その3
1/14 徳永君のへなちょこ具合を加筆しました。
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事情説明も終わったのか、前田さんが合流してきた。
いわく、「久しぶりに実践所の教官に挨拶したいの」とのこと。
こっちに気を使わせない心遣いがとてもすてきです!
「こんにちは、教官いますか?」
「おぉ、来たかへなちょこ。」
「お久しぶりです。それと、へなちょこは勘弁してください。」
「何をいっているんだか。体術、魔力、その他諸々全て平均か少し下。あまりの普通具合におらぁもうあきれたよ。そんなお前なんかへなちょこで十分だ。」
「は、はぁ。すいません。」
「そんなことより、そちらが例の……、」
とこちらを見たところで教官がピシッと固まった。
「初めまして。今日訓練所を見学にきました早乙女です。」
「教官?どうしたんです?」
「お、おぉ、すまん。前田君まで来ているとは思わなくってな。今ちょうど訓練生の演習が終わったところなんだ。」
と指し示した方を見ると、だいたい高校生くらいに見える男女4人がおのおの休憩をしていた。
「あれ?ここ企業の施設じゃ……?」
「あの子たちは魔法使いになる訓練のためにここに来ている子達です。ここでは企業に入る前、放課後にバイトのような形で訓練をする事ができるんですよ。」
「まぁ、魔法使い養成所ってところかしら。ここで訓練してくれれば魔法使いとして即戦力になりますし、企業としても優秀な人材が欲しいですから。みんな学生生活とここでの訓練を両立させているから安心してね。」
「あ、徳にぃだ!」
「”水球の紗代子”もいるぞ。」
「おい、そんな風に言ったら絞められるぞ!」
なんか、物騒なのも聞こえる気がするが、まぁ気にしない。
だって、こんなにほわほわした前田さんがそんな物騒なわけがないもの!
「紗代子さん!僕と稽古してくれませんか!」
そういって前に出てきたのは、背の高い世の中でいうイケメンって感じの男の子。
色素の薄い髪や肌はどこか外人さんのような雰囲気を醸し出していて、足も長く、すらっとしている。
「ぜんぜん違いますね。」
「まぁ、元気ですよね。」
「いえ? そういう意味ではなくて、いろいろなところで敵わないんですね営業マンさん。」
あ、営業マンさんががっくりとうなだれた。
「オレ、今日こそ紗代子さんに勝って、一人前と認めてもらうんだ!」
「え、でも、今やることはないんじゃ……」
「いやいや、いいじゃないか? せっかくだから、魔法がどんな感じのものか見てもらういい機会じゃあないか。」
「教官がそうおっしゃるんでしたら……。」
お? いつの間にかになんか決まったらしい。
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体育館の全面を使った魔法訓練、だそうだ。
ちなみに、ギャラリーは壁に寄りかかって観戦だ。
「ねぇ、これっていつものことなの?」
「あー、まぁそうですね。よほど忙しかったりしない限り会うたびにやってますよ。もう40回はやっているんじゃないですかね?」
「で、全勝と。」
「そうですね。前田さんが強いのもありますが、義宏が圧倒的に不利なんですよ、これ。まぁ、見てればわかりますよ。」
ふーんと生返事をして中央に視線をずらす。
イケメン君はさっきと同じ格好だけど、前田さんはつなぎのようなものに着替えていた。
「それじゃあ、ルールはいつも通り。義宏がギブアップするか、前田君に有効だと思われるような攻撃を入れること。問題ないな。」
「ええ、いつでもいいですよ。」
「紗代子さん、今日こそ勝たせていただきます。そして、あなたに認められて、プロポーズするんだ!」
「あーはいはい。わかったから。勝てたら、ね」
おぉ、前田さんが意外と好戦的だぁ。
うーん、挑発しながら楽しんでるようにみえるなぁ。
なんというか、弟をからかって遊んでいる年上のお姉さんって感じかな。
「では、このコインが落ちたら試合開始だ。」
そういって教官が五円玉を宙に投げる。
そして、黄銅が高く音を響かせた瞬間
ここは真夏になった。
ゴウゴウと燃える炎が二人を囲い、前田さんを飲み込もうとしている。
「ねぇ、これって火事とか大丈夫なの?!」
「心配ありません! ここはこのようなこと専門ですから!」
そんなことを言っているうちに前田さんの包囲網がだんだん狭くなり、炎が前田さんをなめようとしてくる。
だが、当の前田さんはいたって涼しげな顔をしている。
そのとき、一際大きな炎が前田さんに襲いかかった!
きゃー、前田さんあぶなーい。
「大丈夫ですよ……って、全然心配していないようですね。」
「当たり前じゃあないですか。 前田さんは営業マンさんと違って優秀なんでしょう?」
それに、40連勝ってことは、圧倒的な力の差っていうのがあるはず。
つまり、私が心配するのは前田さんに失礼なぐらいよ。
炎が前田さんをなめるたびに、ジュッと音がして一霧のようなものが出てくる。
ならばというように、前田さんを囲む炎がゴォッと高くなり、ドーム状に前田さんを包みこんでしまった。
しかし、巨大な水の柱がドームを打ち破り炎を霧散させる。
「まったく、いつも通りのことしかしないのかしら。」
「いやいや、まだまだこれからですよ。」
鞭のようにしなやかに舞う炎を水でできた剣で切り裂き、また、波のように襲いかかる火焔は水の壁でうち消す。
火の粉が踊るように舞い飛び、水滴はキラキラと反射する。
力強い爆音で鼓膜を震え、水を打ち付ける音は芯まで響く。
熱気と蒸気が充満する空間で、誰一人として二人の戦いから目をそらすことができない。
関くんが果敢に攻め、前田さんが躱し、隙を見てはチクチクと攻めて。
……攻める獅子と隙を見ておちょくる黒豹といった所かしら。
あぁ、前田さんのイメージが変わっていく……。
「あつくなると夢中になってしまうんですよねぇ……。」
と営業マンさんはしみじみとした感じでつぶやいた。
相変わらず白熱した戦いを繰り広げているところ悪いんだけど
エマージェンシー! エマージェンシー!
乙女の花摘みにいきたいです!
ただ、この空気の中でトイレに行きたいというのはいくら私でもハードすぎる。
だけど、さっきからじりじりと膀胱に圧迫感を感じていて、ちょっとまずい。
いや、10分くらいなら待てますよ?
でも、見てたら前田さんの顔がかなり輝いているので、しばらく終わる気配がない。
だったら、今行ってもあんまり変わらない気がする。
というか、行かせてください。
てなわけで、こっそりと出口の方に向かって壁沿いに歩きだした。
あー、関君がハンマー状になった水で殴られた。
凪いだ水面を思いっきり叩くと結構痛いんだよね。
容赦ないなぁ、前田さん。
お、関君が火の玉を飛ばして反撃してる。
びゅんびゅんと飛び交う火の玉。
あれって、ちゃんと狙いを定めているのかしら。
なんか、当てずっぽうに飛ばしているって気がするんだけど……。
って、一個こっちに飛んできてるっ!
火の玉が私に近づく様がまるでスローモーションのようにはっきりと見える。
炎の尾を引きながらだんだんと視界のなかで大きくなっていく。
あ、逃げなきゃ。
迫る火の玉を避ける体勢を取る前に、誰かにドンっと突き飛ばされた。




