その1
『特殊営業マン 徳永君』を覗いてくださりありがとうございます。
よかったら、おつきあいよろしくお願いします。
1
「僕と契約して魔法使いになってみませんか?」
スーツ姿の営業マンにそう持ちかけられて、私はダメダメねと言い返した。
「なんて中途半端なのよ。ここはひとつ、『僕と契約して魔法少女になってよ。』くらい言わなきゃ、ネタとしてなっていないわ。」
「あ、そこなんですか。てっきり僕はもっとほかのところかと……」
「それだけじゃないわよ。いきなりそんな突拍子もないことを言ってまじめにとられると思っているの?
スーツで話しかけた時点でもう怪しさ満点よ。 私じゃなかったらおまわりさんを呼んでいるわ。」
「はぁ。」
「なんでそんな覇気がないのよ、カモだと思って捕まえた相手にいいように言われているのよ。」
「いや、まぁ、その通りなので。」
「はぁ、情けないわねぇ。まぁ、いいわ。面白かったし。それじゃあ、あなたと契約してくれる子がいるといいわね。」
そう言って去ろうとすると、スーツ姿の営業マンは慌てて私の前に回り込み、行く手を阻んだ。
「とりあえずそこの喫茶店に行きませんか。話だけでも、会計はこちらが持ちますから」
と当たり前のことを言って泣きついてきた。
「そんなことしたらますます怪しいじゃないのよ。」
「お願いですから。せっかく見つけた見込みのありそうな方をここで逃したらし……上司にしかられてしまいます。」
「ここで無理矢理引き止めて問題になったほうが上司に迷惑だと思うけど?」
「いや、まあ、そうなんですが……、お願いしますよ、話をするだけでいいので。」
「急いでいるので。」
「そんなはずはないでしょう。あなたは休日の暇を持て余して町中をぶらぶらしていた、そうでしょう。」
私の顔は驚愕で引きつった。
確かにその通りだが、どうしてそんなことがわかるのか?
「もしかして、ストーカー?」
「いや、違います。ストーカーなんかじゃあありません。」
「きゃあー、おまわりさん、わたしすとーかーにおそわれていますぅー。」
「ちょっ、話をきいてくださいよ、あーもう、とりあえず、そこの喫茶店にいきましょう。」
そう言われて、私はその場の流れで近くのチェーン店の喫茶店に連れ込まれた。
2
「ブルーマウンテンと三種のベリーのカシスタルトをください。」
「ほんとに遠慮がありませんね。」
「だって、無理矢理連れ込まれたんですよ。これくらいは迷惑料でしょう。」
怪訝そうな顔をする店員に、営業マンは慌てて一番安いコーヒーを注文した。
「で、どうして私が散歩中だとわかったんですか?すとーかーさん?」
「だから、ストーカーではありませんって。第一、ストーカーだったら自宅訪問して営業していますよ。 一ヶ月間も探し続けたんですから。」
「へぇ、それは大変でしたね、すとーかーさん。で? どうしてわかったんです?」
「だから……、もういいです。えっと、あなたの格好から推測させていただきました。」
そう言われて私は自分の格好に目をおとす。
「まずそのスニーカー、はき慣れていそうですがおしゃれをしてどこかにいくような靴ではありませんよね?
ジーンズにパーカーという格好もおしゃれというより全体的に動きやすい格好ですが、スポーツをしにいくほどではない。
かつ着替えとみられるような大きな荷物ももっていないからどこかに運動をしにいく訳でもなさそうです。
すっぴんと言っていいほど薄いお化粧をなさっているようですから誰かに会いにいく用事もなさそうだと思いました。
それに、今日は日曜日ですからお仕事の可能性は低くなります。
と、すると、誰かに会いにいく用事もなく町中を散策しているか、用事と言ってもコンビニに足を運ぶくらいではないかと予想がつく訳ですね。」
「なんだ、全部見たまんまのことじゃない。」
「まぁ、その通りですね。」
「それに、いろいろと失礼なことを言っている気がする。」
「お気に障ったようでしたらすみません。」
「スッピンでもかまわないほど親しい人に会いにいく途中だった可能性はかんがえなかったの?」
「その可能性も考えました。ですが、何よりの証拠はここについてきてくれたということで間違いないとおもいますが?」
「無理矢理連れ込んでおいて何を言ってるんですか。あーあ、せっかくの休みなのに。」
「それは失礼しました。そのかわり、おいしいケーキとコーヒーをごちそうさせていただきます。」
「せいぜい元は取らせていただきますよー。ところで、なんで魔法のせいにしなかったんですか? あなたが私に話しかけたのって痛くて怪しい魔法について話したいためだったんでしょう?」
そう言うと、営業マンさんは大きく目を見開き額に手をあて「その手があったか……」とつぶやいた。
「ただでさえ突拍子もないことを言っているんだから、本気でだましたいと思うなら身近な例を使わなきゃ。あれもこれもと小さな嘘で塗り固めていくうちに信者はついてくるようになるんじゃない?」
と適当なことを助言してみる。
ちゃんとした助言をしてやる義理など全くないのだから、もちろんこれは口から出たでまかせだ。
私自身、身分は学生なのだから、営業などしたことないしね。
こんな怪しい営業は社会人になってもしたくはないが。
「しかも、この状況は”幸せのつぼ”を売るシチュエーションそのまんまじゃない。わかってて引っかかるやつはいないわよ。」
まんまと連れ込まれた状況を棚上げにして追撃すると、営業マンは軽くうつむいた。
どうやら落ち込んでいるようだが、そこらへんも営業マンらしからぬ態度だってことに気がついていないようだ。
3
シックな制服に身を包んだ店員さんがおいしそうなケーキとコーヒーを持ってきたところで、営業マンさんは復活して「遅ればせながら……。」と名刺を差し出してきた。
『株式会社 リッポーカンパニー 人事営業部 徳永 永二』
「人事部?」
「いやぁ、人事営業部って言うと偉そうですけど、ただのスカウトマンですよ。」
まだ新人なんですけどね、と目を泳がせていっている様は不審人物だが、あえて指摘はしない。
「こういうのって真っ先に渡すものじゃあないんですか、営業マンさん」
「すみません、話を聞いてもらいたくって焦ってしまいまして……。あと、不審者ってなんですか。」
「あなたのことですよ。道ばたでうら若い女性を連れ込んで無理矢理話をしようとしているでしょ。」
「その説明だと犯罪者じゃないですか。」
「違うんですか?」
ぐっっと言い返せない営業マンを尻目にケーキにフォークを入れる。
ベリーのソースで着飾ったケーキは、少し崩れてもなお美しくおいしそうね。
「あなたに声をかけたのは、我が社へのスカウトが目的です。我が社では見込みのある魔法使いの卵をみつけて教育し、様々な分野で活躍してもらいたいのです。」
ケーキを口にいれ甘酸っぱいハーモニーを堪能していると、営業マンが水を差してきた。
「ただ、魔法の才能のある人物は数少なく、うちの業界は常に人不足なのです。ですから私のように街道でスカウトをしてまわる者もいるわけです。まぁ、それでもなかなか見つからないんですがね。」
「ふーん。んで、あなたの会社では何をやっているの?」
「我が社では主に新人魔法使い教育、ならびにスカウト、派遣をしています。魔法使いの需要はとても高いので高収入が期待できますよ。あと、もうひとつは被服品の開発もしております。」
「それって、魔法使いのマントとか?」
「はい。表では開発するのが難しい被服装飾品をあつかっていますね。大きな分野としてはその二つくらいでしょうか。」
「へー、そう。」
「あなたの場合はまだ学生とのことですので、バイトという形で研修を受けてもらうことになると思います。」
「へー。」
「研修といっても魔法の訓練ですので、放課後に施設に立ち寄ってすこしばかり訓練してからご自宅へ帰るという感じになると思います。休みなども容易くとれますよ。」
「ふーん。」
「時給もそこらへんのファミレスよりも高いですし、お手軽なバイトとしていかがですか?」
「そっかぁ〜。」
「………では、一度職場にいらしてみてはどうでしょうか? 訓練場で訓練している様子を見ればきっと魔法を使ってみたくなると思いますし。訓練場は最近新しくなったのでとてもきれいですよ。きっと気に入ると思います。」
「え〜、なんかあやしいですし、いやです。」
「そんなことを言わずに、ぜひ来てみてくださいよ。」
「だって、のこのこついていってホテルにでも連れ込まれたらどうするんです?
あぁ、か弱い乙女の私は飢えた狼に襲われてその純潔をうしなってしまうわ!」
「……そんな風にみえるんですか。」
「だって、怪しいばかりでどこにも信用するところないじゃあないですか。それどころかマイナスですよ。」
涙目になった営業マンは女性社員をつれてくるからと泣きついてきた。
そこまでしつこいのは営業には向いているのかもしれないが、やられる方はたまったもんじゃない。
周りの目線が痛いからやめてほしかったので、仕方なく三日後の水曜日の夕方にここに待ち合わせることになった。
お会計? もちろん営業マンに払ってもらいましたよ?
追加のあずきの乗った抹茶味のホットケーキ込みでね。
薄くなった財布を見て青ざめる様はおかしかったなぁ。
「そういえば、あなたのお名前を教えてくれませんか?」
まったくもっていまさらね。
ドアノブをつかみながら軽くため息をつく。
「早乙女 雫 よ。」
そう振り向きながら答えた彼女の顔は、秋の日差しに遮られ、見ることは叶わなかった。
読んでくださりありがとうございます。




