第8話
次の朝の8時ごろ、修行をするメンバーである、悟とアシュリー、スクルドが王の部屋に集まって、しばらくのお別れをしていた。見送りに集まったのは、国王、王妃、ギルドマスターのオルガ、そしてアイリスだった。それぞれが名残惜しそうな中、アイリスだけはオルガ悟に思いの丈を伝えることが出来ていなかった。それを見かねた、オルガが、
「声かけなくていいのか?しばらく会えないんぞ?」
と、アイリスの背中を教えていたが、アイリスはその場で立っているだけった。アイリスも勇気を絞って、悟に声をかけようとするも、彼の弟子たちと話している様子を見て、邪魔するのも悪いと思い、中々一歩を踏み出すことが出来ていなかった。彼女は悟のことが好きだ。チョロいと思われるかもしれないが、あの一件以来、悟ことを思わなかった日はない。そのくらい悟のことが好きだ。離れたくないし、離れて欲しくない。それが例え、オルティアの為でもだ。だが、彼がこれからやろうとしていることは、オルティアが強くなるために必要なことだ。それを個人の感情でどうこうできる問題ではなかった。
そして、いよいよ出発の時間になった。すると、その時、悟が何かを思い出したかのような表情になり、アシュリーたちに一言伝えると、彼女らはそれに頷いた。悟はアイリスの目の前までやってくると、ポケットから箱のような物を取り出し、それをアイリスに渡した。アイリスは一瞬、キョトンとした表情をとるも、すぐに気を持ち直し、箱を丁寧に開けた。すると、中にはネックレスが仕舞われていた。それは、ミスリルで作られたもので悟がこっそりと作っていた品物であった。
「これをアイリスにやるよ。アイリスには世話になったし、それにこれからしばらく会えないしな。気に入ってくれるといいんだが。」
「ありがとうございます。とても素敵なネックレス……悟様、よければつけて頂けませんか?」
悟は頷くとアイリスの後ろに回り、その首にネックレスをつけてあげた。アイリスは嬉しそうに頰を赤め、それを愛おしそうに撫でた。それをみてオルガも笑みをこぼし、国王や王妃も同じような表情を見せた。
「それには、魔法式が組み込まれている。そのネックレスを握ると、俺への救援信号が届くようにしてある。強く俺のことを願いば、俺はすぐにかけつける。俺は常にお前のそばにいる。だから、一年ここで留守番していてくれ。」
「はい!私はいつまでも悟様を待っています。ですので、安心していってらしゃいませ。」
これを見て、チョロいと言う人がいるかもしれないが、これがアイリスという女性の魅力である。
悟は今度こそ出発をしようと、転移魔法を発動させる。
「それじゃ、また一年後に会おう!」
そういって、王の部屋が明るく染まると、その場にはすでに悟たちの姿はなかった。
アシュリーたちが目を開くと、そこには見たことのない場所だった。そこはかつて、悟が過ごした場所であった。周り一面が森で囲まれている。悟が二度目の転移でやってきた森とは、雰囲気もヤバさも桁が違う。この森に住むのは、どの魔物も冒険者ランク特S級レベルの者が挑まなくてはいけないほど、レベルが高い。
「着いたぞ。ここが俺の過ごしていた場所、極淵の森だ。俺の結界が張ってある所からは出るなよ。今のお前たちじゃ間違いなく死ぬからな。それじゃ、循環法をやっていこう。」
場所のヤバさに呆気にとられているアシュリーたちをそっけのけて、修行の内容を説明し始めた。
「まずは、前にもいった通り、人間には器が決まっている。どこまで、魔力とかが成長出来るかが決まっているやつだ。本来なら器がデカくなることはないが、俺の魔力をお前たちに流し、器を無理やりデカくする。ちょうどあれだな、器から溢れた水を溢れないように、グラスを拡張し、蓋をする。それを魔力に置き換えろ。」
悟の大雑把な説明だったが、彼らは一応は納得したように頷き、覚悟を決めた。
「それじゃ、手を貸せ。手から魔力を送っていく。まずはアシューからだ。」
そういって、アシュリーの手を取り、ゆっくりと魔力を流し始めた。
「あっ、あっ、あはぁん。もうむりぃ、それ以上……入ら……ない……待って、あっ。」
部屋にアシュリーの喘ぎ声が広がる。何も別に悟がエロいことをしているわけではない。悟の魔力を、手を通して、送り込まれていることで体中が熱く火照り、快感を得ているのである。いや、本当なら体は悲鳴をあげているのである。もとの器を無理やり大きくしているのだから、体はそれに耐え切れるわけがない。それを悟が、微弱な電流をアシュリーの体に流し、脳への信号を苦痛から快感へと変化させているのである。ものすごい荒療治である。
「もう少しだ。我慢しろ。それに今からが本番だ。これから送る魔力を強くする。今より、キツくなるかもしれないが、耐えるんだ。」
「これ以上!?まって、それは体が本当にもたないから。おかしくなっちゃうから!」
アシュリーは抵抗するも、悟が魔力を強くしていくと、それに比例していくかのように、嬌声を響かせた。兄であるスクルドは外にいており、小屋には音声遮断結界が張られているので、アシュリーの嬌声は聞こえていない。
「行くぞ!はぁぁぁぁーー」
少しばかり気合を入れ、魔力をさらに込めて行く、快感に身を任せる中、アシュリーは心の中で、何かが音を立てるような感覚を聞いた。それはまるで、何かが崩れていくようなもので、それが、次々と再生していくようなものだった。
(これが、悟様がおっしゃっていた、強くなるということ?悟様の魔力が私の魔力と一体化しているようなそんな感じがします)
まさしく、その通りだった。一度器が壊れてしまうと、自分自身の治癒能力で器を治そうとする。しかし、壊れてしまった器を完全に治すことは無理であり
、どこかしらに欠陥が存在してしまう。だが、悟の魔力で器を治す力を強め、尚且つ、器を元々持っていたものより大きく強くするのである。
「もう少しだ。意識を強く保て!」
「はい!まだ、いけます!」
そして、アシュリーの深層意識が、悟の魔力を自分のものとし、器を治そうとし始めた。
そして、崩れた器が、徐々に集まり、そこには元あった器より大きくなった器が存在していた。新しい器の完成である。これにより、元々の魔力の分に新しい魔力を注ぎこめるようになった。
「よし。これで完成だ。と言っても、まだまだ序盤だがな。これから、三ヶ月これを続け、器を大きくし続ける。今は、実感がないかもしれないが……そうすればわかるようになるさ。どれだけ強くなったか。」
悟は疲れ切って、意識が朦朧としているアシュリーに優しく語りかけ、彼女を抱きかかえ、小屋を出た。
小屋の外には少し小さめの、それでも三人で過ごすのには十分な家が建っており、悟はその中に入っていった。アシュリーの部屋に行き、アシュリーをベットに寝かせると、自身はスクルドの部屋に入った。
「へ〜。中々いい感じじゃないか?その分だと、元々もっている器は、ルーラを軽く超えているな。」
部屋の中には座禅を組んで、静かに魔力を放出していたスクルドがいた。その雰囲気は特S級のそれに近く、まだ完成されていなかった。しかし、完成すれば神級に届きそうな器はもっており、器の拡張がいけばそれこそ、神級の上位に食い込んでくる面白いことになると悟は判断した。
「いや、俺はまだまだ親父には及ばん。だが、いずれは超えてみせる。親父も、貴方も。」
「いい心がけだ。それなら、早速やろうか。」
そういって、スクルドの手を取り、循環法を始めたのだった。
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