第3話
「はぁ......はぁ......なぜだ!?なぜ、なぜ!お前たちがオルティアを裏切る?俺たちは......同じ世界の出身で切磋琢磨してきたじゃないか!なのに、なぜ......」
こう叫ぶのは、第五世界オルティアのギルドマスターであり、アイリスの兄でもあるオルガは、荒い息を整えながら、自分の目の前にいる、第五世界出身の5人を見て、そう呟いた。彼ら5人は左側から、バルバ、フウガ、オルイア、ルードラス、アクアスという名前だった。彼ら5人共、格下と言われるオルティアの中で、他の世界と渡り合える程の実力を持つ才能溢れる者たちだった。ギルドの依頼をクリアするために、他の世界に出張していたメンバーであり、オルティアの最強パーティーであった。
「簡単なことっすよ。この世界を乗っ取るっす。」
「な!?正気か!?そんなことができるとでもおもっているのか!?」
まさかの宣言に思わずといったように聞き返した。自分と一緒に過ごしてきた幼馴染みのバルバの言葉に正気を疑ったし、まして世界を取ると言う、実行不可能に近い事を平然とした顔で言うバルバを怪訝な顔で見つめた
「この世界は、俺たちにはこの世界は狭すぎる。弱すぎる。だからこそ、この世界を乗っ取りこの世界を強い国に変える!」
そう言ったフウガだった。オルガは絶句した。確かにオルティアは弱い。だが、自分も含めS級にまで上り詰めた、こいつらとならいずれ、他世界を追い越すことも可能だと思っていた。ちなみにこの異世界での冒険者ランクは下から順に、C級、B級、A級、準S級、S級、特S級、神級と全7クラスに分けられている。彼らは上から3番目のクラスに位置している。S級も各世界を見ても多いとは言えず、彼らの実力は十分に世界トップクラスであった。
「それだとしても、俺らが筆頭にこの世界を引っ張「それでは甘いんや。」
さえぎったのはオルイアだった。
「それでは甘すぎるで、自分。ワイらかて、世界トップクラスや言われとるけどな、実際、上には上がおるんやで?それにワイらかて、S級に何年おると思てるんや。これ以上、上のクラスには今の状態ではいかれへん。だからこその革命や。国取りや。おまんを殺した後に、国王を殺し国を取る。だから、安心して死ねや。あ、そうそう。今頃、おまんの妹は捕まっているさかい。アイリスちゃんは、俺らがもらたるさかい心配すなや。アイリスちゃんを欲しい言うてる人がいるんでな。」
声を上げてオイルアが笑う。途端、オルガは残りの魔力、気力、体力を限界まで絞り出し、今にも倒れそうな体を奮い起こした。彼にとって今、オルイアが放った言葉は何よりも許せないことだった。オルガにとって、アイリスは何よりも大切な存在だった。
「流石にやりすぎだぜ。お前ら。それを聞いて、やらせるとでも思ってるのか?」
「できると思ってるよ。今の君は疲労困憊だし、何より五対一だしね。同じS級同士なら、数が多い方が勝つ。だから、もうゆっくりとお休み。後のことは僕らに任せて。」
この五人のリーダーであり、オルガの一番の親友でもあったルードラス。彼の背後には真っ黒でできた球体が出現していた。
「ブラックホール。君を殺すのに相応しい技だろ?」
辺り一面がブラックホールによって吸い込まれていく。民家も、ギルドホームも景色も全てを飲み込んでいく。そして、それはオルガも例外ではなかった。覚悟を決め、五人の幼馴染に忠告をした。
「お前たちの理想は決して叶わない。それだけは言える。」
ブラックホールの中に消えていく......かのように思えた。
黒一面の世界が途端に真っ白い、それでいてどこか神秘的な美しさをもつ謎の光によって、ブラックホールはおろか、世界が一瞬消えた。
「「「「「はっ?」」」」」
「やれやれ。何やら面白い話をしているな。おまえら。」
そこに現れたのは、アイリスを背負っている悟だった。
さかのぼること5分前。悟とアイリスの2人が冒険者ギルドに向かって走っていた。本来なら、すぐに移動できる距離だがアイリスを抱っこしての状態なため、スピードを出し過ぎるとアイリス自身に負担がかかってしまうために、比較的遅いスピードで走っていた。それに悟にも色々と思うことはあった。今度の相手は先ほどの傭兵たちの様に一筋縄ではいかないと考えている。彼らは使えても上級魔法までしか発動できず、近接戦闘ができない魔法集団だった。だからこそ悟の能力で対処できた。だが今回の相手はまず間違いなく、傭兵たちより格上だと思っていた。再転移してきた瞬間に、面倒なことに巻き込まれていて、非常にイラついている悟であったが、これも自分を慕ってくれているアイリスため、ミカのためになんとか解決しようとしていた。
「そろそろギルドに着きます。」
アイリスの声を聞くのと同時に何かに強く引かれるような感覚を感じ、思わず注視してみると、目の前が真っ黒に染まっていた。更には、周囲のいたるところから物が吸い込まれていて、悟は気づいた。
「天体魔法か!なかなか珍しい魔法だな。それにこれはブラックホールか?なるほど、オルティアにも珍しいやつがいるじゃないか!一概に全員が全員とも弱いわけではないみたいだな!」
「感心してないで、何とかしてくださいよ!これってかなりヤバイと思うんですけど!?」
悟の腕の中でそう叫ぶアイリスを地面に下ろし、結界を張っていると、何やら別の叫び声が聞こえてきた。それに耳を傾けると以下のことがわかった。
一つ目、オルガの幼馴染が国を裏切ったこと。
二つ目、アイリスを拐おうとしていた傭兵とつながったていたこと。
三つ目、彼らのバックに何者かがいること。
「はぁ。どうしようもない奴らだな。ちょっと面倒だけど、これはちょっと躾が必要だな。」
そう呟くと、魔力を高め、両手を前に突き出し、音を立てて叩いた。
「確かにブラックホールは強力だ。全てを吸い込む。それこそ魔法もな。だかな、弱点もある。それは......ブラックホールごと搔き消す圧倒的な力だ。」
そうして、悟のオリジナルであるとある魔法が発動する。
「星の大爆発」
圧倒的な聖属性の魔力の嵐に、漆黒に染まるブラックホールは消え、世界は白くそまった。
「今のは一体!?」
ルードラスたちは、現在の状況をしっかりと把握することができていなかった。それもそのはずである。突然、目も開けられない程の光を浴びたかと思えば、自身が使った、"ブラックホール”が消えていたのである。そもそもブラックホールは本来ならば、光すら呑み込む圧倒的な重力フィールドだ。それこそ、天体魔法の奥義に数えられる魔法である。しかし、ほれがかき消されたのである。混乱するのも仕方なかった。
「随分面白い話をしているな。お前たち。国取りとか。よくもそんなことを思いつくよ。逆に感心するぜ。」
光の先に現れたのは悟だった。
「他にも面白い話をしてたよな。アイリスを攫っただって?残念ながら、アイリスは無事だ。アイリス!」
悟は檻の魔法を解除して、アイリスを呼び寄せると、少ししてからアイリスが姿を現した。
「あ、あ、アイリスなのか?」
オルガの今日何度目かの驚愕の声とともにアイリスは自身が無事のことを示した。
「心配かけてすいません、お兄ちゃん。この通り私は無事です。傭兵の人に襲われて危なかったところを悟様に、助けていただきました。ところで、先ほどルードラスさんたちが、言っていたことは本当なのですか?」
アイリスが侮辱を含んだような、それでいて嘘であってほしいと願っている眼差しでルードラスたちを見た。彼女にとっても、ルードラスたちは兄の幼馴染ということで昔から仲良くしてもらっていた。
「ほんとっすよ。アイリスちゃんを攫って来いと言われ実行したっす。それにしても、悟とか言いましたっけ?君なかなかやるっすね。どうっすか?今なら仲間になることを許すっすよ。」
「当たり前だが、断る。そんなに、めんどくさいことなんてできるか。」
「そうっすか。残念っす。では、計画を知ったということで死んでくださいっす。」
バルバがそう言い切ると高速の風魔法を放った。しかし、悟は欠伸をすると手を前にかざし、お馴染みの悟の能力"術式解体"がその魔法を無かったかの様に消し、何事も無かったかのように元の場所に立っていた。
「なっ!一体何を?!確かに魔法を放ったのに、魔法が消されたっす。」
「ん?今何かしたのか?あぁ......なんかヌルい風が飛んできた気がしたが、気のせいか?」
悟の挑発とも言える言葉で、バルバは更に攻撃を仕掛けようとしたが、それをルードラスがとめた。
「ストップだ、バルバ。闇雲に突っ込んでも、相手の能力が分からない内に突っ込むべきじゃない。ここはアクアスの魔法で能力を探る。アクアス!」
ルードラスが言い終わるのとほぼ同時に、アクアスが魔法を放つ。
「アタシの魔法をくらいな!殲滅級魔法"アイスブリザード"」
悟や、アイリス、オルガを包み込むようにして、現れた吹雪に似た魔法を放った。オルガとアイリスを自身の背に隠すと再び、"堅城なる牢獄"を放ち二人を守ると自身は魔力で障壁を張り、アイスブリザードを耐えた。
「なかなかやるじゃないか、ボウヤ。ここで殺すのが惜しいよ。」
アクアスは、自身の魔法を防がれたことに若干の驚きを感じたが、すぐに切り替え、悟を再度勧誘するも、悟はメンドくさく感じたのか、無視した。
「でも、これで君の魔法について、わかったね。どうやら、君が消せる魔法は、上級魔法くらいまでなのかな?なら、僕たちは殲滅級以上を放てばいいわけだね。」
ルードラスが言っているは正しかった。悟が術式解体で解体できるのは上級魔法までだ。だが、悟はそれがどーしたとでも言わんばかりに、自身の魔力を解放した。その量は、これまで放出してきたものよりも、更に多かった。それを真正面から受けている、ルードラスたちは圧倒的な死の感覚を味わっていた。
(なんて、魔力量なんですか。それにこの魔力......どこがで見た気がしますが......それに、アクアスやバルバたちはどーでしょうか。ダメですね。完全に気圧されてますね。全くこんな予想外がいたとは。)
「ものすごい量の魔力ですね。これ程までの魔力は見たことがありません。どこでこれほどの魔力を?」
「簡単だよ。鍛えただけだ。お前らが言っていることは確かに正しい。お前らもそうだし、あの傭兵共もそうだし、弱すぎる。だからこそ、お前らが国取りなんて馬鹿な真似をするんだと思うよ。」
悟は何でもないようにそう答えた。けれども、それは、ルードラスたちを怒らせるには十分だった。なぜなら、悟は彼らを弱いと判断した。さらには、自分たちの成そうとしていることを、馬鹿な真似と称した。
「弱いとは言ってくれますね。あなたも同じオルティアの出身でしょう!?ならば、あなたも弱いということです。」
「はぁ。そうやってさ、オルティアのせいにするのは良くないと思うぞ。オルティアという世界に生まれたから、弱いんじゃないんだよ。お前ら自身が弱いんだ。そういうわけだから、少しばかり教育してやるよ。」
悟がそう言うと、悟の目の前の空間が割れ、一本の剣が現れた。黄金に輝く眩い剣が。
「そ、それは......?何です?」
「悟様その剣は一体......?」
「おい!それは何だ!」
ここにいるものが今まで見たことのないような美しい色、魔力を放つ剣に見とれていた。
「この剣の名は、神魔剣ルシフェル。さて、指導開始だ。」
そう言って、いい顔で笑った。
本日もありがとうございます
評価等おねがいします