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BANDAGE WAR  作者: タカクテヒロイ
4/9

救出

しばらくおもちゃ売り場にいたおかげなのか、モールの出入り口にいたミイラ達は数が減っていた。


「よし、今なら行けそうだな。行くぞ翔吾!」


「おうっ!」



俺たちは一気に駆け出した。

そして出入り口付近に残っていたミイラに水鉄砲をお見舞いする。


「これでもくらえ!」


ピシュッピシュッ


ミイラ達は包帯に濡れた箇所をまるで本当の拳銃で撃たれたかのように抑えながらうめき出した。



「ぐあああ……」


ミイラ達はバタッ バタッと次々に倒れていく。


「なんかゲームみたいだな!」


こんな状況だというのに、翔吾は楽しそうにしている。


「ああ……確かにな。そんなことよりこのまま外に出るぞ!」


俺たちはなんとかモールを脱出することができた。


確かにこれは迫り来る敵を倒しながら進むゾンビゲームのような感覚だ。


だが、これはゲームではない。1度やられたら次はないんだ。

それにこの買い物カゴもそれなりの重量がある。 結構腕にきている……


「ふぅ……なんとかなったな。 このまま如月さんの家まで行くのか?…… っておいカズ?」


「え、ああ、そうするつもりだけど……」


モールを出た俺の前には恐ろしい光景があった。


先ほど学校からコンビニに向かう途中にも思ったが、車が電柱に突っ込んでいたり、建物の壁が壊れていたり道路が割れていたり火事になっている民家もある。まるで大地震の後のような状況だった。


「こりゃひどいな…… 歩道もめちゃくちゃになっちまってるし、歩くのも大変だぞ……」


「ああ、でもこうしちゃいられねぇ。早く美沙の家に行かねーと……」


本当にこの街は終わってしまったんだな……


生まれてからずっと過ごしてきた街、変わり果てて地獄絵図と化した街の様子に絶望しながら 俺たちは美沙の家を目指した。


× × ×



「ったく、どこもかしこもミイラだらけだぜ。」


一刻も早く美沙の家まで行かなきゃいけないのに、どの道もミイラが徘徊しており、なかなか前に進めない。


「おい、あの公園で一旦水を補給しようぜ」


「ああ、そうだな」


ピンチになった時は水鉄砲でなんとか乗り切ってきたが、水の残量が心許なくなってきたので公園の水道で水鉄砲に水を入れる。


そして喉も渇いていたので水道水で喉を潤した。


「さて、もう少しで着く。頑張れ翔吾」


「カズ、お前もな」


先ほどは恐怖で戸惑っていた俺たちだが、だいぶ落ち着いてきた。


そして歩みを進めて行くと、ようやく美沙の家が見えてきた。


「なぁ、お前の家の近くまで来たけど一旦自分の家に寄らなくていいのか?」


「いや、両親が待ち伏せしているかもしれないから危険だ」


本当は逃げる時に置いてきてしまったスマホくらいは取りに行きたかったが、今は一刻を争う。


「そうか……じゃあ俺もいいや……」



「1度落ち着いたらまた来ようぜ」


今は無理だが、後で必ず戻ってくる。

家の方向を向きながら俺は誓った。


「よし、着いたぞ」




「如月さん、いるかなぁ……」


俺は美沙の家の門扉を開けた。


玄関は鍵がかかっておらず、モールから持ってきた食料の入った買い物カゴを玄関に置いて中に入った。


「お、お邪魔しまーす」


あいつの家は何度か入っているが、やっぱり何も言わず入るのは気が引ける。


「おーい!美沙ー!いるかーっ!」


「如月さーん!」


呼びかけたが返事はない。


一階のリビングや台所を見てまわったが、美沙の姿はない。


「美沙……どこにいるんだ……」



ドンドンドンドンドン!


「!」


その時上からドアを乱暴にノックするような音が聞こえた。 二階に誰かいる。



「2階か!?」


「誰がいるみたいだぞ!」


俺たちは2階に上がった。



音の正体はかつて一度だけ入ったことのある美沙の部屋のドアを叩く音だった。


そして乱暴にドアを叩いていたのは……


「おい美沙!ここを開けなさい!お前もこの包帯を巻くんだ!」


ミイラだった。それも間違いなくその正体は美沙の親父さんだった。やられてしまったのか……


「やめてよ、お父さん!どうしちゃったのよ!」


部屋の向こう側から美沙の声がした。


「美沙!」

「如月さん!」


「ん?」


俺たちの声に気づいたのか美沙の親父さんは振り返った。


「誰かと思ったらカズくんか。君たちも一緒に美沙を説得してくれ。 ここを開けて包帯を巻くように」


「それはできません!目を覚ましてください!」


「何を言っているんだ?そういえば君たちも包帯を巻いていないな。ダメじゃないか。君たちも巻きなさい」


美沙の親父さんが俺たちに歩み寄って来た。やっぱり呼びかけても無駄だったか……


俺たちは水鉄砲を取り出し、美沙の親父さんに向けて発砲した。


ピシュッピシュッ


「な、何を……! やめなさい! ぐわあああっ!」


バタッ


美沙の親父さんは倒れた。


「ふぅ……」


美沙の親父さんが動かないのを確認して、俺はドアの向こう側に呼びかけた。



「おい美沙。俺だ、カズだ。ここを開けてくれ」


「如月さん大丈夫?」


「カズと……神楽坂くん?」


美沙はおそるおそるドアを開けた。



「美沙!無事だったか……」


「どうして2人がここにいるの?お父さんはなんで気絶しているの? わけがわからないよ……」


美沙は疲れ切った顔でその場に座り込んでしまった。どうやら長い間ここにいたようだ。


「落ち着いて聞いてくれ……」


俺たちは今までにあったことを順を追って説明した。


× × ×



「そんなことが…… 信じられないけど、お父さんがそこで気絶してるのはカズ達に水をかけられたからなのね?」


「ああ、そういうことだ。」


「如月さんはお母さんのお見舞いに行ってたんだよね?」


「うん……お見舞いの帰り道に何人か包帯を巻いた人たちがいて、変だなって思いながら帰って家でテレビを見てたらお父さんが帰ってきたんだけど変になってて…… それでずっと自分の部屋に閉じこもっていたの……」


「なるほどな……」


「ねぇ、お父さんを元に戻すことはできないの?」


「いや、それは……」


「なあ、カズ。あの包帯剥がすことはできないのかな?」


「そういえば……」


包帯を剥がすと元に戻るかもしれない。だが、剥がそうとしてミイラ化したら元も子もない。どうするべきか……


「やってみようぜ、カズ」


「わかった……」


危険はあるがやってみる価値はあるかもしれない。


「じゃあ俺が体を抑えておくから、カズが包帯を剥がしてみてくれ」


「よし」


俺はおそるおそる美沙の親父さんについた包帯に触れた。特に問題はなさそうだ。


「ね、ねぇ……もしかして、濡れている間は大丈夫なんじゃないの?」


隣で心配そうに見守っている美沙が言った。


「そうかもしれないな、よし剥がすぞ……ってあれ?か、固え……」


包帯はぴったりと体にくっついておりうまくとれない。


「くそっ……うまくとれねぇ」


爪でなんとか先端を剥がし、そこから包帯を外していこうとする。


「よし、このまま……ってうわっ!?」


「きゃっ!?」


腕に巻きついた包帯が少し剥がれたのだが、その瞬間に腕からふつふつと血が滲み出てきた。


「おいおいマジかよ……」


かなり固いとは思ったが、もしかしてこの包帯、体の内部の、それも血管と繋がってるんじゃないのか……?


「腕だったから良かったけど、頭だったらやばかったかもな……」


「剥がすのは危険だ、ひとまず親父さんを寝室に運ぼう」


俺と翔吾の二人掛かりで美沙の親父さんを一階の寝室に運び、ベットに寝かせた。


「包帯が乾いたら復活する可能性もある、とりあえずここにおいて、家を出よう」


「そうするしかないのかな。お父さん……」


美沙は親父さんを悲しげな眼差しで見つめていた。


「さっき説明した通り、俺たちはこれから三年前に廃墟になったビジネスホテルに行って体制を整えるつもりだ。美沙も一緒に行こう」


「わかった……」


「これ、いざという時に使ってくれ」


俺は美沙にハンドガンタイプの水鉄砲を1つ渡した。


「これ、私に扱えるかな?」


「水鉄砲だし大丈夫だよ如月さん。それじゃ行こう」


俺たちは美沙の家を後にした。


そして10mほど歩いたところで美沙が立ち止まった。


「どうした?」


「また……帰ってこれるよね?」


「……! ああ……」


それだけ言うと、再び3人で歩き出した。



目指すは廃墟になったビジネスホテルだ。


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