寄席やい
え~、それでは、お馴染みじゃないやつを一席。
私が言うのも何ですけどね、落語ってのは、いいもんですよね。誰ですか、「落語家があんたじゃなけりゃあね」って。
まあ、そう言わずにお付き合いください。ねっ、どうせ、聞いてるあんたもあんただ。
いや、こいつは、冗談ですよ。ホントにね。聞いてくれてるだけで、有難い。
何でかってぇと、私がおまんま食えたり、ゴルフに行ったり、一線は超えてません!向こうが超えて来たんです!何て言ってられるのも、そのお陰ですから。
いや、こいつも冗談ですよ。
落語ってえと、馬鹿の与太郎、人のいい旦那、八っあん、熊さん、皆、いい人ばっかりで、朝から晩まで、わいわいわいわい、どうでもいいような事で騒いでる。頭の弱い馬鹿ばっかりと思わせといて、ちょっとした風刺が効いてる、ほろっと泣かせる、そんな粋なワサビも効かしてる。
誰ですか?「落語家があんたじゃなけりゃあね」って。本日、2回目ですよ。10分も経ってもいねえのに。
え~、何でしたっけ?ああ、そうだ。私の事はどうでもいいんだ。落語ってのはいいもんですねって話。ですけどね、今の時代になっちゃあ、これは困ったもんですね。
「旦那。旦那!」
「朝から喧しいね。何だい、与太郎かい。」
「与太郎、与太郎ってバカにしねぇでください。今じゃ、すっかりキラキラネームですぜ。」
「何がキラキラだよ、キラワレネームの間違いだろ、バカ。あんたはまだ、いいけどね。愛されるバカはいつの時代でもいるからね。あたしゃ何何だい。朝からバカの話を聞いてやる奴なんて、今じゃ、いやしないよ。」
「それでね、旦那。」
「やっぱり、人の話を聞いちゃいないね、この人は。まぁ、いいや、で、どうしたんだい?」
「実は過払い金の話でね。」
「え〜!現代的だね。意外といいよ、お前。聞こう、聞こう。で、で?」
「こないだメールで連絡してくれたサングラスかけた優しそうなオジさんに会ってね。」
「え?」
「金貸してやるって、こう言うんですよ。」
「そいつは、悪質な詐欺に違いないよ。まさか、借りたりしてないよね。」
「普通、借りるじゃないですか?貸してくれるって言ってんですから。」
「借りないよ、バカ!」
「だって利子付かないって言うんですよ。」
「そんな訳があるかい。」
「ホント、ホント。100万借りて3日で返せば利子0円。」
「返せる訳ないだろ、バカ!」
「バカ、バカ言わないで下さい!あっしだってそんなバカじゃないんだ。」
「あ〜、良かった。じゃあ、使わずに返したんだね。心配させるんじゃないよ、まったく。」
「使いました。」
「え〜!いくら?」
「1円。」
「1円?」
「も、残さず。」
「この、バカ中のバカ!何をやってるんだい!もう、返せる訳ないよ。どうすんだい?カモ!このカモ中のカモ!」
「あっしはバカなんですかい?カモなんですかい?」
「カモはバカに決まってんだろ!バカ!カモ!」
「旦那、何か今日、嫌な事あったんですか?」
「ないよ!お前に会うまでは、いい朝だったよ!で、何だい、金なんか貸せないよ。」
「いえ、話ってのはそれじゃないんで。」
「え?借金はどうしてんの?」
「返してますから、月に5円ずつ。」
「えっ?月5円ずつの返済?それじゃあ、貸した方が損だろ?生活出来ないよ。サングラスのオジさん、大丈夫かな?まあ、いいや。で、話ってのは何なんだい?」
「最近、うちの女房、見かけませんでしたか?」
「そう言えば見かけないね。どれくらい居ないんだい?」
「2年前からです。」
「2年も前?それで今、探してるの?」
「はい、思い立ったが吉日よってね。」
「よってね、のねで、首を傾げるな、バカ。可愛かねぇんだよ。もっと早く思い立ちなさいよ。酷い夫がいたもんだね。それで、ちゃんと探してるんだろうね。」
「当たり前ですよ。恋女房ですぜ。」
「自分で言うな、こそばゆいんだよ、バカ。それに2年もほっといたんだろ?よく言えるね。で、どこ探したんだい?」
「サングラスの野郎が、借金の方に連れてったんじゃないかと思いましてね、家まで行ってやりましたよ。」
「へー、やるねぇ。そいで?」
「ドアを、ドンドンドン、って叩いて、開けやがれ、こんちくしょう!てめえ、人の女房に何しやがんだ!って怒鳴りちらしたら、ドアがガチャっと開いて、野郎が凄い形相で出て来て。」
「引き込まれるね!そいで!野郎、何つった?」
「さっき透析から帰ってきたばっかりで、怠くてしょうがないから勘弁してくださいって。」
「腎臓が悪いのかい?サングラスのオジさん、最早、可哀想だよ。職業選択も間違ってるし。」
「それで、もう思いあたるところは全部探したんですけど、見つからないんでさ。」
「そりゃ、心配だね。でも、借金してたんだろ。怒らしたら、ゴメンよ。でもね、それを苦にして逃げちまったんじゃねぇのかい?」
「旦那!それはないですよ!恋女房だって言ったじゃないですか!」
「ゴメンよ。」
「それはいいけど、こそばゆいって言ったじゃないですか!」
「そっちが嫌だったのかい?人それぞれだね。わかった、わかった。逃げちまった訳じゃねぇんだね。」
「逃げてませんよ。当たり前じゃないですか。恋女房ですよ。こそばゆいんですよ!ただ、他所にいい男ができて、そっちに行ってるだけなんでさ。」
「それを、それを、逃、げ、た、って言うの!」
「ちゃんと手紙も置いて行ってくれたんですよ。探さないでって。」
「三行半だよ!逃げた中の逃げただよ!そんな綺麗な逃げ方、今どきないよ!」
「え~、なんですか、逃げた中の逃げたって?」
「ニヤニヤして言ってんじゃないよ!あたしだってちょっと滑る事だってあるんだよ!」
「逃げたは逃げたに決まってるじゃないですか。」
「仕返しかい?!あり得ないよ、このバカ!朝から手前の訳の分かんない話をずっと聞いてやってる、このあたしに、仕返しって、どう言う事なんだい!」
「今日、何か嫌な事でも?」
「お、ま、え!お前だよ、バカ野郎!いい加減にしろよ!バカ野郎!」
「あっしもバカまではいいですよ。そりゃ大学の学の字も書けやしませんからね。」
「あー、良かった。大の字は書けるんだね。」
「書けますよ。馬鹿にしねえでください!それに、バカ野郎って何ですか!バカ野郎って!そんなに言うなら言わせて貰いますけどね。あんた、さっきっから旦那、旦那って言われて、散々、偉っそうな事を言ってますけどね、一体、何処の誰なんですかい?」




