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その6

最後まで徳永君視点です。


15

くぐもったうなり声が聞こえるが、ドームの中からは出て来れまい。


張りつめていた緊張があっけなく切れて、俺はその場に倒れ込んだ。


体中が痛いどころかの話じゃない。

完全に魔力欠乏症だ。

頭がぐわんぐわんと揺すぶられているようだし、指先が冷たくなって、感覚もなくなっている。


足りない魔力を補おうと体が休息を求めているが、寝込むのにはまだ早い。


どうやってごまかすか、というかごまかさなければならないことについても考えなくてはならない。

が、その前に、化物を倒せるやつを呼ばなければならない。


俺がしたことは”捕縛”であり、”討伐”ではない。

俺の力ではこの化物を倒すことはできないから。


前田さん当たりに問いつめられたらごまかせないような気がするから、そこらへんは却下。


呼ぶのは、義宏で大丈夫か……?

いや、いっそのこと四人組で来てくれればいいが。


地面をこする足音が近づいてくる。

目を開けると、早乙女さんが俺を見下ろしていた。

長い黒髪が左右から垂れ下がり、顔にかかっていても気にした様子はない。

その目は心配しているというより観察しているといった風だろうか。


「すみません、左の胸ポケットに入っている僕のスマホで関君に連絡してくれませんか?」

化物はまだ倒した訳ではないので、と説明したらさすがに素直に連絡をつけてくれる。

そう、思っていた。


「その必要はないわ。」


そう言うと、彼女はおもむろに右手の人差し指で空を指差し、体をドームのほうに向けた。

瞬間、彼女の魔力が一気に増加し、それが指先へと集まっていく。

眩しいくらいの激しい光が指先から生み出され、辺りを昼のように照らす。


雷霆ライトニングウィップ。」



よどみなく指を振り下ろすと、それに追従するように雷の帯が地面に叩き付けられる。

それは化物をドームごと真っ二つにし、ぶすぶすとした炭へと変えた。

あっけない終わりに俺の理解は追いつかず、間抜けに口を開けながら炭になった物体を見つめるだけだった。



16


「はい、コーヒー。」

なんとかベンチまで移動し、ぐったりと座っていたら早乙女さん……いや、もう牝狐とでも呼んでいいはず、にコーヒーを手渡された。


「で、どういうことなのか、説明して、くれますか?」


「えっと……実は、私、特務官なんです♪」


そんなかわいこぶっても今の俺には通用しない。

ジト目を向けると彼女は少々ばつがわるそうに顔を赤らめた。


「ご存知の通り、特務官は二人以上の相方バディと組むことになっていて、ダブル雫ってちょっと有名だったと思いますよ……いろいろと。」


聞いたことがある。

ダブル雫といえば結成早々複数の魔力食いを葬り去り、同時に弁償代もうなぎ上りと注目された2人組特務官だ。

別名 ”地獄の茨姫”と”暴走列車2号”。

だが最近その噂も聞かなくなり、喰われたかと思っていたが……


「ちょっと、人のことを勝手に殺さないでよ。」


「では、どうしてここ最近、不調だったのですか?」


相方バディ……円香姉まどかねぇが病にかかって引退した。」


「それはそれは……」

残念ですねと続けようとしたら、突然の雄叫びにそれは遮られた。


「なによ、引退理由が”恋の病”って、まんま寿退社じゃない!」 


「は、はぁ。」


「こちとら彼氏がいたことすら無いわ! リア充爆発しやがれ!」


いやもう、まさに魂の叫び。

俺はマジで軽く引いた。


「まぁ、そんなことはいいとして、要するに、今の私は相方バディがいない、フリーな訳ですよ。しかも、こんな時期に相方バディを欲しがるやつはいないし、一人だと正式な仕事ができないんで。それで仕方なく適度な魔力エサを撒きつつ一人でも倒せそうな小物を掃除して時間をつぶしていたら、営業マンさんが釣れたってわけですよ。」


「では、なんで魔法について知らないふりを、したんですか?」


「え? 面白そうだから。」


頭痛がさらにひどくなった気がする。


「いや、だって営業マンさん自体が面白そうだったし、訓練所に行けば相方バディ候補も探せるし。」


「大学は……?」


「行ってますよ。 いわゆる兼業ですね。」


ため息をついてさらにぐったりとうなだれる。

俺の二日間と財布が薄くなったのは全て無駄だったのか……。


17


「『『徳永 永二』魔法協会系列の子会社に就職2年目。使用可能魔法は、火、水、土、風、緑の初級魔法のみ。使用属性こそ多いが威力はあまり認められず、また、魔力も測定の結果ではあまり多くはないという値が出ている。超能力等の先天性魔法の才能もなし。戦闘系職種には適正が無いと自他ともに認めている。』以上、ちょっぴり盗み見てきた営業マンさんのデータですが、なんか変だと思いません?」


「それは、ほかの人のも、見てきたんですか?」


「はい。ちょうどおとといに本部にいく用事があったもので、全部一通り予想のつく方の分は。あ、そのときに草加部くさかべ教官にも釘を刺しておきました。」


あぁ、だから教官、顔が引きつっていたのか。


「で、そちらも実際どうなんですか? 少なくとも魔力の値は嘘っぱちだと思うんですが。」


何回目かわからないため息をついてコーヒーをあおる。

コーヒーはすっかりぬるくなってしまっていた。


「魔力を計る日は、前日に夜遅くまで魔法の練習をして魔力をなるべく使い切るようにしていましたから。だから魔力の値が小さかったんだと思います。ただ、他の所はおおまかあっているかと思います。」


「嘘つき。」


「方便ってやつですよ。」


手に魔力でできた小さなナイフのようなものを作り出す。


「本来、魔法は自然本来の力を借りなければ形作れないものですから、その時点でこれはイレギュラーすぎます。何せ属性の無い、無属性ですから、対になる、打ち消し合う属性もありません。多分、先天性のものだとは思いますが、その恐ろしさは十分理解しています。だからこそ、こんな面倒なものは表に出すべきではないと思います。」


今度は彼女のほうがため息をついた。


「まず、説明不足が目立つ。そもそも”魔法とは何か”についてもちゃんと説明してないし。」


「は? えっと……」


「次に、セールスポイントがよく練られていない。しつこく迫ることによってごり押しするのは最低。」


「あの……」


「それから、接待費がかかり過ぎ、そんな格好で話しかけたら警戒されるっていうか似合わない、言葉遣いも無理してる感じで変、全体的に怪しい、脳筋、へたれ。」


「いい加減に……」


「以上、営業マンさんの今の職業における欠点です。しかし、特務官でしたらそれらは全て解決! どんな格好、口調でもかまわないし、脳筋なんかあふれるほどいます。お給金もちゃんと仕事さえすれば今と変わりませんし、むしろ自由な時間が増えてふりーだーむ!営業マンさんの長所を生かし、地域の生活を一緒に守りませんか?」


「だから、オ……僕には無理と言ってますよね。魔法がほとんど使えないんですよ。」


「確かに、営業マンさん自身はへたれです。営業マンさん一人では魔力食い単体をなんとか足止めするくらいしかできないわ。しかし、私という攻撃手段を付けたら?」


「そもそもやる気がないんですが……」


「あーもう、しつこい! 誰かを守りたいと思ったことはあるでしょう?」


「だから、俺には無理だって言ってるだろう!」


「営業マンさんだけなら無理でも、私とペアなら平気よ。」


勝手なこと言うな!

そう怒鳴りつけようとしたが、彼女の黒に近い紫の瞳に見つめられてのどまできていた言葉が霧散してしまった。

木枯らしが熱くなった頭を冷やしていく。


早乙女さんは俺から目をそらさない。


「そもそも、営業マンさんが今守っているのは何?」


「それは……」


俺が守っているものってなんだ?

俺には力が無い。

だから、俺には何も守れない。


いや、守れないと逃げているのか。


薄々は感じていた。

それを直視したくなかっただけだ。

俺は……俺を守るために言い訳をしている。

あの日、智代を守れなかったことにおびえて、傷つくのを恐れた。

それから逃げて、避けて、今ここにいる。


多分、早乙女さんもそれを確信している。

それを確信していて、それでも俺を求めてくれている。


「はははっ」

額に手を当て空のほうを見る。

寒々しいくらいに晴れ渡った空には煌々と輝く月と、それに負けじと小さく瞬く星があった。


ここで断ったら、俺、かっこわるすぎじゃないか。


「営業マンさんが矛を持たないように私も盾を持たない。だから、探していたんです、私のバディを。」


だから、

「私と契約して相方バディになってくれませんか?」


最後までよんでくださりありがとうございました。


誤字脱字や内容等のご指摘、ツッコミや感想などをいただけたらうれしいです。

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