合流
鞄売り場に向かうと、既に翔吾が物色を始めていた。
近くに倒れているミイラは翔吾が倒したのだろう。
戦闘面ではなかなか頼もしい存在になってきたなこいつ。アホだけど。
「おーいカズ、とりあえずこれにしとくか?」
「ああ、それでいいよ。」
翔吾が持っていたのは登山用のリュックだった。それなりにたくさん物が入るし悪くなさそうだ。
「じゃあ私はこれで」
美沙は少し小さめのショルダーバッグを選んだ。
3人とも実際に背負ってみたり色々試していた。
「よし、じゃあおもちゃ売り場に行こう」
「あ、ちょっと待てよカズ。これも持って行っとこうぜ」
翔吾が持っていたのは登山用のピッケルだった。
「これで近づいてきたやつを振り払うんだ。リーチもあるし使えると思うぜ?」
「……うーんでも邪魔にならないか?」
「こないだアミトーークのゾンビ芸人でやってたんだよ。これで疲労を軽減できるし丈夫だからな。」
「バラエティの影響かよ…… まあ持って行ってもいいけど邪魔だと思ったら捨てるんだぞ」
「おっけー」
翔吾はリュックにピッケルを装備した。
「近くにミイラがいる。服屋を突っ切っておもちゃ売り場に向かおう。」
俺たちは小走りで進んだ。
服屋を突っ切ろうとした時、美沙に呼び止められた。
「待って!あれ!」
美沙が指差したのは試着室だった。カーテンが閉まっており、その前には靴が置いてあった。
「もしかして誰かいるのか?」
俺たちは試着室に近づいていった。
そしてカーテンに向かって俺は呼びかけた。
「すいませーん、誰かいますかー!」
だが、返事はない。
でも靴があるということは……?
女性物の靴だし少し開けるのは気がひける。もし着替えてたりしたらとんでもない。だけどこの状況でそんなことをする奴はいないだろうしそこは止むを得まい。
美沙に開けさせるのも手ではあるが、もしそこにミイラがいたら危ないからな。
「よし、俺がカーテンを開ける。2人とも一応逃げる準備はしておいてくれ。」
「うん」「わかった」
「よし、開けるぞ!」
シャッ
俺は一気に開け、水鉄砲を構えた。
そこにいたのは。
「弥生!?」
美沙が叫んだ。 そこには制服のまま横たわっていた伊集院さんだった。
「弥生!しっかりして!」
幸い、呼吸はしっかりしている。どうやら眠っているだけのようだ。
「おいおいマジかよ……」
昨日の夜からずっとここに居たのだろうか。よく無事でいられたもんだ。
「ん……?あれ?私何してんたんだっけ?」
「弥生!?目が覚めた?私だよ、わかる?」
「ってあれ、ミサミサ!? 怖かったよぉぉミサミサ~」
「無事でよかった……でもミサミサって呼ばないで~」
2人は抱き合って再会を喜んでいる。まあ美沙も女子1人じゃアレだったろうし、よかったな。
「あー、伊集院さん?詳しいことは後で話す。ここは危険だから早く行こう。俺たちといればなんとかなるから」
「もう大丈夫だぜ!伊集院さん!」
「ひっ! 二神くんと神楽坂くん?!」
そういえば伊集院さんは男子苦手だったな。美沙が居てくれてよかったぜ。
「とりあえずここを離れよう。美沙、伊集院さんを頼む」
「うん。行こ、弥生」
「ミサミサがいるならもう安心だね!」
「だからミサミサって呼ばないでってば!」
× × ×
伊集院さんを加えて4人でおもちゃ売り場までやってきた。相変わらずミイラはうろうろしているが黙ってやり過ごすかさっさと逃げてしまえばなんとかなる。
俺も少しずつ戦いに慣れてきたみたいだ。
「よし、ここの水鉄砲をありったけ持っていこう。それと水道で補給も忘れずにな」
「弥生、ミイラは水で倒せるの。これ、持っておいて」
美沙は伊集院さんに持っていた水鉄砲を渡した。
「よくわからないけど、ミサミサがそう言うならそうする~」
「だから……もういいや、早くここを離れましょ」
大きいものから小さいものまでできるだけたくさんの水鉄砲をリュックに詰め込んだ。 これだけあればだいぶ心強い。
「あ、あとついでにあれも持っていこうぜ」
翔吾が指差したのは水風船だった。
「水風船か、確かに使えるかもな。よし、何個か持っていっとこう」
必要なものを確保して水も補給し、ひと段落ついた。
「ところで伊集院さんはなんであんなところにいたんだ?」
俺が話しかけると少し慌てながらも答えてくれた。
「えっと、昨日さつきちゃんと買い物して帰っていたらモールの入り口から包帯を巻いた人たちが入ってきて中の人を襲ってきたみたいなの。それで逃げているうちにさつきちゃんとはぐれちゃって、とりあえず試着室に隠れていたら眠くなってきちゃってそれであそこで寝ていたんだと思う」
寝ていた……? こんな状況で寝るってなんて呑気なんだ…… ミイラもカーテンめくっただけで見つけられるのに気づかなかったのか? まだミイラには秘密があるのだろうか?
「まあいいや、とにかく無事でいられたのはラッキーだったな。よし、最後に食品売り場に向かう。みんな、油断せずにな」
「あ、そうだ。さつきちゃんがもしかしたらどこかにいるかもしれない。ミイラにやられてなきゃいいんだけど……」
天野さんもここにいたということはまだ隠れているかもしれないな。 何度ここに来られるかわからないが、もし無事なら今日のうちに合流しておきたいな……
ともかく伊集院さんが無事でよかった。心に少しの明るさを感じながら、俺たちは前へ進むのだった。