確認するように執事に伝える。

断られるかと思いきや承諾されてしまいセシーラの見舞いにポーシャとミーツェが向かった。


「ねぇミーツェ」


「何かしら」


「こんなに簡単に許可が出るものなのかしら?」


「後ろめたさを隠すために早く許可が出たのよ。衰弱しているというのも演技で本当は元気なの。だけど無理をして異母妹に会ったということを印象付けたいのよ」


「そうまでしてお義兄さまの寵愛が私たちに向くのを阻止したいのね」


 見舞いに行くということではあったがローバートに会うかもしれないのに簡素なドレスでは失礼に当たるという理由で、着飾った二人は意気揚々と馬車に乗った。

セシーラの体調も完全には戻っていないが異母妹であるポーシャが見舞いたいと言えば無下にはできない。

数分でも顔を見れば納得するだろうという思惑からだったが、そもそも城に入れたことからして間違いだった。


「お義兄さま!」


「ポーシャ嬢、その呼び名は・・・」


「私、怖かったんです。お姉様がご迷惑をおかけしていないかと・・・」


 瞳には零れそうなくらいに涙を溜めてポーシャはローバートの腕にしがみついた。

一応、出迎えにはローバートが対応したが、挨拶をして引き下がるつもりだった。

セシーラは見つかったが誘拐犯は見つかっていない。


「なぜ、そう思われたのかな?」


「なぜって・・・だって国ではセシーラお姉様は役に立たないとお父様から叱られておりましたもの。だから私は、てっきりお義兄さまにもご迷惑をおけしているものだと思いましたのよ」


「そのようなことはない。セシーラの顔を見たら侯爵家に帰ってもらうので、そのつもりで」


「それはできませんわ。お姉様が犯した罪についてお話しなければいけませんもの」


「罪?」


「えぇ」


 ポーシャの思いつめた様子にローバートは夜に時間を取るということだけを告げて踵を返した。

食い下がろうとしたポーシャだったがミーツェに声をかけられて思い留まる。

今はセシーラに罪を認めさせることが重要だと諭された。


「・・・セシーラ妃はこちらでお休みになっています。医師からは長時間のお話は体に良くないとのことですので、短くお願いいたします」


「分かってるわ」


「十分ほどいたしましたら声をかけさせていただきます」


 部屋の中に入るとベッドに寝た状態のセシーラがいた。

まだ体を起こすのも辛いようでポーシャを見ても起き上がろうとはしない。


「ポーシャ・・・貴女どうしてここに?」


「どうして? それはこっちの台詞だわ。上手くやったようだけど私の目は誤魔化せないわよ。お姉様が自作自演で誘拐騒ぎをでっち上げたってことはね」


「はい?」


「そうじゃなきゃ生きているはずないじゃない。誘拐犯が一週間も生かして身代金も要求しないなんて常識外れなことするわけないわ」


「いや、まって、自作自演って」


 ようやく意識がはっきりしてきたところにポーシャが突然現れて訳の分からないことを話し出した。

止めようにもポーシャの口調には熱が入り、一緒に来ているミーツェも黙って頷いている。


「ポーシャ、何を言っているのか分からないのだけど」


「とぼけないで! いくらお義兄さまの寵愛が私たちにあるからって国を巻き込んでまですることじゃないわ」


「本当に何を言っているの? 誘拐を自作自演ってあるわけないじゃない」


「そう・・・あくまで罪を認めないわけね。それならこっちにも考えがあるわ」


 十分経過したと声をかけられてポーシャは素直に引き下がった。

付き添いであるミーツェからも恨みの籠った眼を向けられてセシーラは困惑する。

何か勘違いをしているのだと分かってもポーシャの性格上、否定すればするほど依怙地になることは知っている。

まだベッドから起き上がれないセシーラができることは限られている。


「・・・おとなしくしていてくれると嬉しいんだけど」


「それは難しいかと存じます」


「ジューン」


「ポーシャ様は国にいたときからお転婆でいらしましたから」


「あれをお転婆で済むのかしら?」


 壁際で一応、護衛を務めていたジューンに気づかずにポーシャは言いたいことを言って部屋を出た。

おそらくはご執心のローバートのもとに行ったのだろう。

ポーシャを見張りたいがセシーラを誘拐した犯人を捜しにニールとジョーナは城下町に出ている。

護衛としてセシーラの傍を離れるわけにはいかなかった。

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