物資調達へ
不安は残るものの、翔吾はなんとか車を運転している。
「ほんと、この車がオートマでよかったぜ」
「まだ言ってんのかよ! もうちょっと信用してくれよ!」
「まあ、ゲーセンにはアクセルブレーキハンドルしかねーから仕方ないけどな… っておい、そこストップだ」
「む」
キッと音を立てて車が止まった。
小規模ではあるが、玉突き事故が起きていた。
生存者は居らず、近くにはミイラが数人さまよっているだけだった。
「この道は通れないね……」
美沙を地図を見ながら現在地に×の印をつけた。
「はぁ、さっきから遠回りしてばっかりだな。 ガソリンはどうなってる?」
「まだ半分以上は残ってるし大丈夫だと思うぜ。もしなくなったら別の車に乗り換えればいいだろ。」
もうこの状況に慣れてきているせいか、何も思わないが今やっていることは車を盗むという立派な犯罪だ。ショッピングモールから食べ物を持ち出した時も思ったが、俺たちは後に逮捕されるんじゃないだろうか?
そんな不安が頭をよぎる。
エアコンの冷気が妙に冷たく感じた。
「この島の面積って、大体40平方キロメートルなんだね。地図に書いてある」
不安を感じ取られないよう、取り繕って答える。
「へぇ、いまいちパッとしないけど結構小さいんだな、この島って。生まれた時からここにいるからあんまり実感なかったぜ」
「本州に行くには橋を渡って、四国に行くなら船を使わなきゃいけないから、少し不便ではあるよね。あ、そこ左行って」
「りょーかい!」
勢いよくハンドルを切る翔吾。
そのせいで俺の右側に座っていた美沙が少しバランスを崩した。
「きゃっ」
「おっと」
倒れそうになった美沙を両手で支える。
「あっ。ご、ごめん、ありがと」
「お、おう……」
美沙は決まりが悪そうに俯きながら窓際に座り直した。
少し顔が赤いようにも見える。 おいおいこれくらいで動揺するなよ、こっちが動揺しちゃうよ。
「おいおい、お前ら後ろでいちゃつくなよ。まだ朝だぜ?」
何言ってんだこいつ。
「……っ! そんなんじゃないし! ていうか神楽坂くんも危ないからもっとちゃんと運転してよ!」
「すみません……」
翔吾は意気消沈。
ふっ、ざまを見るがいい。変なこと言ってないでちゃんと運転しやがれ。
「あと次の角右だから!」
美沙のナビゲートで少しずつショッピングモールに近づいていく。
昨日は走って体力を消耗したが、今日はエアコンの効いた車内で安全な移動ができていることに少し安堵した。
遠回りにはなっているが安全が第一だ。美沙には今通っているルートをメモしてもらって今後に役立てよう。
「なぁ美沙。他の生存者って見てないか?」
「え?特に見てないけど……」
「そうか……」
うーむ、この島の人口は大体3万人くらいだったはずだ。それを踏まえても俺たち以外に生存者を見かけないのは何故なんだろうか。とは言え街中を無防備で歩くことが危険なのは既に周知の事実であるはずだ。生存者が他にいればの話だが。
「よし、着いたぞ」
そんなことを考えているとモールに到着。
「美沙、ルートはメモできたか?」
「うん。このルートだと片道15分くらいでいけるね」
「そうか、それくらいなら往復するのも苦じゃないな。
よし、降りる前に作戦を言っておく。まず最初に向かうのは鞄売り場だ。それなりに物を詰められて動きやすいものを持ってこよう。リュックサックなんかもいいかもな。 次におもちゃ売り場に行って使えそうな水鉄砲を拝借するぞ。最後に食料品売り場だ。野菜や果物は腐ってなさそうなやつを選んであとはインスタント食品や缶詰を選ぼう。それと可能な範囲で生存者を探すんだ。もしかしたら八嶋達がいるかもしれないしな。でも2人とも絶対に無理をするなよ。いざという時はすぐに逃げるんだ。いいな?」
2人は黙って首を縦に振る。
「翔吾、拠点にあった水鉄砲は持ってきたか?」
「おう、俺にかかればミイラなんかイチコロだぜ!」
サブマシンガンのような大きな水鉄砲を掲げながら翔吾は言った。
「それ死亡フラグだからマジでやめとけ。それにしても、昨日来た時にもっと水鉄砲を持って来とけばよかったんだけどな…… とりあえず心許ないがこれでなんとかするしかない」
手元にあるのは翔吾が持っている水鉄砲とあとはハンドガンタイプの小さな水鉄砲が2つあるだけだ。
市販の水鉄砲は射程距離が短く、接近しないとヒットしない。このことも帰ったら堂島さんに相談しないとな……
「よし、そろそろ行こう、んで必ず帰ってこようぜ!」
翔吾は車を降りた。
「おいおい、危ねぇからそんな先々進むなっての」
たまたま近くにミイラがいないからいいものの……
俺も車を降り、翔吾の後を追おうとした。
美沙も車を降りたが、固まっている。やはり怖いのだろうか。
「なぁ、やっぱり無理しないで車に待っておくか?」
「……! ううん、それはダメ。さつきや弥生がいるかもしれないし。私が助けに行かなきゃ。それに人数が多い方がいいでしょ?」
「それはそうだけど……」
正直美沙に怖い思いはさせたくない。昨日もモールの中にはたくさんのミイラがいた。もしも翔吾や美沙がミイラ化してしまったら俺はどうなってしまうんだろうか。
無理やりにでもここに留まらせた方がいいのかもしれない。
「大丈夫だよカズ。私、それなりに足も速いしいざという時はちゃんと逃げるから。絶対に生き残ってみせるから。」
先ほどまでとは違い、美沙の迷いがなくなったように見えた。凜とした目でまっすぐ俺を見ている。
「わかった…… じゃあ行こう。 くれぐれも油断しないようにな。武器が心許ないし 絶対に俺の側から離れないように行動してくれ。」
そう言うと美沙は急に目を逸らした。あれ?なんか変なこと言ったっけ?
「う、うん…… じゃあ行こ!神楽坂くん1人にしてたら危ないし!」
そう言うと美沙は入り口に向かって走り出した。
「おいおい待てよ」
少し戸惑いながらも、俺は美沙の後を追った。