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BANDAGE WAR  作者: タカクテヒロイ
1/9

終わりの始まり


子供の頃に憧れたものといえば。


ヒーロー。 困っている人たちや助けを求めている人たちを悪者から救うヒーローだ。 男子なら一度は夢みたことがあるだろう。俺も一度でいいからヒーローみたいにたくさんの人に賞賛されたい。


そして中2の頃はよく秘密結社や悪の組織と戦うエージェントなどに憧れていたな。いつもは普通の一般人を装いつつ敵と戦う時は真の力を解放して……


……うんもうこの話やめよう。俺はもうあんな馬鹿な妄想はしない。意味もなく黒いノートを使ったり 片目だけカラーコンタクト入れたりとかもうしない。絶対しない。


今俺が憧れるものといえば非日常的な日常だ。今みたいな何も変わらない毎日はもう嫌だ。 何かの為に必死で生きてみたい。信頼できる仲間達と共に得体の知れない生命体とかと戦ってみたい。

そしていずれは黒幕を倒し、ヒロインと結婚……


一真(カズマ)、早く起きなさい!もう8時過ぎてるよ!」


俺のモノローグは母親によって遮られてしまった。ていうか、結局考えてること昔と変わらないじゃん。男の子だからね、仕方ないよね。


「てか、8時過ぎてんのか……遅刻確定だな……」



俺は支度をしてからパンをかじってホットミルクを一口飲み、家を出た。


「ふぁああ……ねみぃ……いってきやーす」


× × ×


俺こと二神一真(フタガミカズマ)が住むこの街は瀬戸内海に埋め立てて造られた人工島にある。


まあショッピングモールやらなんやらその他諸々必要なものは揃っているが、この島を出るには島の最北端にある橋を渡らなくてはいけない。それ以外なら港から船に乗るか泳ぐかだ。これが結構不便なんだよな。


俺は急ぎ足で歩みを進めていると、背後から声をかけられる。


「よおカズ、お前も寝坊か?」


カズというのは俺のアダ名だ。こいつは同じクラスで中学から一緒の友人、神楽坂翔吾(カグラザカショウゴ)。サッカー部に所属しており実力もある。そして顔もいいのに空気が読めず適当であり、所謂残念イケメンというやつである。


「そうだけど……お前はなんでそんなにのんびりしてるんだよ」


「どうせ明日から夏休みだし遅刻しても大したことないだろーっ」


「そういう考え方もありかもな、まあいっか」


「というか、今日は如月(キサラギ)さんと一緒じゃないのかよ」


如月さんというのは小中高全部一緒の腐れ縁、如月美沙のことだ。 家が近所なので、朝に弱い俺をよく起こしに来てくれるのだが、どうやら今日は先に行ってしまったようだ。


「今日は来てねーよ、まあいつも起こしにくるのも大変だろうしな」


「なんだよ、ついに別れたのかー?」


「いや、そういうんじゃないし…」


まあなんやかんや世話を焼いてくれるし、いい奴だとは思うけどな。


「お前ら結構噂になってんぞ……ってなんだあれ?」


翔吾の指差す先には何やら奇妙な集団がいた。


全身に包帯を巻いてまるで木乃伊(ミイラ)のような奴らがもみ合っているようだった。


「なんか変な奴らだな……絡まれないようにさっさと行こうぜ。」



俺たちは学校へと急いだ。



× × ×



学校に着くと既にHRが始まっていた。


「おはよう、お前ら! 完全に遅刻だぞー!」


翔吾と同じサッカー部でクラスの中心人物の八嶋隼人(ヤシマハヤト)が挨拶してきた。


「2人とも夏休み前だからって浮かれすぎー!」


そう言ってきたのは同じく中心人物で赤みのかかった茶髪の天野(あまの)さつき。美沙とも親友である。



「っるせーなぁ……寝坊したんだよ」


めんどくさそうに答えながら席に着いた俺は隣の席の美沙に声をかけた。


「おっす美沙。今日はなんで起こしに来てくれなかったんだ?」


長いストレートの黒髪を払いながら美沙は答えた。


「おはよう一真。今日はお母さんの病院に泊まってるから行けないって昨日メールしたじゃん」


「あれ?そうだったっけ……?」


そういや美沙のお母さん、今入院してるんだったな。大したことないらしいけど、いつも世話になってるし早く治るといいな…


「しっかりしなよ、だいたい私が行かないと遅刻せずに学校来れないわけ?」


「あぁ?別に来れるし。ていうかそもそも起こしに来てくれなんて頼んでないし。」


「はぁ!? なにその言い方ぁ!私が行かなかったらアンタ今頃遅刻のしすぎで留年してるんだけど?!」


「んなわけねーだろ!お前が起こしに来なくても余裕だっつうの!」


口論になっていると後ろの席の翔吾がその間に入る。


「まあまあ、夫婦喧嘩はそのくらいに」


「「そんなんじゃない!!」」


声が揃った。


「おいお前らうるせーぞ!!遅刻しといてなんだその態度は!?」


「すみません……」


担任の怒号にすっかり意気消沈した俺たちだった。


× × ×


放課後、帰ろうとしていると翔吾に声をかけられた。


「なあカズ、夏休みにキャンプ行こうぜ!」


「キャンプ?というかお前今日部活は?」


「昨日雨降ってグラウンド使えねーから今日は休みだ。それよりどうだ?」


「キャンプねぇ…別に構わんけど具体的になにするんだ?」


俺が聞き返すと翔吾の代わりに八嶋が答えた。


「バーベキューとかもするけど、1番の目的は天体観測なんだよ。今年は100年に一度の彗星が見られるらしいぜ。」



「へぇ、そりゃすごいな。メンバーはどんな感じなんだ?」


「俺と神楽坂、あと天野と如月さんも呼ぶつもりだぜ。他にも呼びたい奴とかいたら呼んでくれ」


「おっ! さつきちゃんくるの!?やったぜええええ」


「神楽坂きもい。あと下の名前で呼ばないで。」


「ほげっ……」


天野の冷たく鋭い声で瞬殺。どんまい翔吾。


「ていうか美沙呼ぶのか……」


「何か言った?」


ドスッ


鈍い音と同時に背中に強い衝撃がきた。


「ぐふっ……」


どうやら殴られたようだ、グーで。


「嫌ならアンタが来なきゃいいじゃない」


まださっきのことで怒ってんのかよ…


「まあまあ、仲良くしようぜ! 他、誰か誘いたい奴いるか?」


さすが八嶋だ、場を整えるのがうまい。リア充は違うぜ。


「あ、じゃあウチが弥生誘ってくるね」


弥生というのは伊集院弥生(イジュウインヤヨイ)さんのことだ。天野の友達で美沙とも仲のいいようだ。


天野は伊集院さんの席に行って声をかけ、やがて連れて戻ってきた。


「私も行っていいの?」


「もちろん。大歓迎だよ」


ニコッと笑いながら八嶋が答える。

さすがリア充、自然な微笑みだ。


「それで……女の子は誰がくるの?」


心配そうに問いかける。


どうやら伊集院さんは女子がいないと不安なようだ。


「ウチと美沙がいるよー!」


「えっ、ミサミサも行くの?」


「うん行くよ、ていうかミサミサって呼ぶのやめて。」


「やったー、ミサミサが行くなら行くー!」


「ちょっと弥生…… 話聞いてる?」


伊集院さんは聞く耳を持たず美沙に飛びついている。女子特有のスキンシップだ。

美沙には懐いてるみたいだな。



「んじゃあとはその辺のやつをてきとーに…… なぁ七條くん、今度キャンプ行かね?」


さすがテキトーな翔吾。 たまたま近くにいた七條正信(シチジョウマサノブ)くんに声をかけた。


「話を少し聞かせてもらったけど楽しそうだね。でもぼくは塾とかあるし、親に聞いてみないとわからないかなぁ……」


「そっかぁ、七條くんの家は厳しいもんなぁ」


「もし行けそうだったらその時連絡するよ」


「わかった!」


「うーんじゃあ後は…… 五十嵐くん!今度みんなでキャンプに行くんだけど、一緒に」


「行かねぇよ、キャンプなんて」


それだけ言い残すとさっさと教室を出て行ってしまった。


五十嵐真斗(イガラシマサト)はクラスでも誰とも仲良くしているところを見たことがない。素行も良くないみたいだし、正直あんまり関わりたくない存在だ。


「なんだよ、あの態度……」


翔吾は面白くなさそうに言った。


「ていうかなんで誘おうとしてんだよ……別にあいつと仲良くねぇだろ」


「ん?だってたまたま近くにいたし」


「ほんとテキトーだな……」


「まあ何はともあれ、とりあえず行くメンバーは俺と神楽坂、カズに如月さんと天野さんと伊集院さん、それと一応七條くんも合わせて7人だね」


八嶋がまとめた。 さすがリア充。俺これ言うの何回目?


「りょーかーい じゃあ美沙と弥生 、これから遊びに行かない?」


「あー、今日もお母さんのお見舞いに行かなきゃいけないから、今日は無理だわ」


俺もお見舞い行こうかな……でも今言ったらこいつまたキレそうだしやめとくか。


「そっかー、じゃあ弥生、2人でいこっか」


「おっけー、じゃあミサミサも途中まで一緒に帰ろ?」


「うん、いいよ。でもミサミサって呼ぶのやめて」


なんてやりとりをしながら、女子3人は帰っていった。


「さてと、俺たちもどっか行こうか」


「いや、もう少し夏休みの予定でも立てようぜ」


「りょーかい、他にはどこに行きたいんだ?」


「やっぱ海だろーっ! 水着の美女をGETしようぜ!高二の夏は1回しかないんだからな!」


「「お前じゃ無理」」


「え?」



こうして俺たちは日が暮れるまで夏休みの計画について話し合ったのだった。



× × ×



「じゃあ、カズ、またなー!」


「おー」



翔吾達と別れ、俺は家路についた。


ふう、すっかり遅くなっちまったな。

どうやら親父ももう帰ってきているみたいだ。


玄関のドアは開いていた。

なんだよ無用心だな。


「たでーまー」


なんだかいろんなものが床に散らかっている。 おいおいきたねぇな、出る時こんな風になってたっけ。





その時、母さんの悲鳴が聞こえた。


「なにするの!?やめてっ!!」


「!?」


俺は急いでリビングのドアを開けた。




そこには見たこともない光景があった。



ミイラのような全身が包帯に巻かれた男が母さんを襲っており、男の包帯がみるみるうちに伸びて母さんに巻きついていく。


あまりの悍ましさに俺は恐怖で立ち尽くしていた。


はっ。 なにをやっているんだ。母さんを助けないと。


「おいお前!なにやってんだ!!」


俺は包帯男に体当たりする。


包帯男は体勢を崩し、母さんが解放された。


「母さん無事か!?」


母さんにはこの男と同様に包帯が全身に巻かれてしまっていた。


なんだこの包帯……? さっきまでこんなに長くなかったぞ……?


「ええ、無事よ。ただ包帯を巻かれただけだもの」


なんだが様子がおかしい。

そして包帯男が体勢を立て直し、俺に向き合った。


「全く、父親に体当たりするとは何事だ?」


「何っ!?」


確かにこの体格と声は親父のものだが…… なんで包帯なんか巻いているんだ?

わけがわからない。


呆然としていると母さんは俺に言った。


「一真もこの包帯を巻きなさい」


「はっ?」


「この包帯を巻いて、家族みんなで幸せになりましょう?」


「い、意味わかんねーよ。どうしたんだよ2人とも…… そんなもの巻きたくねーよ!」



「聞き分けの悪い子だねぇ。早くこの包帯を巻くの」


「そうだそうだ。ちゃんと親の言うことを聞きなさい」


2人とも完全にいかれちまってる。

なんなんだこの包帯は……


「さあ早く」


乱暴に腕を掴まれ、親父の体から包帯がシュルシュルッと伸びてきた。

この包帯はまるで生き物のように動いている


「……っ!」


俺は間一髪のところでかわした。


「避けるな」

「大人しくしなさい」


2人は俺に襲いかかってきた。



「う、うわああああああっ!!!」


俺はなにも持たず家を出て逃げた。



家を出て周りを見渡すと全身に包帯を巻いてる人が普通の人を襲おうとしているのが見えた。


ここにいたら危ない。どこかに逃げなくては。


俺は一目散に走っていると、曲がり角で何かにぶつかった。


「いてて……」


「あっ!カズ!」


「なんだ翔吾か」


「助けてくれカズ! うちの家族がみんなミイラみたいになっておかしくなこと言ってるんだ!!」


「なっ!?お前のところもか!?」


「俺に包帯を巻きつけようとしてくるんだよ!」


「そうか、俺も今両親に襲われそうになって家から飛び出してきたところなんだよ」


「これからどうするんだ?!」


「わからねーよ、どうしたらいいんだ……」


「おい、お前ら。さっさと包帯を巻け」


「!?」


話しているうちに他のミイラが近くまで来ていた。


「くっ、走れ!とりあえず学校に逃げるぞ!」


「あ、ああ!」


俺たちは学校に向かって走り出した。


いったいこの街でなにが起きているんだ……?

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