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吸血姫は薔薇色の夢をみる  作者: 佐崎 一路
第五章 吸血の魔神
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第七話 廃龍暴走

 デカァァァァァいッ説明不要!!


 その怪物を目にして最初に浮かんだ感想がそれだった。

 兄丸さんの移動要塞百足(ムカデ)も大きかったけど、あれがワンボックスに対する三輪車に思えるサイズだ。


 てゆーか、キモッ! キモいよ、この怪物っ。

 全体が肌色でテカテカして粘液みたいのズルズル流して……。

 百足(ムカデ)はまだメカだったから許せるけど、これはないわーっ。チェンジだわチェンジ!


「――ふむ。どうやら人間や家畜、動物、魔物まで渾然一体化した合成生物(キメラ)のようですな」


『なに、あれ?』という先ほどのボクの疑問の声を受けて、分身体『サーチ・アイ』を作って飛ばしたのだろう。

 触手と翼を持った単眼のモンスター・ゲイザー――別名『見つめる者』『観察者』の異名を持ち、ボクの従魔の中でもトップクラスの強力で鋭敏な感知・分析能力を持つ、七禍星獣(しちかせいじゅう)№3にして筆頭の周参(すさ)が、素早く走査の目を走らせた。


「すべての部分が吸血鬼化、もしくはそれに準じた状態として一つの細胞(セル)として使用されております。中心核になる部分は存在しません。全体が一つの擬似筋肉であり頭脳でもあります。破壊する場合には、順々に細胞(セル)を破壊していくか、一撃ですべてを消滅させるべきでしょうな」

 取りあえず目に見える形で面に現れている部分に関しては、漏れなく把握・解説してくれる。


「ふうん。全体が吸血鬼ってことは、ナメクジというより蛭って感じかな? こいつ自身は吸血鬼の本能はあるわけ?」

「ございます。いえ、その本能が特化して暴走状態といったところですな。ご覧ください。奴が移動した場所を。すべて砂漠化しております」


 言われてみれば最初ナメクジが這ったよう……と思われた跡は、すべて砂漠化した大地の成れの果てだった。


「もしかして木や草も根こそぎ吸収してるわけ?」


 なんぼ血に飢えて暴走しても樹液までは啜らないよ、ボクは。どんだけ飢えてるんだろう、こいつ。

 と思ったら、答えはさらに予想を上回っていた。


「生き物どころか、空気や大地、それどころか光の精霊力をも吸収しております。奴の周りでは光が歪んでいるのにお気づきでしょうか? 本来、日中は活動が沈静化する吸血鬼ベースの合成生物が、この時間帯に活動しているのもその影響かと――おっと。近づいた分身体が捕獲されました。爆破します」


 ぽんっと音を立てて、怪物のそこかしこで湿ったカンシャク玉程度の爆発が起きた。

 周参の分身体の爆発は、ちょっとしたガスタンクの爆発並みの威力があるのに、上空から見てほとんどダメージを与えた様子はなかった。


「凄まじい吸収力ですな。捕まった瞬間に分身体の生気があらかた吸い尽くされました。接近するのは危険ですな」


「捕縛されるほど分身体を接近させたのか、周参?」


 天涯(てんがい)の疑問に、周参は「いいえ」と首(?)を振った。

「撃墜されました。種類としては光術系魔術……聖堂十字軍カテドラル・クルセイダーツとやらが使用した聖光弾(ホーリー・ライト)と同一のものと確認したしました。ただし威力はおよそ20倍と桁違いですが」


「20倍!?って……私が言うのもなんだけど、普通の吸血鬼が聖光とか放って平気なの?」


「いいえ。当然放った部分と周辺の細胞(セル)は反動で自滅しました」


 そりゃそうだろうね。

 耐性のある私だって自分で放つ時には若干反動で肌荒れがするんだから。


「それって、分身体から吸収できた生気と攻撃に使ったエネルギー量と釣り合ってるの?」


「まったく釣り合っておりません。大赤字ですな。つまりコヤツは馬鹿です」

 あっさりと断言する周参。


「あー、やっぱ馬鹿なんだ」

 見るからに馬鹿っぽいもんね。


「いかがいたします、姫。このようなお目汚し早々に始末いたしますが?」

 いかにも目障りという口調で天涯が提案してきた。

 というかもう殺る気満々で、全身に雷光をまとわり付かせている。


 そして随伴していた巨大な暗黒の渦巻き(ボルテックス)――十三魔将軍の次席たる出雲(いずも)も、回転速度を上げてアップを開始した。


 これは止められないな……。


「あーっ……まあ、会議に遅刻しないようにさっさと片付けてね」


「勿論でございます」

「……承知いたしました。主様」


 刹那、待ってましたとばかり、天涯の雷光の矢が怪物の頭部を中心に撃ち付けられ、同時に出雲の全身から暗黒色の光線が次々に放たれた。


 突然の猛威に――考えてみれば、通りがかりに遭遇して見た目がキモイからと攻撃してるんだよねぇ。通り魔じゃね?――怪物が身悶えして、声にならない悲鳴をあげる。


細胞(セル)破壊率3%。このペースでは完全消滅まで15分ほどかかる計算ですな」

 周参の冷静なツッコミに天涯が咆えた。

「一撃で破壊してくれる!!」


「……本気を出そう」

 出雲も大技を出すタメに入った。


細胞(セル)の修復率0.8%。ふむ、総エネルギー量は減少したままか。修復しても見た目だけだな」


 その時、天涯の口元に円形粒子加速器(サイクロトロン)が形成され、そこから天をも焦がす超超超高圧電流が放たれた。崩滅放電咆哮ラグナ・スプライト・ブレス。素粒子崩壊により、いかなる物体も消滅させる天涯の必殺技。

 そして、同時に出雲の奥義『重力加速消滅波グラビティ・アクチュエータ』――重力波を使って物質の運動を加速させ消滅させる――が放たれた。


 どちらも本来は地上で使うような技ではないのだけど。

「……つーか、普通の人間がいたら垂れ流しの放射線とかで死ぬレベルじゃないかい?」


 技の余波でおもろいほど削れる自分のHPを眺めながら、ボクは密かにため息をついた。

 現在、命都(みこと)と従魔合身してない素の状態なら、たぶんひとたまりもなかったろうねぇ。


 轟音と閃光で、目を閉じていてもホワイトアウトした視界がようやく戻ってきたところで、地平線の彼方まで延々と黒焦げ……というか炭状になった怪物の屍骸が転がっていた。

 上部のほとんどは抉り取られてなくなり、あちこちがぶつ切りに寸断されている。


「ふん。まだ少々燃えカスがあったか。私としたことが不甲斐ない。――周参。こやつはまだ息の根があるか?」


 天涯の問い掛けに、周参がぐるりと走査(サーチ)の目を向け、愕然とした様子で大きく目を見開いた。

「現在、細胞(セル)の修復率12.3%! 修復速度が先ほどまでの256倍! 総エネルギー量26.37倍に増加!!」

 切迫したその言葉が終わらないうちに、炭化していた表面を破って、無傷の肉面が膨張するように――いや、確かに膨張と収斂を繰り返しながら――現れた。


「なんだとォ!?」


 追撃の雷撃を放ちかけた天涯を、周参が慌てて静止した。

「お待ちください! こやつ、雷と重力波を喰うことを学習いたしました! 攻撃するのは餌を与えるだけですぞ!」


「……うそ」

 ヤバイなんてもんじゃない。天涯は基本、電撃と光撃がメインなのでまだ光術スキルを持ってるけど、こいつもともと光を喰っていたみたいだから多分、光撃には耐性があるだろう。つまり現状打つ手なし。

 出雲にはもう一つの奥義で暗黒粒子(ダーク・マター)ビームがあるので、これは有効な筈だけど、天涯と二人で同時攻撃をして仕留められなかった相手だ。

 一撃で消滅させるのは無理。逆にこれを喰うのを学習されたら、こちらの切り札が一枚無くなることになるから、いまは半端に攻撃しないで手札は温存しておくべきだろう。


 見る見る復元して以前より二周りも大きくなった怪物を見ながら、ボクは唇を噛んだ。

 甘く見ていた。

 これまで天涯たちの力押しでどうにかなっていたので、今度もそれで通ると慢心していた。


 初見の敵の相手をするのに、これだけの戦力があれば充分とか、これだけ離れていれば安全とか基準はないはず。できるのは悔いのないよう万全の戦闘準備をすべきだったのに、戦う前からそんな簡単な心構えを忘れるなんて……。


「分が悪すぎる。ここはいったん引くよ」


「姫っ。まだ私めには充分な勝算がございます! あのような下等な害虫如き……」

 (ボク)の前で敵を斃し切れずに、それどころか逆に相手を強くしてしまったことで、プライドを傷つけられた天涯がムキになって戦闘の継続を進言する。


「天涯。別に1度撤退するのは恥じゃないよ。今日は相手の様子見ができて幸運だったと思わないと。最終的に勝てばいいんだからね」

 とんとんと背中を叩く。


「………。わかりました。この空域から離脱します。いくぞ、皆――」

 苦渋と煩悶がありありと感じられる態度で、天涯が翼を広げた。


 その時――。

「えーっ、緋雪ちゃんいっちゃうのー? ゆっくりしていってよ!」


 いつの間にかこの高度まで、怪物が鎌首をもたげていた。

 その頭の上。

 ちょっとした岬ほどもあるそこを、キコキコと三輪車を漕ぎながら、白い笑い仮面を装備した男がこちらへとやって来るのが見えた。


 この間見たときとは違って、もあもあの毛糸の帽子にセーターを着たその男の変わらない姿に、若干、脱力するものを感じながら、ボクは自然とその名を呼んでいた。

「ユ○クロさん……」


「――しま○らですし、おすし!!」

 三輪車から降りて、その場で雄叫びを上げるシマさん。

「取りあえず、立ち話もなんなので、こっちの廃龍(ニドヘック)の上でお話しませんか? 緋雪たん」


 ――廃龍(ニドヘック)ね。


「悪いけど、今日はこれから用事があるので、玄関先で失礼させてもらうよ」

 ポン、と天涯の背中を叩いて、離脱するように指示する。


「まあ、そうイケズなこと言わんと」


 猛烈な嫌な予感を覚えた。刹那、廃龍の全身が赤く輝いた。――いや、パーツになっている吸血鬼たちの目が一斉に爛々と輝いたのだ。

 その光を浴びて、ボクを含めた全員が空中で身動きが取れなくなった。

魔眼(イービル・アイ)の金縛り――!? そんな神祖の私が!?」

「馬鹿なっ! 姫の魔眼(イービル・アイ)すらそうそう受け付けぬ私が、このような下級の者に!?」

「ぐおおおおっ」

「ぐううっ、邪眼使いの私を束縛するとは……そうか! 数で確率を補ったな!!」


 周参の分析に拍手するシマさん。

「そのとお~り! 魔眼の効果はレベル差に応じて反比例してかかり難くなる。だから普通は自分より格上の相手にはかからないけど、確率はゼロじゃないお。増殖したこいつら魔眼全部を使えば、確率が0.00001%でも、どれかは効果があるってわけです。……ということで」


 そこでいったん口上を切り上げると、シマさんはいきなり廃龍の上を助走して、こちら……というか、明らかに硬直しているボク目掛けてジャンプした。


「緋~雪~たん――好きじゃあああっ!!」

 まるでどこぞの怪盗の三代目のように、飛び込みの姿勢で空中で着ているものを脱いで、パンツ一丁になる。


「にょああああああっ!?!」

 いきなりの貞操の危機に思わず本気の悲鳴が、硬直した口から放たれた。


 と、シマさんが覆いかぶさってこようとした瞬間、横合いからサンライト・フラッシュの攻撃が続けざまに彼を直撃して、

「のおおおおおおおおっ!?」

 間一髪、撃墜。悲鳴をあげながら地面へと落ちて行った。


「姫様、ご無事ですか!?」

 危ないところを助けてくれたのは命都配下のボクの親衛隊、権天使(プリンシパリティ)である四季姉妹たちだった。

『どうやら間に合ったようですね』

 従魔合身中の命都がほっとした声を出す。

 どうやら気を利かせて急遽呼び寄せてくれたらしい。


 ほっと胸を撫で下ろしたところで、身体の自由が戻っているのに気が付いた。

 どうやらコントローラーのシマさんがダメージを受けた衝撃で、魔眼の効果が切れたらしい。


「――全員離脱!」


 このチャンスを逃すわけにはいかない。急加速で、天涯を始め全員がその場を後にした。


「うううっ、やっぱあの人の相手は嫌だなぁ……」

 余裕のつもりか追撃してこないシマさんと廃龍を振り返りながら、ボクは改めて身震いした。

廃龍に対して、脱皮前なら、天涯・斑鳩・出雲のTOP3の力技で倒せたのですが、現在は無理です。

あと物理的な光は効果はありませんが、聖光はまだ効果があります。

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