精霊との出会いについて
彼と出会ったのは真っ白な空間の中だった。
死んだと思った直後の事で、混乱していたからあまり覚えていないのだけれど、そこは白くて、何もない、優しい空間だった。
彼は私と同じくらいの背格好で、容姿は…、思い出せない。
ただ、酷く慌てていたのは覚えている。
泣きそうな声で、いきなりいなくなったから心配した。と、震える手で抱きしめられたときは本当にびっくりした。
だって私は彼と初対面のはずなのにとても懐かしい感覚になったのだ。
そうすることが当たり前のように、私は自然と彼の頭を撫でていた。
しばらくして落ち着いたのか、彼は勢いよく顔を上げて、
「はじめまして、僕の愛し子。」
と微笑んだ、と思う。
私がよくわからないままに挨拶を返すと、彼はそっと私の頬を撫で、呟く。
「今回はちょっと早すぎるよ。」
悲しんでいるような、怒っているような、けれど少しだけ嬉しそうな声だった。
「…?あ、の?」
何となく気まずくて声をかけると、はっとしたように手を頬から離し、私の手をとった。
「こっちに行こう。歩きながら色々説明するね。」
握られた手は冷たくて、心地よかった。
彼曰く、私はまだ死ぬ運命ではなかったらしい。
本来死ぬはずだったのは私の前を歩いていた青年で何かの手違いで後ろにいた私に代わってしまったのだそうだ。
彼が調べた結果、それは天使と呼ばれる神の僕が、その青年に異常に肩入れしたために起こったことだという。
「天使は、ううん、この世の全てのものは運命を曲げてはいけないんだ。」
繋がれた手に力が籠められ、顔は分からないけれど彼は悲しいんだなと思った。
「まだ生きる予定だった君が死んで、そいつは生き残った。けれど、そいつはもうまともな人生は送れないよ。多分すぐ死ぬんじゃないかな。」
冷たい声が怖くて、思わず声をかける。
「どうして?私の寿命分生きれるんじゃないの?」
彼は振り向いて、安心させるように私の髪を撫でる。
「天使もそう思ったみたいだけどね。それは出来ないんだ。寿命はその人だけのものだ。誰かに渡すことも、奪うことも出来ない。」
「漫画や小説とは違うのね。」
彼は少しだけ笑って、私の手を引き、また歩き出す。
「そうだね。寿命はいわば運命のピースのようなものなんだ。」
「ピース?」
彼が手を翳すと、ひとつだけピースが足りない白い球体のパズルが浮かび上がった。
「パズルのピースだよ。人によって色とりどりで、形も違う。」
いつの間にか私の手の中にはひとつのピースがあった。
紫色の、綺麗なピース。
彼はそれを手に取ると、欠けた穴にはめる。
すると球体は崩れ、落ちていく。
「こうやって無理にはめようとするとバラバラになる。運命が、めちゃくちゃになる。」
「それが、その人の運命?」
「そうだね。そしてこれが、君の寿命。ま、あくまでもたとえ話だけどね。」
渡された紫色のピースは、少しだけ悲しげに見えた。