犠牲
「はあっ……はあっ……」
「全くどうなっちまったんだよこの街は……」
俺と翔吾は迫り来るミイラの攻撃をかわしながらなんとか学校までたどり着いた。
既に完全下校時間を過ぎており、学校は静まりかえっていた。
「みんなは無事なのかな……」
「わからねぇ……」
八嶋や天野、伊集院さんはどうしてるだろうか。
それと美沙が危ないかもしれない……
今頃襲われたりしてないだろうか……
「おいカズ、カズ!」
「え、なんか言ったか?」
「なにボーッとしてんだよ。それより職員室はまだ明るいぜ、とりあえず先生に相談してみた方がいいんじゃねーか?」
「それもそうだな、よし行こう」
美沙……みんな……無事でいてくれ…!
× × ×
職員室の前に到達。
「こんな時だしノックなんてしなくていいよな」
俺たちはいきなりドアを開けた。
「先生!大変なんです!街が……ってうわぁああっ!」
職員室はすでに数人のミイラがおり、女の先生達が襲われていた。
先ほど親父が母さんを襲ったように、ミイラ達の包帯が伸びてみるみるうちに女の先生達の体に巻きついていく。
呆然と立ち尽くしていると数分前まで先生だったはずのミイラがこちらに気づいた。
「おい、二神、神楽坂。お前らなんで包帯を巻いてないんだ?」
「先生まで何をやっているんだよ!目を覚ましてくれよ先生!」
「何を言っているんだお前らは?さっさと包帯を巻け」
翔吾の声も先生に届かない。完全に取り憑かれているようだった。
「先生こそ何言っているんだよ!」
「先生の言うことが聞けないのか。そんな生徒にはお仕置きだ」
ミイラになってしまった先生は机のカッターを取り出し俺たちの前までやってきた。
明らかに本来とは違う握り方をしている。
俺たちを刺そうとしているのか……?
「ふんっ!」
「うわぁっ!」
襲われた翔吾は紙一重でカッターをかわした。
少しずれていれば完全に刺されていた。
「逃げるぞ、翔吾!!」
腰が引けている翔吾を無理やり引っ張って、駆け出した。
体育館の裏まで逃げてきた俺たちは一旦息を整えた。 先生は追ってきていないようだ。
「はあっ…… はあっ…… くっそ……まさか先生までおかしくなっちまったとは……」
「やっぱり包帯を巻かれてミイラ化すると何かに取り憑かれたようにおかしくなってしまうんだな…… 先生、完全にお前を殺そうとしてたし」
「マジでこえーよ…… 大体こんなこと現実的にあり得るのかよ……」
「なんにしても今 目の前で起きていることが現実だ。なんとかしないとな。」
「お前なんでそんなに落ち着いていられるんだよ……」
確かにそうだ。友人が目の前で殺されそうになったのに驚くほど落ち着いてる。
一体何故なんだ?
ぐうぅ~
「あっ……」
翔吾の腹が鳴ったようだ。
「はぁ……こんな時に呑気な音鳴らしてんじゃねぇよ」
「仕方ねぇだろ…… 昼から何も食ってねぇんだしよ……」
かくいう俺もかなり腹は減っている。
さっきから走りっぱなしだしな……
「コンビニでも行くか? やってるかどうかわかんねーけど……」
「でもよ、さっきの見たろ?ミイラ化した人間は他の人間をミイラ化させようとしてくるんだぜ? 今この場を離れるのは危険じゃないか?」
「でも先生達に見つかるかもしれないし、食料は必要だ。ここにいたって何も変わらないだろ」
「はぁ…… それもそうか、よしじゃあ行こう」
俺たちはミイラに遭遇しないように近くのコンビニを目指して歩き始めた。
× × ×
細心の注意を払いながら、なんとかコンビニまでやってきた。
だが、コンビニの近くにはすでにミイラが徘徊しており、とても近づけそうにない。
「くっそ、コンビニもダメか……」
「うーん、やっぱりショッピングモールまで行かなきゃダメかもな……」
「ああ……でもあそこも人が多そうだけどな……」
「でももしかしたあそこで隠れている人たちがいるかもしれない。まずは行ってみて……」
「いやああああああっ!!!」
「!?」
近くで女の人の叫び声が聞こえた。
声が聞こえた先をみると女の人が1人のミイラに追いかけられていた。
ミイラの足は遅く、だんだん距離が広がっていく。
だが、彼女はやがて壁際に追い詰められてしまった。このままではミイラ化してしまう。
「いやっ!来ないで!」
「翔吾、あの人を助けに行くぞ!」
「おいカズ、待てよ!」
俺たちは壁際に追い詰められた女性のところに駆け寄っていった。
だが、既に女性の体に包帯が伸びており、ミイラ化が始まろうとしていた。
「くそっ……間に合え!」
俺はミイラを思い切り蹴り飛ばした。
意外にもミイラは軽く かなり吹っ飛んだ。
「大丈夫ですか!?」
「え、えぇ……」
よくみる女性の両足の太ももくらいまでが包帯に巻かれていた。
間に合ったのか……?
「カズ!大丈夫か?」
遅れて翔吾がやってきた。
「ああ、なんとかな。 ここは危険です、早く逃げましょう!」
俺は助けた女性に声をかけた。
「待って! 足が思うように動かないの!」
「えっ?」
「なんでだか、わかんないけど言うことを聞かなくて……ってきゃっ!?」
女性はいきなり俺の腰あたりを蹴ってきた。
「ぐあっ……!」
「カズ!?大丈夫か!? ちょっといきなり何するんすか!」
「ごっごめんなさい。 でも今のは足が勝手に……」
「足が勝手に……?」
まさか、足だけがミイラ化しているとでもいうのか?
そういえばさっきは全身ミイラ化している奴と 体の一部だけ包帯が巻かれている奴がいたな。
「ったく……いってぇなあ……」
「!」
さっき蹴り飛ばしたミイラが再び近くまできていた。
「くそ……まずい、早く逃げないと!」
「カズ!早く行くぞ、近くのミイラが集まってきた!」
で、でも俺たちがここを離れたらこの女性は……?
「待って!置いて行かないで!」
ど、どうすれば……
「カズ!ここにいたらやられちまう!早く!」
「くっ……ご、ごめんなさいっ!」
俺は必死に助けを求める女性を残して駆け出した。
「待ってよ! そんな……」
「いやあああああっ!!!」
背後から断末魔の叫びが聞こえた。
だが、決して振り返らず俺たちはショッピングモールを目指した。
ごめんなさい…… 助けてあげられなくてごめんなさい……
生き残るために……今はひたすら走るしかなかった。