今の私について
すみません、兄の存在を忘れていました。
4/25に追加しました。
「…、…っ。……さま。…ル様。」
身体を揺すられる感覚にゆっくりと目を開ける。
「ん、…?」
「おはようございます、リリーベル様。朝でございます。」
ここはどこだろう。
この人は、誰だろうか。
私の疑問をよそに、彼女は私の身体を起こす。
渡された冷たいタオルで顔を拭くと、意識がはっきりとしてきた。
そうだ、私はリリーベル。
彼女は私付きの侍女メニリル。
「おはよう、メニリル。いつもありがとう。」
タオルを返しいつものように挨拶をすると、彼女―メニリルは心配そうに私の目元を撫でた。
「リリーベル様、昨夜もまたあの夢を?」
優しく撫でる手が、心配そうな表情が嬉しくて私は小さく笑う。
「だいじょうぶよ。いつものことだもの。」
メニリルは私の様子に少しだけ目元を緩ませ、一度だけ髪を撫でてお辞儀をした。
「私に出来ることがあれば何でもお申し付け下さいませ。」
「ありがとう、メニリル。」
これが私のいつもの朝だ。
ここは、シュガーミレズ家。
数百年前に伯爵の位を賜った由緒ある家だ。
シュガーミレズ家は建国前からあったらしく、王家とともに建国に尽力を尽くしたことによって爵位を賜ったそうだ。
現在の当主は私の父、レインバール・シュガーミレズ。
藍色の切れ長の目と、透き通るような銀色の髪が印象的な美形だ。
父は21歳で当主となった凄腕の人で、冷たい印象とは裏腹にとても優しい。
二十代で、しかも前半で当主となるのはとても珍しいことらしく、当時は色々大変だったらしいが父は当主として相応しい力を示し、黙らせたそうだ。
その一年後に婚約者だった母、キャスミリーと結婚し、その一年後に兄が、二年後に私が続けて生まれた。
母は紫色の瞳と緩やかに波打つ金色の髪がとても綺麗な美しい人だ。
柔らかな眼差しと笑みをいつも浮かべているが、暖かな見た目とは裏腹に頭の回転が速く、毒舌で、納得できないことはとことん突き詰めないと気が済まない性格をしている。
正反対に思える二人だが、懐に入れたものには愛情を注ぎ、敵と決めたものには容赦がないところだけはそっくりだと、乳母のマリーが言っていた。
兄はギルミット・シュガーミレズ。
紫色の鋭い目と、緩やかに波打つ銀色の髪をもった頼もしい人だ。
悪戯好きでいつも家令たちを困らせているが、何となく憎めない人で、私をとても可愛がってくれる。
そして私は、母の紫色の柔らかな瞳と父の透き通るような銀色の髪を立派に引き継いだ。
顔立ちも整っていると思う。
リリーベル・シュガーミレズ、現在5歳。
前世と思われる記憶を持つ、伯爵令嬢だ。
「リリーベル様、終わりましたよ。」
考え事をしているうちに、身なりが整っていた。
さすがメニリル、仕事が早い。
「ありがとう。」
メニリルはにこりと笑う。
「リリーベル様の侍女ですから。では、朝食の準備が整いましたらもう一度お呼びいたします。」
「わかったわ。」
静かに閉まったドアから目を離し、息を吐く。
「ルル。」
誰もいない筈の空間に呼びかけると、それはすぐに姿を現した。
「はいはーい!」
銀色の瞳と紫色の髪を持った手のひらサイズの男の子。
背中の翅は透明でキラキラと光を反射していた。
彼は私の精霊。
そして私は、
「おはよう、僕の愛し子。」
彼の愛し子らしい。
「今日も一日、リリーが無事に生きられますように。」
額と頬に贈られるキスは精霊から愛し子への挨拶。
額は祝福。頬は親愛。
「ありがとう、ルル。」
「どういたしまして!」
嬉しそうにくるくると踊る姿に目を細める。
「きょうもまたゆめをみたわ。」
すべては彼から始まった。
「ふふふ、今日は高校時代だねー。」
彼は私の精霊。
私は彼の愛し子。
精霊にとって愛し子は宝物です。
ルルとリリーの間には恋愛的感情は一切ありません。