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その4

10


キーンという耳鳴りがする。


火の玉はどうやら近くに着弾したようだ。


私はこの営業マンヤロウのおかげでケガはない。


というか、かばってもらわなくても当たらなかったとは思うが。


それよりも、問題なのは営業マンコイツの手の位置だ。


突き飛ばした後、私に覆い被さるように倒れ込んできた営業マン。


その、手の置き場所が許せない。


これ、殴ってもいいよね? いいよね?


うん、よし。


簡潔に言おう。


花の女子大生の胸をわしづかみにするんじゃねぇぞゴラァ!


これが官能小説だったら、「あっ……あん、そこ……」とか言ってムラムラするのかもしれないが、ふざけてんじゃねぇ!


おいこら、今気がついたって顔をすんじゃねぇぞ!


せめてなんかフォローしろよ!


下世話な冗談でも言って黙って殴られろ!


「まな板」とか「ちっぱい」とか言ってくれば遠慮なく殴れるのに!


なに普通に困っているんだよ!


こっちも反応に困るだろうが!


私の、この、どうしようもない気持ちをどこにぶつければいいんだぁ!


「……いつまで触っているんだゴラァ!」

結果、下から思いっきり頭突きを喰らわせてやった。


悲鳴を上げて床に転がる営業マンドヘンタイ


大げさにゴロゴロと転がる様を見て少し胸がすっとした。


へっ、ザマぁみろ、このヤロウ。



……私の胸ってそんな反応に困るものなのか……。




「なんか変なところで爆発したような……?」


違和感を少し感じた前田だったが、もんどりうって床を転がる徳永と真っ赤になった早乙女のフォローのためにそんな疑問はどこかに紛れてしまった。


ついでに言うと、関は今なお生死の境をさまよっていた。



11


日もすっかり傾き、辺りが暗くなったころ。


私は送っていくと主張する営業マンさんと二人で帰路についていた。


大きめの公園の中を通り抜け、駅のほうへと向かう道。


月と街灯が明るいからか、ここからだと星はまったく見えない。


ふと横を歩く営業マンさんを見ると、散々謝り尽くしたせいか今日一日でほんのりやつれている。


まぁ、私をかばおうとしたことは確かだし、別にいいんだけど。


「じゃあ、好好軒のミラクルラーメン大盛りで手を打ちましょう。」

と譲歩したらなんか顔が青ざめたけど、そのぐらいいいよね。


というか、文句は言わせない。



「短い間でしたが、見学してみてどうでしたか?」


「いろいろ見たはずなのに、最後の試合と営業マンさんヘンタイさんのおかげであんまり印象に残らなかったです。」


「その件は本当にすみませんでした。」と本日何回目になるかわからない謝罪をする営業マンさん。


謝ればいいってものじゃないのに、とイラッとしたが、口に出す前に営業マンさんが私にブレスレットを差し出して来た。


銀色の小さな鎖でできた輪に一粒の青い石のチャームが付けられている。


街灯にかざしてみると青い石はまるで小さな星のようにキラキラと光を反射させていた。


「これは、魔力を押さえるブレスレットです。魔力を持つ人はみんなちゃんと魔力をコントロールできるようになるまで魔力を押さえる装飾品を身につけることになっているんですよ。仮に施設でバイトをしないとしても、これは肌身離さず付けていてください。魔力を無闇矢鱈に出していると災いを招きますから。」


そういって、私の手からブレスレットを取ると、そっと私の左手につけた。


「似合いますよ。」


私の体がちょっとこわばったのに気がついたのか、安心させるようににっこりと笑った。


なんだか、全身がむずかゆい。


特に左手の辺りが超かゆい。


いま、無性にこのブレスレットを外したい衝動に駆られている。


できることなら、このままブチッと思いっきりちぎってしまいたい。


私、いつもブレスレットは右手に付けているから。


あ〜、だめだ、我慢できない。


「あ、あとで自分で付けますから。」


そう言って私はそそくさとブレスレットを外しにかかった。


大丈夫。


今、暗いから顔が赤いことなんか気がついていないはず。


チェーンを外すのに時間のかかる自分の不器用さが情けなくなった。



12


ち、沈黙が重い……!


なんかあるよね、こう、お互いに話しかけづらいときって。


いつもだったら全然気にしないでぼーっとしていられる、というか、話題を合わせるのはめんどくさいと思うたちだからラッキーって思うくらいなのに、今、この沈黙がかなり気まずい。


こういう時、話しかけようとすると、「「あの……」」とかぶってしまうのがセオリーだが、その話しかける話題が見当たらないのにそんなハプニングは起こりようもない。


あー、はやく、はやく着いてくれ。


じゃないと、この沈黙につぶされそうだ。


暗い夜道の中、沈黙を破ったのは営業マンさんのほうだった。


「……僕もだいたい高校生くらいのときに魔力持ちだってわかったんですよ。」


「まったく魔法とは関わりのない生活を送っていたんです。本当に普通の家に生まれて、生活して。魔法なんて小説だけの世界で、年相応に夢想することはあっても本当にあるとは思っていませんでした。」


とうとうと過去を語りだす営業マンさん。

その表情はわからないが、声のトーンは少し低くなっている。


「そんなある日、僕の漏れ出る魔力に惹かれた災厄を呼び込んでしまったんです。」


少しづつ歩調がゆっくりになる。

振り向かずに歩いているから、顔はまったく見えない。


「幸いなことに大けがになる前に特務官が駆けつけてくれたので僕はこの通り無事にすみましたが、あのままでいたらと思うとぞっとします。」


「僕?」


「その日は妹と一緒に買い物に行っていたんです。その帰り道に災厄と遭遇してしまって……。命に別状は無かったのですが、歩けなくなってしまいました。」


立ち止まり、営業マンさんがこちらを向く。


表情を見ようとしたけど、暗くてよく見えない。


ただ、私を見つめる焦げ茶の瞳だけが暗闇のなかでもはっきりと見えた。


言葉を選ぶような沈黙のあと、目をそらさずにゆっくり口を開く。


「魔力の扱い方を学ぶことは、厄災から身を守るすべを学ぶことです。たとえ誰かのために戦う意思が無いとしても、守りたいものがあるなら、ちゃんと魔法を学ぶべきだと思います。」


そういいきったあと営業マンさんはくるりと前を向き、すたすたと歩きだしてしまった。


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