第2話
本日もよろしくお願いします。
不敵な笑みを浮かべたまま男たちの真正面に立ち、手招きをし男たちを挑発する。男たちは悟の威圧とも呼べる笑みにやられ、動くことができない。
「ほら、どうした。俺を殺すんだろ?さっさとかかってこいよ。それとも、今から逃げるか?今なら特別サービスで見逃してやるぞ。どうする?」
悟としては、逃がすつもりは毛頭ない。しかし、こうでも言わないと固まってしまい動かない傭兵集団が攻撃することがないと思ったからである。悟の実力なら、この程度の相手は瞬殺である。呆気ないほど簡単に殺せる。それはもう、ピストルから銃弾が放たれたかのように、瞬殺だ。だが、なぜ悟が彼らを殺さないのかというと主神ミカとの約束があるからである。悟がこの世界にくることになった一番の理由。第五世界オルティアのレベルアップである。彼が昔にいた頃は、世界間にそこまでレベルの差はなかった。彼がいなくなって四年がたった今では、どれほどのレベル差がついているかわかっていなかった。まずはその差を知るためにエクストリア出身だと語るこの傭兵団で、レベル差を知ろうと考えたのである。それなのに、彼らは悟の威圧にやられ、動くことすらできない。それでは目的を達成できないので、挑発でもして何とか戦わせようと悟なりの苦肉の策である。
「ほら、早くしてくれ。お前ら強いんだろ?俺を殺すつもりで来い。それともあれか、さっきのはただの威勢のいい口先だけのものなのか?それなら、お前らの底が知れてるぞ。」
尚も挑発を重ねる。流石に悟に言われたことが耳に届いて理解ができたのかこめかみに青筋をたて、顔を赤くした。
「ちょ、調子にのるなよ!第五世界の人間如きがぁ!お前らなんて所詮俺たち第四世界の敵じゃねぇ!身の程を知れぇい!」
ようやく戦闘が始まりそうなことに一息ついた悟は、満足そうな笑みを浮かべた。
「やっとか......まぁ、こちらが身の程を教えてやるよ。」
彼らの人数は5人、しかも全員が魔法を少なからず使えるという魔法傭兵集団だった。彼ら5人が異なる魔法をもって、一斉に悟に攻撃を開始した。
「縛り上げろ!土系中級魔法 "束縛"」
「貫け!風系中級魔法"ウインドアロー"」
「切り裂け!水系中級魔法"ウォータースラッシュ"」
「痺れろ!雷系中級魔法"ライトニングボルト"」
「骨も残さぬ灰になれ!火系上級魔法"フレイムランス"」
ここで少し魔法について、お話ししよう。まず最初に魔法の種類だが、火、水、風、雷、土、光、闇といった7つの基本属性にプラスし、治癒や無属性といった例外的扱いを受ける2属性が主な種類だ。しかし、稀に9系統に属さない、神にも等しい属性も存在する。それはおいおい説明するとして、次に魔法のクラスだが、下から順に、下級、中級、上級、殲滅級、戦略級、神級の六つに分けられる。一般的な魔法使いなら、上級魔法を扱える程度に留まり、俗に言う天才は、戦略級まで扱える。その天才の中でも一握りが神級を扱え、神級を使える人間は現在十二人存在している。
そんな魔法の種類だが、五人から放たれた魔法を見て悟が何を思ったのかというと、第四世界の魔法のレベルも低すぎるということである。五対一の状態もあって彼ら傭兵たちが手を抜いているにしても、あまりにもレベルが低すぎた。そう考えざるをえないほどの魔法だった。魔力の練りも見るからに甘く、技の練度も低かった。
(はぁー。これは流石に酷すぎるぞ。エクストリアでこれなら、オルティアはどうなるんだ?処置の施しようがないぞ。)
内心でそう呟きながら、迫り来る魔法を見つめ周りを見渡して見ると、助けた女が何か喋っているのが見え、男たちが勝ち誇った顔をしているのが見えた。悟は呆れた表情を見つめると、途端に指をパチンと鳴らした。その瞬間、五つの魔法が元々存在していなかったかのように消え失せた。
「「「「「「は!?」」」」」」
男たちだけでなく、女までもが目を丸くし今起こった現象に対して理解が追いついていなかった。目の前にいる、一見どこにでもいそうな青年が、指を鳴らした瞬間魔法全てが消えたのである。しかもただの指パッチンである。それを行なった本人は澄まし顔でいるが、周りの人間はそうはいかなかった。
「なにが起こった!?確かに魔法は発動したはずだ!」
「そんな!?指を鳴らしただけで……?」
「てめぇ、一体なにをしやがった!?」
「ん?魔法を消しただけだけど?どーした?」
悟の気の抜けた返事に更に苛立ちが高まる。
「違う!俺たちが言いたいのは、どーやって魔法を消したかってことだ!魔法を消す魔法なんて見たことがなねぇ」
「あぁー、そういうことか。"術式解体"これが俺の持つ能力の一つなんだが、その魔法の魔法式を読み取り、それを解体するって能力だ。簡単な話、上級魔法くらいなら、無効化できるってわけだ。」
それを聞いた瞬間男たちの顔から血の気が引いていく。それは当然だ。目の前にいる男には自分たちの魔法が通用しないどころか、魔法では戦えない。自分たちは上級魔法までしか扱えず、その上級魔法ですら無効化されてしまう。はっきり言って勝ち目など0%である。それ故に、思わず言葉が溢れる。
「ははっ。なんだよそれ。理不尽過ぎるだろ。」
乾いた言葉と共に男は苦笑いする。
「理不尽で結構だ。その言葉も今更って気がするし、もう聞きなれた。次は俺の番だな。まぁ、安心しろ。ひと思いにやってやるから。」
そう言うと、悟の体から魔力が吹き出た。それはまるで空に昇ろうとする龍が自分の存在を知らしめるが如く、圧倒的な魔力が溢れ出し、空間を埋め尽くした。その圧倒的とも言える魔力の塊の前に、男たちは立つことはおろか、意識を保つことがやっとであった。
「お前みたいな化物がなぜこんなところにいやがるんだ。全くついてないぜ」
悟が魔力を男たちに向けた瞬間、否、悟が魔力を放出した時には、既に五つの命はこの世から消えていた。
「せめて安らかに眠るんだな。」
悟の呟きは男たちには聞こえていなかった。
「あ、あのっ!」
その声に反応し振り返って見ると、助けた女がこちらを見つめていた。あまり気にしていなかったが、よく見て見るとかなりいい女だった。服は所々破けていて、顔や体に土がついたりしているが可愛らしい顔立ちに自身の体にバランスよくついている2つの果実は彼女自身の女としての魅力を何段階も引き上げていた。悟が見ていることに気付いたのか、女は胸を手で隠し、頰を赤く染めた。
「おっと、悪い悪い。あまりにもあんたが綺麗だったんで見惚れていた。俺の名前は金剛悟。それより大丈夫か?済まないが俺は治癒属性は使えないんだ。」
見つめていたことを素直に謝り、女の容態を聞いた。
「そんな……綺麗だなんて。ありがとうございます。あっ、まずは名前からですね。私の名前はアイリスと言います。危ないところを助けて頂いてありがとうございました。悟様がいらっしゃなければ、今頃私はあの者たちに喰い物にされどこか知らない人達の慰め者になっていたでしょう。感謝してもしきれません。」
「気にするな。俺がアイリスを見つけられたのもたまたまだし、何より、俺自身こっちの方面にようがあったからな。偶然に助けられたよ。」
悟がそういって、笑うとアイリスもクスクスと笑った。
「では、わたしは偶然に助けられたのですね。悟様に出会えたのも何かの縁。良ければ、私に街を案内させてはくれませんか?」
「あぁ、良ければ頼みたい。こちらからお願いするよ。俺に街を案内してくれないか?」
悟はエクストリアに来たことはなく、街についても何も知らなかった。街を案内してくれると聞いて、内心でものすごく喜んでいた。
「はい!それでは行きましょう。」
「その前に。これでも羽織っておけ。流石にその格好で街中には入れないだろう。」
悟は苦笑して、アイリスに自身のコートを渡す。アイリスの服装は所々破れており、大事なところが見え隠れしている。悟としては、気になるところだった。アイリスはそんなことに気付いておらず、あっと声を上げると悟のコートを手に取る。そうして、二人は関所に向かって歩いて行った。
しばらくの間、アイリスと二人で歩いていると門が見えてきた。第五世界オルティアの入り口で、関所とも言える所でもある。第何世界と言うと、世界が分かれているように聞こえるが、実際は他の物語で言う王都だとか、地方都市とかとほぼ同じである。王都に当たるのが第一世界アルカディア、地方都市にあたるのが他の世界のことだ。
「着きました!ここがオルティアの入り口です!ここで犯罪などと言ったことを調査し、その検査に合格したものだけ入ることができます。何か悟様の身元がわかるものはありますか?」
「あぁ、それなら冒険者カードがある。確かそれでも大丈夫なはずだよな?」
そういって、胸元から冒険者カードを取り出し、アイリスに見せた。
「悟様は冒険者様だったんですね。えぇ、冒険者カードで問題ありません。門番が質問をしてくるので、それに答えていただき、カードを渡してください。それで大丈夫です。」
アイリスの説明を聞きながら、門に近づいて行くと何やら騒がしかった。二人は顔見合わせ首を傾けると、何が起こっているのか知るために早足で門に近づいた。普通は門の近くでこれほど騒がしいことなどほとんどない。あってもそれは、魔物が襲ってきた時など緊急時の場合のみだ。なので、二人とも万が一に備え集中力を高めた。そうして門の前までくると近くにいた人が二人を見つけた瞬間、悟の方を指差して、
「犯人がいたぞ!!!」
と叫んだ。
悟ももちろんだが、アイリス自身もこの男が何を言っているのかわからなかった。悟の方に弓や、魔法をぶつけてきた。
「......っ!!」
我に帰った悟は瞬時に戦闘モードに入ると、アイリスの前に一歩出て、膨大な魔力で2人を囲んだ。弓や魔法は悟の魔力の障壁によって、二人に当たることはなかった。
「待ってください!みなさん!悟様は敵ではありません。私を助けてくださった、私の命の恩人です!だから、攻撃はやめてください!」
アイリスが攻撃してきた、恐らくは知り合いなのだろう、男たちに止めるように促した。しかし、それもむなしく攻撃の嵐は終わることがなかった。それどころか、攻撃はますます激しくなるだけだった。
「この野郎め。アイリスちゃんを攫うだけでなく、様付けで呼ばせるとか何てひどいやつだ。きっと催眠魔法を受けてるに違いない。待っててね、アイリスちゃん。必ず俺たちがその男から助けてあげるから。」
あまりにもひどい言い草である。お約束展開と言えばそれまでだが、それにしてもひどかった。
「みなさん!違います!私は催眠魔法など受けていません!悟様は命の恩人なのです!それに、無駄です。私たちオルティアでは、悟様に攻撃が通ることはありません。」
アイリスの必死の願いも叶わず、攻撃は止まない。
「大丈夫だよ、アイリスちゃん。心配しなくてもすぐ助けてあげるから。」
アイリスも流石に言葉を話せなかった。まるで住民みなが何かに取り憑かれているような、そのようなものに感じられた。アイリスの背筋に、冷たいものが走った。
「アイリス。恐らくだがこいつら、催眠魔法を受けている。それに、ここから5キロくらい行ったところに誰かが戦っているのを感じられる。一人は......魔力がかなり減っている。危ない状態だ。あとの反応は......っ!!間違いない。こいつらが犯人だ。アイリス、こいつらは後回しだ。まずは張本人を叩く。」
「そこは冒険者ギルドです!戦っているのは......私の兄だと思います。私の兄はギルドマスターですから。」
アイリスが顔を下げて、今にも泣きそうな声でそう言った。自分の兄が死にかけているのである。それだけでなく、住民までもか操られているのである。ほんとは泣き叫びたい。しかし、悟にそれを見られるのは嫌だった。だから必死に我慢した。悟はどこぞの鈍感主人公ではない。なので、アイリスの気持ちもわかっていた。アイリスが泣かない理由も。
「ひゃっ!」
アイリスの可愛らしい悲鳴がした。悟がアイリスの首と膝の後ろに手を回して持ち上げたのだった。いわゆるお姫様抱っこだ。何の前触れもなく持ち上げられたので思わず悲鳴をあげるが、悟にされたことに気づき頰を染めた。
「さて、ほんじゃーお兄さんを助けに行こうか。元凶もそこにいることだし。ぶち飛ばそう。」
「いいんですか?私のためにそこまでしてもらって。」
アイリスは遠慮がちに答えた。
「いいに決まってるだろ?ここにいる狂った住民には悪いが後回しだ。元凶を止めればこいつらも元に戻るだろう。まぁ、元凶が何かはおおよその見当はつくがな。ってことだ。言った通りお前たちは後回しだ。しばらくそこにいろ。"|アブソリュート・プリズン《堅城なる牢獄》"」
そういうと、魔力で檻を創り出し、そこに住民を閉じ込めた。住民が檻を叩くが傷一つ付くどころか、埃さえ付かない。それほどまでに堅い牢獄だった。
「この卑怯者が!俺たちをここから出しやがれ!そしてアイリスちゃんを解放しろ!」
「はははっ。やだね。それにしてもアイリスを解放しろの一点張りだな。アイリスを返したらどーするんだ?」
悟は先程から気になっていることを住民に質問した。彼らはまるで取り憑かれたかのようにアイリスを解放することを願っている。確かにアイリスは可愛い。だから、彼女のことを妹や娘に想う人もいれば、自分のものにしたい人もいるだろうしかし、これほどアイリスにこだわることに意味があるのかと思えていた。
「アイリスちゃんを早く解放しろ!この卑怯者が!」
「嫌だな。全くもって話にならん。いい加減他の言葉はないのかよ。返してくれと言っても返すわけはないけどな。」
相変わらずアイリスの解放が一点張りだった。話にならないと思った悟はアイリスにギルドの場所を聞き出し、そこに向かって走っていった。そして心の中でこう呟く
「さてと、それじゃアイリスのお兄さんを助けますか。俺の索敵に引っかかったのは五人。黒幕も含めて、殲滅の開始だ。」
ありがとうございました。
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